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奥様はオタク ~梓と天平 小話集~  作者: 鷹羽飛鳥


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94 アイデンティティの自己否定

 きっかけは、些細なことだった。テレビで、リポーターが激辛料理に挑戦して歩くというのをやっていたのだ。リポーターは、“作った料理人も食べられない激辛カレー”を途中でギブアップしていた。


 「なんていうかさ、アイデンティティを自己否定しているものってあるよね」


 「なんだ、いきなり」


 「新井素子のエッセイにさ、電気屋さんのコメントの“傍若無人な冷蔵庫”ってのが出てくるのよ。“人がいないと使えないのに傍若無人ってなに!?”って話で」


 「また昔話か?」


 「今ね、“誰も食べられない激辛カレー”の話題やってたの」


 「テレビで?」


 「そう。

  食べられない料理って、アイデンティティの放棄じゃない?

  そもそも食材に失礼よ! リポーターは意地でも完食しなきゃ駄目でしょ! でなきゃそんな企画やっちゃ駄目よ! ていうか、残されることを前提にメニュー作るとか、食堂がやっちゃ駄目でしょ!」


 「まあ、そりゃそうだな」


 「そんなこと考えてたら、アイデンティティの自己否定ネタを思い出したの」


 「それが新井素子か?」


 あたしは、高校時代、学校の図書室で見付けた「・・・・・絶句」を読んで以来、新井素子作品を読みまくっていた。買い集めた文庫達は、結婚した時、一部のお気に入りを除いて処分しちゃったけど。あたしは「扉を開けて」「ラビリンス──迷宮──」「二分割幽霊綺譚」の3作が特に好きだ。


 「それだけじゃないけどね。魔女っ子メグちゃんとかメイプルタウンとか」


 「なんだそりゃ」


 「魔女っ子メグちゃんは知ってるよね?」


 「名前くらいは」


 「OPでね、“2つの胸のふくらみは何でもできる証拠なの”って歌ってるのに、EDでは“何でもできると人は言うけれど”って全否定してるのよ。できるって言ったのは自分でしょ!って突っ込みたくなるじゃない?」


 「ならないだろう」


 「いーや、なるね!

  同じようなパターンで、ペルシャのEDは、1番で“つまらないわ、私のことにあなたちっとも気付かない”って言っといて、2番では“だけど秘密 大好きな人 女の子になっちゃうの”って否定するのよ」


 「なんだよ、ペルシャって」


 「魔法少女ものよ。愛のエネルギーを集めるために魔法を授けられた女の子が主人公なんだけど、魔法がバレると好きな人が女の子になるって呪いを掛けられてるの」


 「なんだ、その変な呪いは?」


 「ペルシャの場合、うっかり愛の花を壊しまくったせいで、復活させるための愛のエネルギーを集めるよう命じられたから、条件で縛られるのは仕方ないのよ。

  それでなくても、変身ものって正体がバレるとペナルティが課せられるものが多いのよね。ウルトラマン系だとバレたら地球にいられなくなるとか、パーマンは正体がバレると動物にされちゃうとか。ポワトリンだとカエルになっちゃうし。

  リアルなところだと、メガレンジャーみたいにご近所さんごと標的にされて町が火の海、みたいなのもあるけど。

  クリィミーマミだと魔法が使えなくなる、だね。中盤、マミに変身するところを見られて元の姿に戻れなくなった、なんて話もあるよ」


 「どうすんだよ、それ」


 「見たのが主人公の想い人で、なんだかんだやって元に戻れたけど魔法は使えなくなっちゃうの。本来はそこが最終回だったんだけど、好評につき放送延長になって、新しい魔法のアイテムをもらって復活する」


 「なるほど」


 「想い人は記憶を消されちゃうんだけど、ラスト数話で思い出しはじめてね、完全に思い出されちゃうとまた魔法が使えなくなるってんで、そこから怒濤のラストに流れてくのよ。あたし、あの最終回大好き」


 「お前が手放しで褒めるの、珍しいな」


 「デキが良ければ褒めるわよ。

  で、メイプルタウンなんだけど」


 「まだ続くのか? その話」


 もちろん。あとちょっとだけ続くよ。


 「“メイプルタウン物語”っていう、シルバニアファミリーに対抗意識燃やしたみたいなアニメでね、動物一家の人形とドールハウスで商品展開してたんだけど、好評につき続編が作られたの。2年目はパームタウンに引っ越して、新しいドールハウスを売り出すのよ。

  でね、タイトルが“新メイプルタウン物語パームタウン編”になるの」


 「長いな」


 「そういう問題じゃないでしょ! メイプルタウン物語パームタウン編よ!? メイプルタウンなのかパームタウンなのか、はっきりしてよ!

