一人行動が身に染みてしまい、周囲への気遣いを怠ってしまいます
百合。
見た目は16歳、中身は65歳。
人生酸いも甘いも噛み締めた経験はあるのですが、他人との集団行動に慣れていないので、つい一人で勝手に動いしまいます。
魔法使いグロキシニアの部屋へ瞬間移動した。
わ! 明るい。
光球が部屋に沢山浮いている。
「フー、ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」
心なしかやつれた感じのグロキシニア。
可愛そうに寝不足ね。
「ごめんなさい。ちょっと色々あって遅くなってしまったわ」
私はしっかり寝てきたので疲れも無くスッキリしてる。
グロキシアは椅子から立ち上がり窓の方にある長椅子へ重い足取りで行った。
長椅子には、大きな物の上に深緑の布がかけられていて少し動いて見えた。
「起きて下さい王子。勇者が着ました」
グロキシニアは布を揺さぶった。
「……ちっ! やっとお出ましかよ」
布の下から騎士のムスカリが大きな体を伸ばしながら起き上がった。
「遅いんだよ来るのが! もう明け方じゃねえか」
早々に私に向かって文句を言ってくる。
相変わらず短気ねえ。
でも何でムスカリがここにいるのかしら?
「勇者様、先日頼まれた鍋や食器などの日用品を準備しましたので、こちらをご覧になってください」
グロキシニアは私が入れそうな程大きな布袋を引きずってくる。
私は袋の中の品を取り出して見た。
鍋や食器などの日用品は洒落っ気が全く無いけれど野営で使う物だし、この品でも妥協できるわね。
下着や日用着も生地の目が粗く色もイマイチだけれど、あの村の人たちが着用していた物に似ているしこれがこの世界の一般人の普段着なら仕方ないわ。
下着の形が全て紐パンだわね。
ブラもビキニの様に紐結びかぁ。
場所によって衣服は変わるものね。
この世界ではこれが普通なんだから。
慣れるしかないわよ。
それに男性のパンツもこの世界紐パンなのよ。
シラーの服を脱がした時の紐パン姿はすごく興奮したわ。
シラーの鍛え上げられた精悍な体に、局部のみ布で隠し腰とお尻にかかる細い紐。
あれはエロスの神様が作られた美しくて卑猥な作品だったわ。
あの記憶は忘れられないわ。
私が男物の紐パンを見てうっとり思い出に浸っているとゴホンっとグロキシニアの咳払いが聞こえた。
「あー、日用品はこれで大丈夫みたいね」
慌てて言う。
「ところで、食料は?」
そう、肝心の食べ物が無い。
グロキシニアは両腕に灰色の布に包まれた物を渡してきた。
布を広げて見ると干し肉と数種類の野菜とパンがある。
「野菜は今取れる旬の物でスープに出来ます。作り方はシラーが知っているでしょう」
「なるほど。
野菜は分かったけれど、このパンが凄く硬いし石のようだわ」
グロキシニアは不機嫌に眉間に皺を寄せた。
「ここでは一般的なパンです。
硬さが気になるならパンを薄く切りスープに浸して食べて下さい。
ここの食事については詳しくはシラーに聞いて下さい」
ああ、しまったわ。
日本でいったらお米を貶したみたいな感じよね。
このパンはこの国の人の主食なんだわ。
「食べ物も用意して下さってありがとうございます。
これで旅が出来そうですわ」
出来るだけ喜びを表現するため精一杯の笑顔で言ったが、グロキシ二アはあまり私を見てくれなかった。
「そのパンですが通常1個で1週間は持ちます。
腹持ちがよく2人で食べても1日半個ほどあれば足りるでしょう。
今回、4個パンをお渡ししますので、次回は1週間後にまたここへ来られると良いと思います」
そうなのね。
私も3日に1回は面倒だと思っていたし、1週間に1回くらいの方がいいわ。
「わかりました。
私の要求を聞いて下さって本当にありがとうございます。
また1週間後に貰いに来ますね」
前の人生でキャンプとかあまりしなかったからよく分からないけれど、これだけ貰えば不自由がないような気がするわ。
もしあればまたその時に言えばいいし。
「何だよ。和やかに終わりかよ。俺様がここにいる意味ねえじゃん」
欠伸をして長椅子に横たわりながらムスリカが言う。
ああ、彼はグロキシニアを私から守るためにいたのか。
