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奴隷剣士

異世界召喚された百合は65歳から16歳に若返っていた。

若返りに喜ぶのもつかの間、強制的に勇者として転移させられる。

奴隷1人を付けられて。

 目を開けると爽やかな風が吹く緑豊かな川沿いの土手にいた。


「……ここどこ?」


 辺りは明るいけれど山川木草花、自然しかない。

 いくら若返ったとはいえ急展開で全く理解不能だわ。


 う……うう……ううううう……


 は?


 私の足元で大男がうつむいて嗚咽している。


「えー何で泣くの? どうしたの? どこか痛いの?」


 慌ててしゃがみ込んで顔を見ると大男の美しい目から涙がスーと流れていく。


 この人、体がでかくて屈強な感じなのに顔は美形ねえ。

 顔がくしゃくしゃってならなくて表情をほぼ崩さずさめざめ泣いてるわ。


 さっきは暗くてよく見えなかったけれどこの男、美麗な顔と筋肉質な体、相反するようで調和がとれている私のタイプ。どストライクだわ。


 ああ、胸がきゅんってするわ。


「私は百合っていうのよ。貴方名前は?」


「……うう……私の名はシラーと……いいます」


 この泣き声もいいわね。

 こういう男性を○○して××したい……


 おっと! やばいわ。

 性癖は変わっていないわ。


 この性癖のせいで前の人生ではお一人様の人生だったんだし、少しは考えて行動しなくてわ。


「シラーどこか痛いの? 何で泣くの?」


「申し訳ございません。百合様。今からの旅の過酷さを考えますと恐ろしくて怖くて・・・」


 ええ? こんな屈強な男が想像で泣いてしまうような旅を私させられる予定なの?


「ちょっと待って、シラー。

 先程まで一緒にいた意地悪な3人の男たちが、今後の事をシラーから聞けって言っていたけれど。

 良かったら今から説明してもらえないかしら?」


 そうよ! 聞く内容によってはあの3人のところへ文句を言いに行ってやるわよ!


「今からこの道を北へ進み、常夜山という山を目指します。

 常夜山はこの世界の凶悪で凶暴な怪物たちの住む山です。

 そこにいる怪物の王ベヒ―モスを倒すことが勇者様の使命でございます」


 う~ん、そうなんだ。


 勇者の使命かぁ・・・


 いきなり呼び出しておいてかなりな無理難題を押し付けてくるこの感じ、失礼極まりない話よね。


 やらないって選択肢を選ぶとどうなるのかしら?


「ねぇ、例えばその使命を無視して山に行かず、怪物の王を倒さなかった場合は私はどうなるの?」


 私を凝視するシラー。

 シラーの頬にはまだ涙が流れている、うっとり。


「百合様は勇者様ですので誰も手が出せないでしょうから何もされないと存じます」


 あ、そうなのね。

 じゃあ、やらなくっても良いんだわ。


「ただそうなった場合、百合様を使命へ導けなかった私の妹や父母は殺されますが……」


「ええ! シラーのご家族が人質に取られているの!」


 シラーは悲し気にアイスブルーの瞳に影を落とした。


 イヤー、その目線ゾクゾクするわ。

 出来れば頬を赤らめさせた○○○させたい!


「私はこのアペルドーン国の隣国モンセラの王子でした。

 モンセラは小さな国でしたが、水が豊かで土地も肥沃でしたので国民も穏やかに田畑を耕し、私は父王や義母そして3人の妹たちと平和に暮らしておりました。

 しかし、半年ほど前、突如アペルドーン国が我が国を襲ってきたのです。

 アペルドーン国は無敵国家と云われるほど大変強い竜兵団や魔法使いを持っている国です。

 モンセラはほとんど無抵抗で征服され、私たち王族は捕らえられました。

 私はこのように女性の前で涙を流す情けない男ですが、一応剣士として腕があるため反逆の意思を持たぬようにと奴隷として生かされているのです」


「そんな! 酷いわ!

 家族を人質にとったり、シラーを奴隷にしたり。

 平和だった国をいきなり襲うなんて何の必要があるっていうの!」


 野蛮だわ! 勝手だわ! アペルドーンって国はなんなのよ!


 私が怒っているのを見て、シラーは泣き止んだ。

 そして、薄い形の良い下唇を噛みながら言いずらそうに


「モンセラが襲われた理由は勇者様を召喚するため、聖域の水晶洞が必要だったからです」


 と、言った。


 え? 私を呼び出すため?

