72 星雲鎖
翼が中学生の頃のこと。
実家の隠し部屋にちょっと入って整理していたら、珍しく翼が追っかけてきた。
小さい頃の翼にとっては宝の山だったけど、今ではゴミの山に評価が変わっちゃったんじゃなかったっけ?
「お母さん、この赤い鎖、何? なんでこんなところに鎖があるの?」
翼が指さしたのは、昔コスプレ用に作った星雲鎖だった。
「ああ、それはね、アンドロメダの鎖だよ。聖闘士星矢の」
翼は、アンドロメダの瞬は知らないけど、「聖闘士星矢」というマンガ・アニメがあったことは知ってるし、あたしが好きなことも知ってるから、理解できたみたい。
「で、なんでそんなもんがここにあるの?」
「昔、コスプレ用に作ったのよ」
「お母さん、コスプレなんかしてたの!?」
翼は、ギョッとした顔で訊いてきた。
あたし、結婚してからはイベント出なくなったから、翼は当然知らないよね。
「昔の話よ、大学生の頃」
そう言っても、翼の表情は冴えない。
翼ってば、幼稚園の頃にネギッコのファンを見て以来、アイドルオタク系の服装とか毛嫌いしてるからなぁ。コスプレも、普通の服装じゃないって点では、あんまり変わらないし。
あたしは、コスプレはほとんどしたことなくて、主に変身ベルトとか変身ブレスを着けての変身ポーズや名乗りポーズとかの芸がメインだったけど、アンドロメダのコスプレはしたんだよねぇ。
あたしが作ったのは、原作ポセイドン編のアンドロメダ聖衣。
ボール紙で作って、赤のツヤ紙をペーパーセメントで貼って。頭は、プラ板貼り合わせの角をカチューシャに接着したんだったかな。
で、星雲鎖は、ホームセンターで買ってきた赤いプラチェーンに、プラ板積層で作った先端のサークルとスクエアのパーツを金具で留めた。
同じ形にプラ板何枚も切るのがすっごく面倒だったなぁ。
聖衣本体はもう壊れて捨てちゃったけど、星雲鎖は残ってるんだよね。
「ほら、これ、お母さんのアンドロメダ」
当時のコスプレ写真を見せると、翼はあからさまに呆れた顔をした。失礼な。
「お母さんが、こんな恥ずかしい人だったなんて」
ちょっと! 本気で落ち込むの、やめてくれる?
「なんだよ、この新体操みたいなの」
翼が指さしたのは、ローリングディフェンスの写真だった。
「まんま、新体操のリボンだよ」
「お母さん、新体操なんてやってたの?」
「やってないよ。これは、やってた友達に借りたの」
「やってないのに使えるの? リボンってそんなに簡単なの?」
「ん~、本格的にやるならともかく、このくらいなら簡単だよ。あ、いや、もちろんできない人もいるけど」
ローリングディフェンスの写真は、左手でリボンを掲げて、クルクル回して体の周りをリボンが傘状に走っているというもの。左手でやるのがちょっと面倒だけど、そんなに難しくはないのだ。
「リボンってね、意外と芸に使えるのよ。
右手で持って同じことやれば、ウルトラマンの変身でしょ、それから、人に巻き付ければメロディータクトもできるし」
「ウルトラマンの変身って、ベーターカプセル光るだけじゃないの? あと、メロディータクトは知らない」
「ウルトラマンの変身にはね、ベーターカプセルから光の帯が出て、ハヤタの周りをこのリボンみたいにクルクル覆ってから変身するってパターンがあるのよ。
で、メロディータクトは、ファイブマンのイエローの武器ね」
「ファイブマンは知らない」
「ん~、初期の必殺技ではね、5人が個人武器で連続攻撃するブラザーアタックってのがあるんだけど、イエローはメロディ-タクトっていうリボンみたいな武器で敵を縛り上げるのよ」
「あっそ」
はいはい、どうせ興味ないよね。
でも、これはあたしの青春の1ページなのよ。
隠し部屋
梓の実家にある屋根裏部屋のようなもの。
梓のコレクションを人目につかないところに押し込めるため、家を新築した時、父が作らせた。
元々は梓の部屋と繋がっていたが、梓の結婚に伴い、部屋は弟のものとなったので、弟の部屋を通り抜けないと行けない場所になってしまった。
