77 テレホンカード
「お母さん、何見てんの?」
「これ? テレホンカードだよ。翼が中学の時に持たせてたでしょ」
「ああ、あれ。
なんでそんなにいっぱいあるの?」
翼が中学生になったばかりの頃は、部活で試合とか行くと迎えが必要だったし、ケータイの持ち込みが禁止だったから、テレカを渡して連絡させてた。
もっとも、今時会場に公衆電話なんて1台しかないからいつも長蛇の列で、そのうちこっそりケータイ持たせるようになったんだけど。
「お母さん、昔は集めてたからねぇ。今は、かなり処分しちゃったから、少なくなったんだよ」
「そんなにあるのに?」
「前は、もっとあったの」
昔って、テレカが贈答品みたいな時期があったからね、相当集まったんだよ。
映画とか見に行くと、ひところは劇場限定のテレカとか売ってたから、そんなのも結構買ってた。
今は、雑誌の懸賞とか、アニメ・特撮・ドラマ・ゲーム系、金箔とか木製とかを残して処分しちゃった。
実は、NTTにテレカを持ち込むと、手数料を差し引いて家電の通話料に充当できるって制度があったのよね。
なので、あたしは処分するテレカを十数か月分の通話料に変えたのだ。
そういえば、昔、ホワイトテレホンカードっていう、ほぼ真っ白なテレカも売ってて、あたしは高校時代にズバットカードのテレカを自作したこともあった。
ズバットカードっていうのは、「快傑ズバット」で、ズバットが敵を倒した後に置いていくカードだ。後で駆けつける警察向けのメッセージで、「この者 放火殺人犯」とか書かれている。
あたしは、ホワイトテレカにマスキングしてプラモ用の塗料でズバットのマークを書き込み、「この者 電話魔」と書き込んで喜んでたのだ。
大学時代、同人系の友達にこのカードを見せたら、「仕上げ雑だなあ、綺麗に描き直してやるよ」なんて言ってシンナーで消されてしまって、今は残ってない。
結局、なんだかんだ言って、描き直してもくれなかったし。
デキが悪くても、あたしは一所懸命作ったのよ! あの苦労を返せ!
ホワイトテレカには、サインをもらったものもある。
ゆうきまさみ、橋本潮、池田駿介、山野さと子、堀江美都子。マイナーなところでは、ほかにもある。
「どうやってサインなんかもらったんだよ?」
「橋本さんと堀江さんは、大学時代、事務所が仕事で呼んだ時にもらったの。お母さんは別の仕事入ってたから、事務所の人経由だけどね。水木一郎も来るって話があって、お母さん、ロハでいいからバックでXか何か着て踊る!って言ってたんだけど、結局イベントがぽしゃってねぇ。あれは惜しかった。
池田さんは、東京でたこ焼き屋やってたのを友達が会いに行くって言ったから、頼んだ。
山野さんは、昔、イオンにイベントで来たことがあってね、その時出掛けていってもらった」
「イオンでイベントってなんだよ」
「山野さんって“みんなのうた”とかで歌ってる人だから、そういう母子向けのステージだよ」
「お母さん、何歳の時?」
「二十歳くらいだったかなぁ」
「いい年して見に行ったのかよ」
「もちろん!
