70 魔女が嗤う
「ヒッヒッヒッヒッヒ…」
「だから、その笑いやめろって」
仕方ないじゃない、これがあたしの普通なんだから。
あたしは、笑い上戸(お酒飲まないけど)で、しかも笑い声が独特らしい。
元々は、おじいちゃんが好きだった「水戸黄門」で、東野英次郎さんの「カッカッカッカッカ…」って笑い方が好きで真似してるうちに、いつのまにかそれが染みついちゃって。
その後、あたしの中で独自に成長した笑い方は、もう黄門様の笑い方とは全く違うものになった。
日常でのちょっとした笑いなら、「ふふふ」程度なんだけど、爆笑する時は「ヒッヒッヒッヒッヒ…」という笑い方。それより少し緩やかな時は、「ヒヒヒヒヒヒ…」という笑い方になる。
冗談抜きで、自然にそんな笑い方なのだ。
「ヒヒヒヒヒヒ…」の時は、ドクロ少佐みたいだなぁと自分でも思うのだけど、爆笑時の「ヒッヒッヒッヒッヒ…」は、天さんには“魔女の嗤い方みたいだ”と、大変に不評だ。
まぁ、そうは言ってもね。ふざけてそんな笑い方してるわけじゃないんだから、直せとか言われても困るのよ。
どうもあたしは、根が特撮的というか、動きがいちいち芝居がかっているらしい。
昔、演劇やってる友達に、
「美波さん、声通るし動きダイナミックだし、芝居やってみない?」
なんて誘われたこともある。
まぁね。
死んだ父さんからは、小っちゃい頃「30分黙ってられたら、おもちゃ買ってやる」とか言われたくらい、うるさがられたからね。
今も声が高いと言われるけど、小っちゃい頃は、もっと高かったらしいし。
頭にキンキン響く声だって言われたもんなぁ。
ああ、もちろん30分黙っていて、おもちゃはせしめましたとも。あたしの前に人参ぶら下げれば、当然そうなるよね。
真似してやっていたことが染みついて地になるっていうのは、結構あるのよ。
時間が経つと、元ネタすらわからなくなったりもするから、あたし自身、自分の動きのどこが何から来ているかなんて、訊かれても答えられないものもある。
例えば、あたしは、質問に対して答えを考える時に、左の頬に左手の人差し指を当てて、そこから指を顎まで沿わせて首をちょっと左に傾けて「う~ん…」とやる。
このポーズも天さんには不評で、
「お前、年いくつだ」
とか言われてしまう。や~ね、妻の年も覚えてないの?
実はこのポーズ、元ネタがあるのかどうかすらわからない。
一頃、顎の下に左の人差し指を当てて考えるっていうのをやってた時期があったとは思うんだけど、いつからこうなったのかなぁ。
元ネタははっきりしてるけど、いつの間にかモノマネじゃなくて定着しちゃったってパターンもある。
あたしは、「ああ、それはいい」的なニュアンスで、柏手を打つ癖がある。
これ、元々は“柏手のヤス”の癖をネタで真似てるうちに定着しちゃったパターンなんだよね。
同じようなパターンの“雄介のサムズアップ”は定着しなかったのに、不思議よね。
わかった上で、敢えて今でもやってるネタもある。
例えば、“ボウケンレッドのアタック”なんかがそう。
「轟轟戦隊ボウケンジャー」のレッドは、変身前後を問わず、作戦行動を開始する時に「アタック!」と言って指を鳴らす。
右手を顔の高さに挙げ、親指と中指で指パッチンして「アタック!」って言う、それだけの仕草なんだけど、あたしはたまに、気合いを入れて動くためにこれをやる。
ただねぇ…。翼ったら、これ、すっかり忘れちゃってて、あたしがこれやると、すっごく冷たい目で見てくるのよねぇ。
以前、あたしが何かを翼に頼んで、「かかれ!」って意味で「アタック!」ってやったら、キョトンとされて、
「あれ? なんで反応しないの?」
と聞こえよがしにつぶやいたら、翼に呆れた声で言われちゃった。
「なんでって、逆に、なんで反応できるって思うのさ?」
…おかしい。
翼は「ボウケンジャー」大好きだったはずなのに。あたしが「アタック!」ってやると、喜んでたのに。
「え、だって、“アタック!”だよ? 翼、知ってるでしょ?」
あたしとしては、心底不思議に思って訊いたのに、翼の反応は相変わらず冷ややかだ。
「知らない。なにそれ?」
「ボウケンジャーだよ。レッドがこうやって“アタック!”って」
「ボウケンジャーなんか、もう覚えてないよ。
いつのだよ」
「え~っと…14年前?」
「俺、3歳じゃないか! 覚えてるわけないだろ!」
なぜ怒られたし。
翼、ボウケンジャー大好きだったじゃない。