  もう“パームタウン物語”でいいじゃない! …って思わない?」


 「そんなこと思うのは、お前くらいだろう」


 「メイプルタウン物語のOPでは“メイプルタウンにおいでよ 光の中のメイプルタウンへ”なんてアピールしてるのに、引っ越した途端に“君を虜にする不思議な町は2つとないわ 南の国のパームタウン”なんて歌うのよ? これってメイプルタウンをディスってるよね。ひどいと思わない?」


 「そんなとこに気が付くのも、文句言うのも、お前だけだと思う」

新井素子

 小説家。高校時代から商業作家だったすごい人。

 自身の結婚を題材にした「結婚物語」「新婚物語」は、沢口靖子主演でドラマ化された。




・・・・・絶句

 1983年に出版された小説。主人公が作者と同姓同名だが、一応別人である。

 高校生で小説家志望の新井素子の脳内情報が、宇宙船の事故によって現実世界にあふれ出し、小説のキャラクター達が実体化してしまった、というメタなお話。

 某国のスパイ組織がキャラクターを狙ったり、動物が人間に反乱を起こしたりと大騒ぎになったが、宇宙でも上位の立場にある宇宙人の介入によって“なかったことにする”と決定され、事故のもみ消しが惑星規模で行われた。全力で抗った結果が“なかったことにする”だったことにショックを受けた素子(キャラ)だが、それでも「俺達は絶句しなかった。ちゃんとものを言ったんだ」ということで、見えない前進があったとされる。結局、実体化したキャラクター達は、能力を大きく減衰させられたものの。そのまま存在し続けた。

 新井素子(作者)の小説「星へ行く船」シリーズの主人公:森村あゆみは、実体化したキャラクター:森村一郎の子孫である。

 また、キャラクター達が住んでいた第13あかねマンション付近の空間は、その後も不安定になっており、異世界と繋がりやすくなっている。

 新井素子小説は、大抵同じ世界を舞台としているため、“そりゃいくらなんでもおかしいだろう”と言いたくなる部分は、“だってこの世界、新井素子(キャラ)の脳内情報が漏れていておかしくなってるんだもの”という言い訳がなされている。

 第13あかねマンションは、「扉を開けて」「二分割幽霊綺譚」でも、異世界に通じる場所として登場する。

 なお、梓は、森村一郎の、(やるせなくなった時は)“肩をすくめて「それが人生さ」ってやればいい。それを何回かやってるうちに人生が終わる”という言葉が大好きだったりする。




扉を開けて

 1982年に出版された小説。

 超能力(謎の力)を持つが故に気味悪がられて育った主人公が、同じように超能力を持つ友人2人と共に異世界に召喚され、伝説の王女として戦争に巻き込まれていく物語。

 元の世界に帰るには、敵国中枢にある“帰還の扉”を使うしかない。戦いの中、主人公は、自分の力を肯定できるようになっていく。

 劇場アニメになっているが、デキはおっぺけぺ。




二分割幽霊綺譚

 1983年に出版された小説。

 仮性半陰陽として生まれ、男として育ったのに実は女だった女性が主人公。

 ある日、マンションの裏で穴に落ちた主人公は、死んでシチューにされ、半身ずつの幽霊となって、シチューを食べた2人の男──マンションの隣人と、男だった頃の幼なじみ──に取り憑いてしまう。主人公は、2人と共に、自分をシチューにした女の秘密を追う。

 男にも女にもなりきれなかった主人公が、女であることを肯定できるようになるまでの物語。




ラビリンス──迷宮──

 1982年に出版された小説。

 “神”の生け贄となった2人の少女が、世界のあり方や自分自身の矛盾に気付き、それでも前に進もうとする物語。

 実は、舞台は遙か未来の文明が後退した地球であり、“神”はかつて遺伝子操作によって生み出された異生物だった。




魔女っ子メグちゃん

 1974年放映の東映アニメ。

 魔界の次期女王候補であるメグとノンが、修行と試練のために人間界で1年間過ごす物語。

 2人は、それぞれ人間界に住む魔女の家族として生活することになる。

 メグは、仮初めの家族にどんどん馴染み、やがて本当の家族のようになっていく。メグは魔界に帰るに当たり、家族(父、弟、妹)の記憶を消すが、3人は“もう1人いた気がする”と感じていた。

