第5話 小さな踊り子
「ほら、ユーリちゃん踊ってみて!」
すっかり秋の装いに変えた村の中心。
真新しいチュニックに身を包んだユーリを、村人が取り囲んでいた。
「――♪ ――♪」
見よう見まねのステップではなく、一定のリズムを配した足使い。
村で踊られる“田舎踊り”を教わっていたところ、それを見た村人が、おっ、と足を止め、また足を止め、いつしか大きな人だかりが出来ていた。
踊りの練習のはずが、村人たちも一緒になって踊り出し始め、誰かが食べ物を持ってくれば、別の誰かが飲み物を。そうしているうちに、一足早い、小さな秋祭りが始まってしまった。
「ユーリちゃんを見ていると、一日が楽しくなれる気がするよ」
中年主婦が言うと、見ていた者たちも揃って頷いた。
村人たちもユーリの事情を汲み、優しい眼差しで見守ってくれている。
着ている新しいチュニックは、バーンズばあさんが縫ってくれたもの。ユーリの服が小さくなっているのが気になり、布から織ったと言う。
ボブは小さな舞いに目を細め、胸の中で深くお礼を述べた。
『朱色の織り糸が余っていたからねえ』
朱色の長袖のチュニックシャツとパンツは、これからの季節に合わせ厚手のものとなっている。少し派手な色であるが、赤髪のユーリにはとてもよく映えた。
何より、そこに踊りが合わされば、まるで“揺らぐ炎”のような煌びやかさを醸し出すのである。
(炎、か……)
踊るユーリを見ながら、ボブはガレスからの言葉を思い出す。
――踊りを教えられる者をつけたいと思う
秋の初め。王城で舞踏教師を勤めると言う男が村を訪ねた。
しかし、彼はユーリの踊りを見るなり、逃げるように村を去ってしまったのである。
――私が教えられるのは人のみ。炎に教えることは出来ません
この世には、舞うだけで言葉や感情を伝える踊り子がいる。
それは〈舞姫〉と呼ばれ、彼女の踊りは『神より与えられし原初の炎だ』と称えられるほど、人の心に入り込むのだそうだ。
ユーリにはその素質がある――舞踏教師はそう告げ、去った。
(もしかしたら、国王や女王、マーセさんはこれを知っていて……)
しかし、ボブはすぐにその考えを否定した。
ユーリは何の思惑もなく、ただ好きだから踊っているのだ。
神から賜ったものにせよ、自分がすべきことはあの子が心ゆくまで踊れるよう、無事を護り、届けること。
それが、自身に課せられた使命なのである、と。