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酒は飲んでも飲まれるな

美味しいお酒ほど怖いものです。

「ああ~ん、何だあ、お前?」


 サテュロスは不機嫌な顔で目の前にいる男を見た。

 相当酔っぱらっているのか視点が合ってはいないけど。


 シラーはサテュロスに向かい剣を構える。


「村人のいう怪物とは貴様の事かサテュロス。

 お前などが作物や家畜の加護など人に与える事など出来はしないだろうに」


 シラーの言葉にサテュロスは鼻を鳴らして笑い舌を出した。


「ふん! だからどうした。

 俺は人間の女が貰えりゃあそれで良いんだよ!」


 サテュロスは酒瓶の綱を掌に巻き付けて瓶をシラーへ投げつけた。


 あれは当たったら相当痛いわね。


 シラーは酒瓶を軽く避けてロングソードでサテュロスへ斬りかかる。


「やああああああ!」


 まあ、カッコイイわシラー。

 疑っていたわけではないけれど本当に剣士として強いんじゃない。


 シラーは重そうなロングソードを素早く振りサテュロスに斬りかかっているが、怪物は酒に酔いながらもひょいひょい紙一重に剣を避けている。


 あれは、かの有名な酔拳ではないかしら!

 すごいわ!ジャ○○ー・チェンみたいだわ。


 は!敵に魅入っていてはいけないわね。

 シラーを応援しないと


「頑張って! シラー。私がついているからね!」


 サテュロスはシラーの剣を避けながら馬の脚で後ろ蹴りを放ってきた。


「うりゃああああ!」


 ああ! 流石馬脚!

 蹴る力が半端ないわ!


「シラー、避けてえええ」


 シラーは何とか後退して避けたが、そこへまた酒瓶を投げつけるサテュロス、瓶を避けて切り込むシラーさん。


 何か実力が伯仲しているからか闘いがパターン化してきたわね。


 どうしよう。

 私が手を出してサテュロスを倒したらシラーさんの男の面子を潰した感じになるだろうし。


 う~ん。

 よし、取り敢えずはシラーを応援することにしましょう。


「頑張って! シラー」



 ▽▽▽


 空の月が位置を変えて二人の男が荒い息づかいをしながら睨みあう。


 う~ん、すごい互角。

 試合なら引き分けで終わるんだけれど。

 この戦い終わりが来るのかしら。


 長い時間戦う2人に勝敗よりも違う心配をしていると


「・・・うっ・・・うう・・・うわーん」


 急にサテュロスが私に向かって泣き出した。


「ひでぇ、ひでぇよお!」


 何? 急に何が起こったの?

 私、何もしていないわよ。


「俺こんなに頑張って必死で闘っているのに。

 俺の嫁さん、俺の事を全然応援してくれねえよぉぉぉ」


 地面に突っ伏して大泣きするサテュロス。

 それを見て唖然とするシラーさん。


 私は岩から下りてサテュロスへ近づきながら話しかけた。


「ねえ、嫁って私の事かしら?

 いやいや無いでしょう。貴方を応援とかしないわよ」


 サテュロスは大粒の涙を流しながら私を見上げる。


「何で! 俺の嫁のくせに他の男を応援すんだよ!」


「私は貴女の嫁ではありません」


「村人に娘を嫁に寄こせと言ったらお前を寄こしたんだから、お前は俺の嫁だ!」


 んまあ! なんて横暴な!


「寄こせと言われて女は嫁になんか行かないわよ!

 女はねぇ、愛する男の元へ嫁ぐんだから! 

 アンタも嫁が欲しいなら、そんな酔っぱらってないでシャキッとして女を自分に惚れさせなさい!」


 私は1度も嫁になった事は無いけれど、嫁ぐのなら愛する男の所へ行くわよ。

 もしも怪物を愛したら怪物の所に嫁いでも良いわね。


 サテュロスは地面に座りながら私を見上げ、お酒が抜けたのか視線がしっかりとしている。


「そんなどうやって、女を惚れさせる?」


 前の人生では私に恋愛相談をしてくる人があまりいなくて、少し寂しかったから例え怪物でも相談に乗ってあげようと考える。


 え~と、サテュロスの望みは嫁が欲しいなんだから、一般的に女性が夫に望むのは


「やはり経済力かしら?」


 この世界って女性が自立して働けているのかしら?

 先程の村を見る限り男性主導の経済体制のようだったわよね。


「経済力って何だ?」

「経済力とは?」


 サテュロスと一緒に何故かシラーも興味深げに聞いてきた。

 シラーも嫁が欲しいのかしら? 