先日私がグロキシニアを痛めつけたから。
でも、あの脅しは必要だったと思うのよ。
そのおかげで今回これだけ貰えたんだし。
「私も貰ってばかりでは悪いと思って今日はお土産を持ってきたわ。
良かったらムスリカもどうぞ。
お酒は飲める?」
酒と聞いて興味を示したムスリカ。
「は? 酒は好きだが何でお前が酒なんか持ってくるんだ?」
「ちょっと色々あったのよ。
グロキシニア、コップを2個貰えるかしら」
グロキシニアは戸棚からコップを2個出してきた。
私はここへ来る前、サテュロスの酒瓶から貰ったお酒をコップに入れた。
2人は怪しそうにコップへ鼻を近づけ匂いを嗅いだり、カップを回して色を見ている。
と、ムスリカがクイッと一口酒を飲んだ。
それを見てグロキシニアもちびっと飲む。
「へー、本当に酒だな。
しかも甘い珍しい味だが悪くない」
ムスリカは甘党なのかしら気に入った様子だわ。
「ええ、今まで飲んだ事が無い酒の味ですな」
グロキシニアは酒は辛口派みたいね。
「勇者様、このような酒をどこで手に入れられたのです?」
「全部話すと長いのだけれどサテュロスに貰ったお酒なのよ」
コップの酒を飲みほしていたムスリカは驚いた顔で私を凝視して
「このあほ小娘があああ! 何て物飲ませるんだ!」
般若の形相で剣を抜いて振り上げた。
私はパチンと指を鳴らしてムスリカを動けなくする。
「まあまあ、落ち着いてよ。毒は入って無いから」
「怪物から貰った酒じゃねえか!」
「でも、美味しかったでしょう?」
グッと何も言えなくなるムスリカ。
さっきの酒の飲み方を見ていて、サテュロスの酒の味をすごく気にいった様子だったもの。
「ふ~む、これが有名なサテュロスの酒の味とは」
グロキシニアは酒の正体が分かり探求者の顔になっていた。
魔法使いは好奇心を煽られ嬉しそうに酒を観察しだした。
「このお酒ね、そのうち簡単に手に入るようになるから楽しみにしていてね」
ムスカリとグロキシニアは「え? それはどういうことだ」と顔に出したけれど、私はそれには答えずにこの場を去った。
グロキシニアの用意してくれた荷物を持って村長の家まで瞬間移動した。
▽▽▽
村長宅の前に着くと村長家族は仕事に出て行ったのか誰もいなかった。
あら? シラーもいない。
どこに行ったのかしら?
「おい、勇者」
呼ばれて振り向くとサテュロスが腰に手を当てて立っている。
「あら、サテュロス。おはよう」
「呑気に挨拶してんじゃねえ。
女が一人でどこに行ってたんだ」
サテュロス怒っているの?
「あ、酒瓶からお酒を貰ったこと。
酔いつぶれて寝ているサテュロスにお酒を少し貰うよと声をかけたんだけれど。
え~と、どう説明していいのか。
ちょっと約束があってそれで出かけていかないといけなくて」
「酒のことじゃねえよ。
例え約束があったとしても女が一人で何も言わずにいなくなったら心配すんだろうが!」
「え? 心配・・・」
「そうだ。当たり前だろう!
急にいなくなったんだ、攫われたのか何か嫌なことでもあって逃げたのか心配になるだろうが!」
まあ!! そんな心配されていたなんて。
前の人生では一人行動が当たり前になっていたから気づかなかったわ。
ちょっと、やだ、嬉しいじゃない!
「おい! 何にやけてんだ!
俺は怒ってんだぞ!
お前の身を案じてシラーは朝早くから泣いてたんだぞ!
あんな俺と闘える強い男が泣いてお前を心配してんだ!
お前もシラーが大切ならもっとあいつの気持ちを考えてやれよ!」
「アルストメリアの言うとおりですよ」
急に村長の娘がサテュロスの後ろから出てきた。
「アルストロメリアって誰?」
「俺の名前だ」
今知った。
サテュロス名前があったのね。
それはそうか、サテュロスって種族の呼び名で人間に個別に名前があるのと同じか。
それにしてもアルストロメリアって名前が立派ね。
「勇者様、急いでシラーさんを追ってください。
シラーさん、勇者様のお姿が見当たらないとパニックになって。
村中探しても見つからないから泣きながら北への道を走って行きましたよ」
ええ? 何故そこまでシラーは気が動転してるの?
もしかしてお酒を飲んだ後、私たちの間にやっぱり何かあったのかしら!