 あれ? 私のせい……

 いやいや呼び出して欲しいなんて、私お願いしていないし……いや……でも……

 目の前で屈みこんで泣くシラーからはとてつもない悲壮感が漂っているのが分かる。


 勇者を召喚したいという身勝手な事案のせいで平和な国は乱され、家族は人質になるし自分は奴隷という身分に落とされて、自由を奪われ家族を奪われ若いのに人生を奪われてしまったのね。


 しかも勇者が召喚されたら怪物の王を倒さないと人質の家族の命が危ないのに、私のような怪物と闘えなさそうな女が転移されたものだから絶望しているんだわ。

 そりゃあ、この先使命を果たせず家族の命も救えないってんだから、どんなに屈強な男だって泣くわね。


「シラーの気持ちを考えるとこんな私が転移されてしまって申し訳ないわ。

 ごめんなさい」


 シラーは驚いた顔をして、私を長い両腕で優しく抱いた。


「謝らないで下さい。

 百合様のせいではないのです。

 すみません、分かっています。

 百合様だって異世界から攫われてきた被害者でしょうから」


 ギャー耳元で良い声で囁くように優しい事言わないでえ!

 もう何年も恋はお休み中だったのよ!

 こんな展開、心臓がドキドキして飛び出しそうよ!


「百合様、私はこれでも剣士です。

 怪物たちに私の剣が通用するのか分かりませんが、可憐な少女(アナタ)だけを戦わせるようなことは致しません。

 ですからどうか私とベヒーモスを倒すため一緒に旅をして下さい」


 んまあ! 可憐だなんて照れてしまうわ。

 それに素敵だわ。

 自分の好きなタイプの男と2人旅が出来るなんて。


「OK! 分かった! シラーと旅するわ、私」


 こうして65歳退職直後の私、秋上百合は異世界にて女勇者として怪物の王ベヒーモスを倒すべく、奴隷のシラーと旅に出ることになりました。



 ▽▽▽



「ねえ、シラー。あれ何かしら?」


 月明りだけを頼りに森の中をシラーについて歩いていると、少し離れた場所から黒い大きな影が数体近づいてくるのが見える。


 シラーは影を見るなり私の腰に腕を回して肩へ担ぎ、凄い勢いで森の中を走り出した。


「オークです!

 まさか、こんな場所にいるなんて」


「落ちる、怖い! お腹痛い!」

 シラーの左肩に担がれた私は上半身が逆さになって頭から地面に落ちそうで怖い。

 シラーの腰辺りに頭があり、めちゃくちゃ揺れる上体を安定させようと両手で背中にしがみつくが、シラーが走る躍動で彼の肩が私のお腹に何度も当たって痛い。


「百合様、我慢して。

 オークに捕まれば殺されます!」


 シラーは私を担いでいるのにも関わらず、もの凄い速さで走っているが、オークたちはそれ以上のスピードで怒鳴るような荒々しい声を上げ迫ってきた。


 猪のような頭の筋骨隆々な怪物が3体、棍棒を持って追いかけて来る。


 あれがオークって怪物なのね。


 シラーに必死にしがみつきながらオークを見た。


 不思議と怖くないわね?

 多分、私あのオークたち倒せられるわ。


 転移の時、シラーのお母さんが私に言っていた神様が最高の力を贈るって。


 シラーとベヒーモスを倒す旅をするって心に決めたら、一瞬で力の使い方が頭の中に流れてきたわ。

 この時分かった私の能力は魔法よりも凄い。

 カンナちゃんに教えて貰った最強(チート)だわ。


 あと3メートルほどの近さにオークたちが追いついてきた。


 大きな火の塊を想像して指を鳴らす。


 パチンッ!


 ヴォボボオオオオオオオオオオ!


 私の前に生まれた炎をオークたちへ飛ばす。

 炎はオーク3体を丸飲みにして燃え盛った。


「ビヒイッ……」


 3体は炎に包まれて一瞬でオークは酸欠になりその場に崩れ落ちて動かなくなった。



 シラーは荒く呼吸をしながら足を止め振り返ると炎の中で丸焼きになるオークたちを見た。


「これは魔法……百合様は火の魔法が使えるのですか?」


 私はシラーの肩へ両腕を伸ばして上半身を起き上がらせた。


 はあー頭が下を向いていて苦しかった。

 でも、オークを見てすかさず私の身を守ろうとしてくれたわねシラー。

 惚れてしまうわ。


「う~ん、魔法と言っていいのか分からないけれど、怪物を倒せる力は持っているみたいね」


 笑顔でシラーを見下ろした。

 正直、自分の力がどういうモノなのかはよく分からない。


 シラーは荒い呼吸を繰り返しながら私の足を両腕で抱いて私の顔を見上げている。


 勢いよく焼かれるオークたちの火に照らせれてシラーさんのアイスブルーの瞳が美しく揺らいで見えた。


「……? シラー?」


 いや、シラーの状態がおかしいわね?