 結局、メグは人間に傾倒しすぎ、ノンは人間に無関心すぎと、どちらも落第し、更に1年人間界で過ごすことを命じられて終わる。

 ライバルであるノンは、単なる憎まれ役ではなく(憎まれ役としてチョーサンがいるため)、メグとの間にそれなりの友情があったりするのがいい。

 梓はノンが大好きだった。




ペルシャ

 1984年放映の「魔法の妖精ペルシャ」のこと。スタジオぴえろの魔法少女もの第2作。原作漫画「ペルシャがすき」とは全く別物になっているらしい。

 アフリカで育った野生児ペルシャは、日本に向かう途中、事故で妖精の世界ラブリードリームに迷い込んでしまう。ペルシャは、そこに咲いていた貴重な愛の花をいくつも割ってしまい、責任を取るかたちで、愛のエネルギーを集めるという使命と、魔法のアイテムを与えられる。

 魔法を使えることを他人に知られると、ペナルティとして好きな男が女に変えられてしまうことになっている。

 「マミ」「ペルシャ」「エミ」の3作で、水島裕が演じる少年が想い人でないのは、これだけ。




マミ

 1983年放映の「魔法の天使クリィミーマミ」のこと。スタジオぴえろの魔法少女もの第1作。

 森沢優は、ある日、夢嵐に遭って遭難したフェザースターの船を見付けて助けたことから、船の主ピノピノから、お礼として魔法を使えるようになるアイテムを1年間貸し出されることになった。

 最初に魔法を使ってマミの姿になった際、芸能プロにスカウトされアイドルとしてデビューすることになってしまう。

 マミは、優が無意識下で想い人:俊夫の理想の女の子に変身した姿であるため、優は自分自身が恋のライバルという奇妙な状況になってしまった。

 一度は変身を俊夫に見られて魔法を失うが、いきなりマミが消えることは影響が大きいからと、俊夫の記憶を消すのと引き換えに再び魔法を得た。

 ラストは、俊夫の記憶が戻りきる前にマミを引退させてけりを付けるべくファイナルコンサートに挑む。

 コンサートの最中、俊夫が記憶を取り戻したが、ピノピノの粋な計らいにより、マミとしてもう1曲だけ歌わせてもらえることになる。

 最後の1曲を歌ってマミはステージから消え、俊夫の元に優が戻った。

 最終回のED画面は、メインキャラのその後を描いたものになっており、親になった俊夫と優の姿で終わる。

 後に、OVAとして、このファイナルコンサートの世間的な後始末を描いた「永遠のワンスモア」、昼だけマミに変わってしまうようになった優がマミとして映画に出演することになった騒動を描いた「Long good-bye」が制作された。

 「Long good-bye」でのマミへの変身は、優の中に残ったマミの記憶がハレー彗星の影響で暴走したものだった。治すには、今すぐマミの残滓を消すか、再度魔法を使えるようにするしかない。まだ映画の撮影中でマミの出番もあったが、優はマミを消すことを選ぶ。残った出番は、優と俊夫でまかなうことになった。

 「あたしね、自分の魔法を見付けたような気がするんだ。フェザースターの魔法は、確かに素敵だよ。でもね、でも、本当に素敵なことなら、誰にも内緒にすることないと思う。みんなに教えてあげたいし、みんなで素敵になれたらもっと嬉しいと思うんだ。(そんな魔法を)たぶん俊夫がくれたんだ。だから…」

 こうして、優はマミと永遠に(Long )お別れ(good-bye)した。

 ラストシーンは、優と俊夫のキスで、優が目を閉じるのに合わせてブラックアウトしてエンディングテロップになるのだが、絵コンテでは「ややぎこちなくキス」「もう一度キス」で終わることになっていた。これは、脚本の伊藤和典氏が俊夫と優をイチャイチャさせるのを好まなかったことによる変更で、テレビ本編でも俊夫と優がいい雰囲気になるシーンは避けられていたとのこと。