「お嫁さん貰ったらそのうち子供が出来るでしょう?」


 二人は頷いて聞く。


「家族が食べていけるように男が生活を養う力を持てば、女は安心して男の所へ来るわよ。

 そんな安心感を与えてくれる男は女から尊敬されるから惚れさせてるって言えるわけよ」


「しかし、俺には養う力なんて……」


 サテュロスは闘っているうちに完全に酔いがさめたようで先程までの陽気さがなくなっていた。


 こうやって落ち着いて話せるなら悪い怪物ではないと感じるし、世界には色んな好みの女性がいる。

 サテュロスと結婚しても良いと思う女性もいるんじゃないかしら。


 しかし、じゃあそのサテュロスを好きになる女性に出会うまで探せって言ったら、こいつは絶対途中で面倒くさくなって今回みたいに力づくで嫁を取ろうとするわ。

 そういう行動をさせないようにして、尚且つサテュロスの嫁を探すにはサテュロスに仕事を持たせればいいと思うのよ。

 前の人生で妖精さんが作った物が人間に受けて人気が出てよく売れた話があったわ。

 だから


「サテュロスが飲んでいるお酒は自分で作っているの?」


 サテュロスは神妙な顔で

「ああ、俺が作っているが……」

 と答える。


「そのお酒って人間でも飲める?」

「飲めるだろう……材料は人間も食べている物を使っているから」

「少し飲ませて貰ってもいいかしら?」


「百合様! いけません!

 怪物の酒を飲んで、もしもの事があるかもしれない」

 シラーが勢いよく止めてきた。


「私も未知の物を口にするのは怖いけれど、サテュロスに仕事を持たせるにはコレが良いと思うのよね」


 シラーの目を真っすぐに見て言い、サテュロスの酒瓶からお酒を私の掌に少し落とした。

 甘い果実の香りがする。

 蒲萄かしら? 

 色は赤いしワインに似ている様だけれどこってりとしたとろみのある液体ね。


 舌で舐めるように一口入れた。

 シラーが心配して私に寄り添っていてくれる。


 …………


「サテュロスには養う力があるわよ」


 この酒の味なら多分大丈夫ね。


「え?!」

 目を真ん丸にして驚くサテュロスとシラー。


「本当か? 俺に力があるって? 嫁くるか?」


「お嫁さんが絶対来るかは分からないけれど、今よりは可能性が高くなるわよ」


 そうして嫁が来るかもと喜ぶサテュロスを連れて下山した。

 朝日の眩しさを感じながら。



 ▽▽▽


 サテュロスを連れて村長さん宅へ帰ると皆、悲鳴を上げて逃げた。


「待って! 落ち着いて! 

 悪い怪物ではないんです」


 大声で呼びかけて、何とか遠巻きながら村長さんと話が出来た。


「この村でサテュロスにお酒を造らせてください」


 酒と聞いて村長さんと長男さんは興味を持ったみたいで、かと言って自分たちだけでサテュロスに対峙するのは怖かったらしく、村長の権力で村人に集合をかけてサテュロスの酒を試飲することになった。


 サテュロスは緊張しながら村人に酒瓶に入っている酒を振る舞う。


 私もコップにお酒を貰う。


 一通り村人にお酒は行きわたったけれど、皆怖くて口を付けない。


 私から飲んで見せよう。

「では、僭越ながら言い出しっぺの私から飲ませていただきます」


 村人が注目する中、お酒のCMの様に出来るだけ美味しく見えるよう笑顔で飲んだ。


「ぷはー! 美味しい!

 甘ーい香りが良くて、喉越しいが良いわ」


 そう言って私がコクコクお酒を飲み干すと村人もお酒を飲みだした。


「ほお・・・甘い酒だなあ」

「まあ美味しいわぁ香りが良いわ」

「うちのお酒より私はこのお酒の方が飲みやすいわ」


 皆、ワイワイお酒の感想を言い出す。


 感想を聞いていると女の人に好評で男性は酒は辛口って人が多かったが概ね好評のようだわ。


 あら、お酒の力って凄いわ。

 サテュロスに話しかける女性が数人。

 サテュロスは緊張してるからか丁寧に女性の相手をしている。

 これは本当にサテュロスのお嫁さん見つけられるかも。


 あ、美味しくてもう飲みほしてしまったわ。


 よく考えるとあの怪物こんなジュースみたいなお酒であんな千鳥足になっていたの?

 まあ、そこは突っ込まなくていいか。


 私はもともと辛口のお酒より甘いカクテル派だしせっかくだからもう一杯貰おう。


「サテュロス、もう一杯飲ませて~」


 と、いきなり肩をつかまれた。


「いけません。

 百合様、この酒はアルコールが強いようです。

 これ以上飲むと悪酔いしますよ」


「え?これくらい大丈夫よ。

 この機会を逃したらもうお酒を飲めないかもしれないし、今日くらい無礼講でいいじゃない」


「無礼講ってなんですか?