 シラーは私を抱えて目を開けたまま、ゆっくり後ろへ倒れていく。


「いやああああああああああ」


 シラーは意識を失っていた。



 ▽▽▽



 はあはあはあ。


 シラーの甲冑を外して、服を脱がしてます。

 夜の闇の中、火に照らされるシラーさんの顔や体が美しいわ。


 はあはあ、興奮してる場合じゃないわ。


 でも、すっごく興奮するわ。


 いやいや、駄目よ。

 遊びじゃないのよ。

 これは医療行為ですよ。


 意識を失うなんてシラーはきっと体のどこかを痛めているか悪くしていたのよ。

 だから私が少し調べてあげようと思うわけ。


 何と言ったって私が神様から貰った最高の力は、怪我だって病気だって私が治れって念じながら両手をかざせば治ってしまうらしい。


 本当に治るか試す必要もあるわ。


 そういう事だから、両手をかざすにはどこが悪いか分からないとねと思って服を脱がせただけなのよ。


 それなのになにこの逞しい胸板、血管の浮き出ているセクシーな腕、引き締まって割れた腹筋は!


 キャー素敵だわ、見惚れるわ、少しくらいいじって○○したくなるわ。



 ウガ―、理性を持つのよ私!

 自分の頬をつねり痛みで自分を保つ。


 夜の誰もいない森の中。


 ……シラーは私の奴隷なのよね。

 奴隷は主の物だからナニしてもいいんじゃないかしら。

 苦痛ではなくて快楽になれば、夜の奴隷にしたって……


 いやいやいや、待て私、シラーとの旅はまだ始まったばかりよ! 


 カンナちゃんが言っていた。

 修学旅行初日に告白した友人が断られて旅行中ずっと気まずい空気だったって。

 今シラーにおいたをしたら、彼がそっちの気がなくて嫌悪を感じられたら、気まずい空気どころの話ではないでしょ!


 ほら、深呼吸して冷静になるのよ。


 旅はまだ始まったばかりよ。

 シラーの事をもっとよく知らなければ、いくら彼が魅力的でも手を出してはいけないわ。


 65歳の自分を思い出して枯れた自分を蘇らせて。


 はあはあはあはあはあはあ


 我慢よ! 頑張れ私。


 はあはあはあはあはあはあ



 ▽▽▽



 何とか理性を保ってシラーの体を隅々まで見たところ、多分過労と栄養不足だわねと結論付けた。


 シラーの体に付いていた切り傷や痣に私が手をかざしたら治った。

 古い傷は治らなかったけれどね。

 力が使える事は分かったわ。


 シラーはやはり奴隷として過酷な生活環境だったんだわ。

 鍛えて引き締まった体とはいえ、体の中に負担がきていたのね。


 取り敢えず、安静にさせたいわね。


 でも旅は続けないとね。

 旅を休むとシラーは真面目だから人質の家族を気にして気を患う可能性があるし。

 私としてもシラーと2人で旅がしたいわ。


 つまりはシラーが安静に出来るように旅が出来れば良いのよ。

 その為には食事や日用品が必要ね。


 そういえば、この世界ってお金って流通しているのかしら?

 というか常夜山までの道に人間の集落とかあるのかしら?


 はあー、ほらやっぱり説明不足準備不足なのよ。


 あの3人の誰に会いに行けば欲しい物がすんなり手に入るかしら……。


 私はシラーに服をしっかり着させて彼の周りに結界を張った。

 結界は私が進入禁止の意思を持って指で触った点を繋ぐ空間は私以外入れなくなるらしい。

 シラーは木の下に寝ているのでシラーの周辺の木を指で突く。


 結界の少し離れた場所ではまだオークたちは闇の中燃えていた。


「ふふ、シラー私が帰るまでゆっくり休んでいてね」


 私はシブイおじ様の姿を思い浮かべて瞬間移動した。


 ▽▽▽



 フカッと長い毛の絨毯の上に足が着いた。

 歴史のありそうな重厚な机が暗い部屋の中で照らされていた。

 その机でデスクワークしている初老の男。


「こんな夜更けに何ようだ?」


 長い白髪にグレーの知的な瞳、薄い引き締まった口元。

 シブイ魔法使いグロキシ二アが、昼間の姿のまま真っ白なローブを着て椅子に座りながら声をかけてきた。


「グロキシ二アこそこんな夜更けまで仕事をしているの?」


 突然現れた私に慌てることなく対応する魔法使い。


「昼間は色々忙しくてな。

 デスクワークは静かな夜にやる方がはかどる」


 グロキシニアは羽ペンを置いて机の上で両手を組んだ。


「しかし今夜は静かな夜というわけにはいかないようだな」


 私はグロキシニアに微笑んだ。



ここまで読んでいただきありがとうございました。

10話完結を目指して書いていきます。

よろしくお願いいたします。

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