その後、弟夫婦が独立したため、現在は空き部屋となっていて、梓は実家に行くと時々中を漁っている。
星雲鎖
マンガ「聖闘士星矢」で、星矢の仲間である瞬が身に着けるアンドロメダの聖衣の両手首から生えている一対の鎖。
右がスクエアチェーン、左がサークルチェーンと呼ばれ、それぞれ先端に三角形と円の板状のパーツが付いている。
伸縮自在で、自己防衛本能のようなものを持っており、通常は伸ばして自分の周囲に円陣を敷き、侵入する敵を迎撃するという使い方をする。
瞬が本気になってくると、左は防衛用、右は攻撃用に特化するという性質を持っている。
防御としては、サークルチェーンを螺旋状に体の周囲に巡らせる“ローリングディフェンス”、攻撃としてはスクエアチェーンが稲妻状に進んで敵を撃つ“サンダーウェーブ”となる。
鎖でギリシャ語を書いたり、目を合わせないと発動しないオルフェウスの盾で石化されたりと、お茶目な能力を満載している。
武器を使わず肉体のみで戦うという聖闘士の定義を最初に崩したのが、この星雲鎖で、聖衣のパーツなら武器じゃないのかと疑問を抱かせた。後に、射手座の弓矢のような“武器じゃないはずなのに、武器として使う”展開があるのは、これのせい。それまでは、せいぜいドラゴンの聖衣の“硬い拳と盾”くらいで、これは鎧の範疇だった。
アンドロメダの瞬
星矢の仲間の1人で、“強いのに、優しすぎるせいで実力を発揮できない”タイプ。
マンガ版についてだけ言えば、通常は星雲鎖でだけ攻撃するため、“聖衣に頼り切っている”ように見えるが、本領を発揮すると聖衣関係なしにとんでもなく強い。
よくある“普段は強キャラに見えないのに、いざとなると最強キャラ”である。
聖衣は、むしろ本気を出さないための安全装置であり、星雲鎖が通じなくなってからが本領。ネビュラストリームで敵を拘束し、身動きできなくしてからネビュラストームで吹き飛ばすという極悪コンボで、いずれも搦め手系の敵だったとはいえ、倒せなかった敵はいない。
ネギッコ(Negicco)
新潟のご当地アイドル。女性3人で、1人は既婚。
2003年に「やわ肌ねぎ」のPRのために結成された。当時は4人だったらしい。
地元では、NGT48よりメジャーで、各種CMにも出演している。
翼が幼かった頃、梓が一家で新潟市の商店街イベントに出掛けた際、ネギッコのステージがあり、翼は“おそろいのTシャツを着て、両手でネギを持って踊る”ファンの姿に怯え、以後、オタ芸とかアイドルオタク等を毛嫌いするようになった。
ウルトラマンの変身
通常は、ハヤタがベーターカプセルを光らせるとすぐ変身するが、3話と10話において、ベーターカプセルから出た光の帯がハヤタの体の周りを螺旋状に囲んでから変身するシーンがある。
梓は、このシーンをリボンで再現する芸を持っている。
ファイブマン
スーパー戦隊シリーズ「地球戦隊ファイブマン」のこと。
5人全員が兄弟で、いずれも小学校の先生という設定。ただし、1話で学校が壊されたため、実質先生をやっていない。あと、小学校の先生なのに担当教科があるのはおかしいと誰か突っ込んでやってほしい。
5人それぞれが腰の銃:ファイブラスターから外したグリップにパーツを付けて個人武器を作るようになっており、音楽教師であるイエローの個人武器は「メロディータクト」という8分音符のひげがリボンになっている武器。そのリボンで敵を縛るという使い方をすることが多い。
梓は、ヒーローショーのバイト時代、ステージショーでメロディータクトを使ったことがある。これは、新体操のリボンに、メロディータクトの外装を付けたもので、筒の中にリボンのスティックが入っている状態だった。
クルクルと螺旋を作った後、怪人の頭からかぶせて引き絞ると、リング状に縛った状態ができるので、そこでグリップから手を放せば本物に近い状態になる。
風のある屋外では使えない、客席が近いとリボンが客に当たる危険があるなど、制約が多いため、ステージショーでしか使えない技である。