 百合様はまだ若いから御自分がどれくらい飲めるか分からないのです」


「あのねぇー。

 私若く見えるけれど本当は60歳超えているのよ。

 だから自分の酒量は十分分かっているわ」


 私が胸を張って答えるとシラーは首を横に振って


「もう、酔われていたのですねぇ」


 と言って私をお姫様抱っこした。


 きゃあ、これは前の人生では1度も経験しなかったお姫様抱っこだわ!

 ぎゃー、シラーの美しい顔が真横にあるわ!


「っていうか、私酔ってないよ。

 下ろして」


 ドキマギして、体を離そうと腕を突っ張るけれどシラーの腕は力強くてビクともしない。


 あれ、私最強の勇者のはずなのに?


「ご自分を60歳などと有り得ない年齢を言われるほど酔っています。

 村長、勇者様はご気分がすぐれませんので先に休ませていただきます。

 サテュロスの事、よろしくお願いいたします」


 村長や村の人たちはサテュロスとお酒の話で盛り上がっているので私達が席を外すのに無関心だった。

 ああ、宴会から強制退場させられるなんて悔しい!

 でもお姫様抱っこは憧れていたからちょっと嬉しいかも。


 シラーは私を軽々抱いて村長宅へ歩いた。


 ▽▽▽



 私は下ろしてもらえないようなので抵抗は止めて、大人しく抱っこされることにした。


 オークに追われていた時はしらーの肩に担がれて上半身を逆さにされ走っていたから怖かったけれど、今は両腕にしっかりと抱かれて歩いているから落とされる心配がないわ。

 シラーさんの腕の中温かいわぁ。

 それにリズミカルに揺れるから気持ちが落ち着いて、何だか瞼が重くなってきたわ。


 村長の家の客間、泊まらせてもらっている部屋にはベットが2つ置いてある。

 窓の戸は開いていて明るい部屋。

 まだ昼なんだけれどすごく眠い。


 今朝方までサテュロスと闘っていたのだから、眠いのも……とうぜ……ん……か……


 ――――――――――――――――――――



 ――――――――――――――――


 ……パチ


 目を開けた。


 ん? あれ? 


 目の前にぼんやり人の横顔が見える。


 は! シラーさんだわ!


 寝相良くスヤスヤ寝ているわ。


 窓の外は星が見えて辺りは真っ暗。ベッドの上だって事は分かる。


 ただ何故ベットは2つあるのに1つのベットで一緒に寝ているの?


 恐ろしい……まさか……


 チラッと布団の中を覗く。


 うわ、全裸だわ。


 2人揃って裸。



 やばい……

 何も覚えていないけれどコレはもしや()()()()しまったのかしら。


 シラーにお酒を止められて部屋に入ってからの記憶がないわ。



 私ついに理性がとんでシラーを襲ってしまったのかしら?


 んん、いやちょっと待って普通は逆じゃない?


 今の私は外見は16歳の少女なわけだし……もしかしたら、シラーが私を襲ったんじゃない?


 あの時シラーも酔っていたのでは?


 いつもの真面目なシラーなら絶対にしないだろうけれど、お酒のせいって事ならありえるのでは?


 シラーさんの端整な横顔を見ながら考える。


 う~ん、しかし、シラーさんがそんなことするとはやっぱり想像できない。


 そうだわ。

 前の人生、結婚は出来なかったけれど男性経験はあったのよ。


 自分の体を見てみたら事後かどうか分かるんじゃないかしら?


 ここで確かめるため動くとシラーさんを起こしてしまうかもしれないから、花嫁衣装に着替えた衣裳部屋へ瞬間移動しよう。



 ▽▽▽



 確認した結果。


 最後まではしていない事が分かりました。

 私、若返っただけでなく体が新品になっていたわ。


 いたしてなくて安心したような寂しいような。


 いや、やっぱり喜ばしい事よ。


 だって記憶にないんだもの。

 せっかく結ばれるなら覚えていたいわよ。

 大切な思い出になるもの。


 しかし最後までいってないのに、お互い裸で寝ていたのは逆に不思議だわね。

 どういう流れであの状況になったのかしら?

 ……シラーが起きた時の様子を見たら分かるかしら。


 1人で悩んだところで思い出せそうも無いし、無駄に考えるのは止めましょう。


 シラーとならまあ、ああいう関係になっても良いわよ。

 寧ろなりたいわ。

 その方が旅も楽しいだろうし。

 うふふふふふ。


 あ、確かここに私のTシャツとジーンズがあったはず。

 ここに来たついでに着替えておこう。


 そういえば今夜は、魔法使いグロキシニアと約束した日だったわねぇ。


 食料とか受け取りに行かなくちゃ。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

中身が65歳なので朝チュン状態にも冷静です。

この状況で自分がシラーを襲ったかもと心配する百合。

ある意味凄いと思います。

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