アイアイ歌ってた時、マイク向けられてね、ア~イアイって来たからア~イアイって返したの。
その後でサインもらいに行ったんだけど、“返してくれてありがとう”って言われたよ。あれのお陰でサインもらえたのかも」
「二十歳のくせになに歌ってんだよ、恥ずかしくないのかよ」
「ああいうのは照れちゃダメよ、白けちゃうから。一緒にワ~って楽しまなきゃ」
「俺、なんでこんな人の子供に産まれたんだろう」
「あんたは、お母さんの息子であることをもう少し誇ってもいいのよ」
快傑ズバット
1977年放送の東映特撮ヒーローもの。
私立探偵早川健が、親友飛鳥五郎を殺した犯人を追い求めて旅をする物語。五郎の妹である飛鳥みどりが早川を追いかけてきている。
早川は、日本全国の暴力団やギャング組織を潰して歩くが、いずれもダッカーという組織の下部組織となっている。
毎回、各組織の用心棒を、早川が得意技で上回って見せるが、その際の
「だが、その腕前は日本じゃあ二番目だ」
「じゃあ、一番は!?」
と言わせ、ヒュウ(口笛)、ちっちっちっ で自分を指してみせるというキザな仕草が有名。用心棒の得意技は、1話で拳銃、2話で居合い斬りと、当初はまともだったが、そのうちグラスを放ってシャンパンタワーを作るなど、大道芸になっていく。
肝腎のヒーローとしてのズバットは、飛鳥五郎が研究していた強化服を早川が独自に完成させたもので、“5分以上着ていると体がバラバラになる”という設定だったが、ラストにおいて、突如“5分を過ぎると鉛のように重くなる”と変更された。
毎回、早川が敵に捕らわれ、敵の気が逸れた一瞬の間にいなくなっている。そして、遙か彼方からズバッカーに乗ったズバットが現れる。
そしてボスを追い詰めると「2月3日、飛鳥五郎という男を殺したのはお前か! お前だな!」と問い詰めるのだが、毎回犯人ではない。
ズバットは、ボスの罪が書かれたズバットカードを残して立ち去るのである。
はっきり言って、ヒーローものというよりも、早川健のキザな仕草を見る番組であり、整合性とか考えてはいけない。2秒前に脇で縛られていた早川が、2km先からズバッカーに乗ってやってきても気にしてはいけない。強化服を着てヤクザをなぎ倒すとか、ヒーローものの範疇ではないと思う。でも梓は大好きだった。
ズバットの名乗りは「ズバッと参上! ズバッと解決! 人呼んでさすらいのヒーロー! 快傑ズバット!」である。というと、梓がどれだけ好きかわかるというもの。
ゆうきまさみ
漫画家。「機動警察パトレイバー」が代表作になる…のか?
梓は、増刊サンデー時代の「鉄腕バーディー」が好きだった。
「究極超人あ~る」のドラマアルバムの販促イベントで新潟市に来たことがあり、梓はその際、ゆうきまさみ、あろひろし、笠原弘子の3氏と30分くらい話す機会に恵まれた。また、この時ゆうきまさみのサイン入りTシャツをもらっている。
橋本潮
歌手。「ドラゴンボール」の初代エンディング「ロマンティックあげるよ」や「エスパー魔美」のオープニング「テレポーテーション~恋の未確認~」が有名かな。
池田駿介
俳優。故人。
「キカイダー01」で主人公のイチローを演じたほか、「帰ってきたウルトラマン」で南隊員を演じている。
梓は、イチローというと、野球選手よりこの人を、ゼロワンというと仮面ライダーよりキカイダーを連想する。
平成初期の頃、「ゼロワンチェーン」というたこ焼き屋を経営しており、梓は会いに行くという友人に頼んでサインをもらった。ただ、なぜか水性ペンで書かれてしまったため、薄くなっている。
山野さと子
歌手。
「とんがり帽子のメモル」のオープニング、エンディングを歌っている。
NHK「みんなのうた」で数曲歌っており、梓は「しっぽのきもち」が好き。
堀江美都子
歌手。数多くの特撮・アニメソングを歌っており、「アニソンの女王」とも呼ばれる。
梓はダルタニアスが一番好き。
俳優として「宇宙鉄人キョーダイン」で白川エツ子少尉を演じているほか、声優として「聖闘士星矢」でヒルダを演じていたりする。声優は、結構色々やっている。
水木一郎
歌手。たまに俳優。数多くの特撮・アニメソングを歌っており、「アニソンの帝王」と呼ばれる。
特撮系でも「超人バロム・1」や「仮面ライダーX」など色々歌っており、事務所で呼ぶ際には、歌っているバックでXやストロンガーなどに踊らせようという話があった。梓は、「じゃあ、あたしX着たい! 水木さんに会えるなら、ギャラいらない!」と手を挙げていた。会えなくて残念である。
あんたは、お母さんの息子であることをもう少し誇ってもいいのよ
元ネタは、「お前は人間でないことに誇りを持て」。
「仮面ライダーX」2話で、神敬介が助けた子供に「ロボットだ」と嫌われたことに傷つき、父(の記憶等を移植された基地のコンピューター)に愚痴った際、父が言った言葉。
これを言った後、父は、敬介の逃げ場所にならないよう、基地ごと自爆した。2話で基地がなくなっちゃったのには驚いた。エンディングで「父の叫びは波の音」と歌っているのは、海底にあった基地が爆発したからである。
人間でないからこそ、ゴッドの怪人と戦って人間を守れるということに気付いた敬介は、「人間でないってのもいいものさ」と強がれる程度には開き直れた。




