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だいたい私は今、お金にすごく困ってる。
恥ずかしい話だけど前に付き合ってた彼氏に騙されて、50万円ほどの借金がある。
私は昔から生活は派手じゃない。
派遣の給料でもコツコツと返済することは可能だ。
でも、来月の更新がされずに無収入になってしまったら、さすがにマズい。
今の会社の事務仕事はあまり人とは関わらずに居れるし、地道な作業なので私の性に合ってる。
課長のご機嫌を損ねて辞めたくはない。
そして…気がつけば私はカラオケボックスで課長と身体が密着した状態で、昔の有名なデュエット曲をたどたどしく唄っていた。
カラオケに来たのは失敗だった。
課長は右手にマイクを持ち、空いた左手で私の手を握ったり、肩を抱いたり、腰を抱き寄せたり、果てはスカートの上からお尻まで触ってくる。
これはもう完全なるセクハラだ。
「やめてください!」
そう言って課長を突き飛ばして部屋を出よう。
何回もそう思うのにお金のことが頭をチラついたり、酔っている課長が私の態度に激昂したら、柔道の技で投げ飛ばされるのではないかと想像したりして、結局、私は課長のされるがままになっていた。
課長より年下とはいえ、こんな美人でもスタイルが良いわけでもないパッとしない私に、こんなセクハラをしてくるなんて課長は離婚で頭がおかしくなっているのだろうか?
それとも普段から、私を性的な眼で見ていたのだろうか?
ああ、イヤだ!
イヤだ!
イヤだ!
考えたくもない!
吐き気がしてきた!
地獄のようなカラオケが、やっと終わった。
なんて、ひどい目に遭ったの!
でも、これでやっと、この熊みたいな男から解放される。
とにかく今日1日しのげばいい。
明日になれば課長も目が覚めるかもしれない。
「昨日は済まなかった、鈴木さん。ちょっと飲み過ぎてしまって」
そう言ってくれたら、水に流そう。
私は借金を返さなくちゃならない。
そうだ、すっぱりと忘れよう。
課長はカラオケを出ると私の肩を抱いてフラフラと歩きだした。
ラブホテル街の方へと。
これはダメ!
もう限界!
課長が耳元で囁いた。
「鈴木さん、来月更新だよね」