すぐにシラーのところへと思いつつ、行く前に確かめておこうかしら目の前の件について。
「ねえ、アルストロメリアと娘さんは何故手をつないでいるの?」
私の質問にけろっとした表情で答えるサテュロス。
「ああこれは、俺たち結婚を前提に付き合う事になったからだ」
「え~と、でも展開が早くない?
昨日の朝会ったばかりよね?」
「私もまさか自分が急にこんな気持ちになるなんて思ってもいませんでした。
でも、昨日アルストロメリアのお酒を飲んで彼の話を聞くうちに、彼と一緒にお酒造りをしたい彼と一緒に人生を歩みたいと強く思えてきて、父に相談したところ父も兄も了承してくれたんです」
頬を赤らめ恥ずかしそうに言う村長さんの娘さん。
そうね、結婚は勢いでするって聞くし……いや、勢いが良すぎるわよね。
命綱無しのバンジーというか、車の運転免許教で路上教習に出てすぐに高速道路を走らされるくらい無謀な感じがするわ。
私なら不安になるわ。
でも目の前で幸せそうに見つめあうカップルにお茶を濁すようなことを言わないわよ。
ここは笑顔を向けてお祝いを言って上げなければ。
「アルストロメリア。娘さん。
おめでとう。
アルストロメリア、娘さんを幸せに出来るようにお酒造り頑張ってね。
娘さんも夫がサテュロスって事でこれから苦労もあるだろうけれど、二人で乗り越えて幸せな家庭を築いて下さい」
「おお! ありがとう勇者。
お前の御蔭で俺この娘に出会えたんだ。
お前には感謝している。
お前もシラーと幸せにな」
私は笑顔で大きく頷いて、2人に手を振り瞬間移動した。
ああ、本当にシラーと幸せになれるならなりたいわ。
でもそれは無理かも。
シラーが不安定になった理由次第だわ。
▽▽▽
「では、僭越ながら言い出しっぺの私から飲ませていただきます!」
シラーはサテュロスの酒を飲む百合を見た。
「百合様!」
彼女はまだ酒が飲めるほど大人の女性ではないのでは、心配して百合の様子を見守るが彼女は美味しいと言ってお酒をゴクゴク飲みだした。
百合がお酒を飲むと村人たちも手にしたコップの酒をを飲みだし、いつの間にか楽しい酒宴になっていた。
シラーも百合に促されて酒を飲んだ。
甘い酒だ。
甘いから飲みやすく感じるがかなりアルコール度数が高い。
百合はサテュロスや村人と楽しそうに酒をお替りしだした。
「いけません。
百合様、この酒はアルコールが強いようです。
これ以上飲むと悪酔いしますよ」
彼女が酔いつぶれるのが心配で、これ以上は無理だろうと酒を飲むことを止めた。
百合は頬を膨らませて不満を言うが自分は60歳を超えていると訳の分からない事を言い出したので、すでに酔っていたのだと分かり、寝かせようと抱き上げてベットへ連れて行くことにした。
抱いて運んでいる間、百合は眠たそうに目を瞬かせている。
こんな自分の両腕に収まる華奢な娘が勇者とは、オークを焼く力を見せられても信じられない。
サラサラの黒髪に夜のような黒い瞳丸い頬は幼く見える。
身体つきも胸の膨らみは分かるが全体的には肉付きが薄くまだ少女なのだ。
このような可憐な娘を異世界より誘拐して勇者などと重い使命を負わせてしまった。
百合にだって前の世界に家族がいたはずだ。百合の家族はきっとすごく心配をしているのだろう。
元の世界へ返せなくても、せめて百合を出来るだけ危険に合せず守らなければ。
シラーは大切に百合をベットへ下ろした。
百合はもう寝ていた。
自分も隣のベットで休もうと甲冑を外す。
と、いきなり百合の上体が起き上がる。
「……暑いわ」
百合は腕を交差してためらいなく赤いワンピスースを勢いよく脱ぎ捨てた。
呆気にとられるシラー。
百合は下にはいていたタイツも脱ぎ、下着もパパッと脱いでしまった。
シラーは百合の白い若々しい裸体に目を奪われるもハッと気がつき部屋から急いで出ようとした。
百合様は酔われていて意識がない状態だ、見てはいけない。
ドタッ……
百合がベットから落ちた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
百合の裸の描写をもっと詳しく書き込もうか悩んだのですが、18禁になりそうなのでサラッと流しました。