 なお、「Long good-bye」作中で制作されている映画「二つの世界の物語」は、雑誌アニメックで嘘予告として披露された6ページ漫画を膨らませたものだったりする。一応、伊藤氏の作で、氏は“何か作ろうと思ったら、これしかネタがなかった”というようなコメントをしていた。

 挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)



パーマン

 藤子不二雄(今は藤子・F・不二雄名義)の漫画。二度テレビアニメ化されている。

 バードマンからパーマンセットを与えられた小学生:須羽ミツ夫ががパーマンとして活躍する物語。

 2号(チンパンジーのブービー)、3号(パー子)、4号(パーやん)も加わる。原作の初期バージョンには5号(赤ちゃんのパー坊)もいたが、今は削除されている。

 パーマンセットは、力を6600倍にするマスク、時速91km(新アニメ版では119km)で飛べるマント、酸素ボンベと通信機を兼ねたバッジ、鼻を押すと押した者の姿になるコピーロボット(変身中の身代わり)からなる。

 当初の設定では、セットをくれたのはスーパーマンで、正体がバレるとクルクルパーにされる、だったが、色々とまずいので、後に、バードマンから、と、動物にされる、に変わった。元々チンパンジーであるブービーがどうなるのかは知らない。

 パーマン同士では正体がバレても問題ないが、パー子の正体は知られていない。

 原作最終回において、ミツ夫は選抜されてバード星に研修に行くため地球を去った。

 実は、パー子の正体は、「ドラえもん」にも登場するアイドルの星野スミレで、「ドラえもん」作中で、スミレがミツ夫の帰りを待ちわびている姿が描かれている。




ポワトリン

 1990年放映の不思議コメディシリーズ「美少女仮面ポワトリン」のこと。

 神様から、ご近所の平和と安全を守るよう命じられた村上ユウコがポワトリンとなって悪人などと戦う物語。ポワトリンの正体がバレると、カエルになってしまう。

 「愛ある限り戦いましょう、この命尽きるまで。美少女仮面ポワトリン!」「たとえ○○が許しても、この美少女仮面ポワトリンが許しません」が名乗り口上。「○○」には、「国連事務総長デクエヤル」など、毎回違う人名が入る。

 後に、ユウコの妹のモモコもスカウトされてポワトリンプティットになるが、互いに正体を知らない。プティットは正体がバレるとザリガニになる。

 プティットの口上も同じだが、「小さな美少女仮面ポワトリンプティット!」となる。時折プティットのみでポワトリンが登場しない回もあるが、梓はプティットの方が好きだったので問題ない。

 ちなみに、劇中で、柴田理恵がポワトリンになっているイメージシーンがある。意外に似合っていた。




メガレンジャー

 1997年放映の「電磁戦隊メガレンジャー」のこと。

 邪電帝国ネジレジアの侵攻の際、たまたまその場にいた高校生5人がメガレンジャーのスーツを着て撃退した。スーツに登録されてしまったため、そのまま戦い続けることになったメガレンジャーとネジレジアの戦いを描く。

 5人は、変身しなければ普通の高校生でしかないため、ネジレジアに正体を知られないようにしていたが、終盤、ついに正体がバレてしまう。

 ネジレジアは、5人の生活空間に容赦なく侵攻をかけてくる。学校が襲われ、クラスメートや担任が重傷を負ってしまい、5人は周囲の人を護るため、家にも帰れず姿を隠すことになった。宇宙空間に基地があるんだから、そっちに移ればいいじゃん、とか思ったが、言わぬが花である。

 作中に登場する敵戦隊:邪電戦隊ネジレンジャーは、デザインがすごくよかった。ネジレッドのフィギュアーツが出たら買いたいものである。




あとちょっとだけ続く

 漫画「ドラゴンボール」で、マジュニア編が終わった際、ページの隅で亀仙人が言った言葉「あとちょっとだけ続くんじゃよ」からきている。

 この翌週からサイヤ人編が始まるが、「あとちょっとだけ」の方が圧倒的に長い。

 今回の梓は、本当に「ちょっとだけ」で終わっているが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大食いと激辛は如何なものかと昔から 大食いファイトは真似して死人もでてるし 激辛は作った人が美味しいと思えない(食えない)もの食わせんじゃねーと思いますの [一言] まみにペルシャ懐かしい…
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