あたしのミニプラ・ダイボウケンとか、よくいじってたじゃない。ちゃんとお下がりしてあげたでしょお。
「梓、普通はそんな小さい頃のこと、覚えてないって。
3歳の頃のこと覚えてるのは、お前くらいだ。
まったく。最近のことはすぐ忘れるくせして、昔のことばっかよく覚えてんだから」
天さんまで攻撃してきた。あたし、泣いていいかな。
「ボウケンレッドの“アタック!”は、決めぜりふだったじゃない。結構印象強かったよね」
一応食い下がってみたけど、ダメだった。
翼ってば、7年前に今の家に引っ越して来た日の夕飯に何食べたかとか覚えてるくせに、こういうのは覚えてないのかぁ…。
「野菜王子は、ボウケンブルーだよ」
「それは知ってる」
む~ん。
「水戸黄門」
1969年からTBS.系で放映していた時代劇。
水戸藩の元藩主:水戸光圀が、身分を隠し、助さん格さんといったわずかな人数で旅をし、行った先々で悪代官などを懲らしめるという痛快時代劇だった。
8時45分頃になると、敵の本拠に乗り込み、用心棒などをあらかた倒した後で、三ツ葉葵の印籠を示し、「この紋所が目に入らぬか! こちらにおわすお方をどなたと心得る! 恐れ多くもさきの副将軍、水戸光圀公なるぞ」などと正体を明かす。
ワンパターンじみてはいるが、この安定したカタルシスで、主役を演じる役者を交代させつつ2011年まで続いた。
ちなみに、水戸光圀が副将軍だというのはフィクション。
初代で光圀を演じた東野英次郎は、事件解決のおりに「カッカッカッカッカ…」と高笑いする。梓は、幼い頃、この笑いが大好きで、よく真似をしていたら、染みついてしまった。
ドクロ少佐
1975年放映の「仮面ライダーストロンガー」に登場するデルザー軍団の改造魔人。
チャージアップしたストロンガーの最初の犠牲者となった。
甲高い声で「ヒヒヒヒヒヒ…」と笑う。梓の笑い方は、これを真似たわけではなく、偶然の一致である。
柏手のヤス
週刊少年マガジンで1997年から連載された「将太の寿司」に審査員として登場するキャラ。本名:溝口安二郎。
美味しいものを食べると、つい柏手を打つ癖があることから、このあだ名が付いた。
作中、この人の柏手が出るかどうかが、おいしさのバロメータとなっている面があった。
雄介のサムズアップ
2000年放映の「仮面ライダークウガ」で、主人公五代雄介は、「大丈夫」とか「任せて」といった意味合いで、右手を前に出してサムズアップする。
これはクウガに変身してもやる動作であり、クウガの可動フィギュアでは、大抵サムズアップの手首が付属する。
元々サムズアップには、そういう意味合いがあるのだが、「クウガ」で、雄介が小学生時代に父を失った際、恩師から「こういうのを知っているか。古代ローマで、満足できる、納得できる行動をした者にだけ与えられる仕草だ。お前もこれにふさわしい男になれ」と励まされたというエピソードがあるため、一時期はサムズアップと言えばクウガ、という感じになっていた。
「轟轟戦隊ボウケンジャー」
2006年放映の戦隊シリーズ30作目。
「プレシャス」と呼ばれる宝を集めることを目的とする、シリーズ初の“平和を守ることを目的としない”戦隊。メンバーは、それぞれトレジャーハンターであり、“お宝の発見”が主目的である。
プレシャスとは、、危険性を伴う先史文明の遺産などであり、その危険性を「ハザードレベル」という数値で表していた。ボウケンジャーは、危険な宝を手に入れて安全に保管するために雇われているのだ…が、クライマックスでは、プレシャス保管庫を襲われたボウケンジャーの雇い主は、保管庫を爆破するという暴挙に出た上、実はボウケンジャーの各システムのエネルギー源はプレシャスそのものだったことが明かされた。言っていることとやっていることがこれほど違う戦隊も珍しい。
敵組織が同時に4つ登場するのが特徴で、ある時は三つ巴の奪い合い、ある時は敵の共闘が見られた。
ダイボウケン
ボウケンジャーのメインメンバーが搭乗する5台のメカが合体して完成する巨大ロボ。
手足を別のメカと換装することもできる。
主力武器である轟轟剣は、スコップとツルハシを合体させて作る。
手足を換装する際、外した腕などを背中などに合体させることで、合体総数を増やすのが特徴であり、手足全部を換装すると、9体合体のスーパーダイボウケンになる。更に、背中に飛行機メカを合体させることで、10体合体アルティメットダイボウケンになる。
ちなみに、換装用の手足メカを飛行機メカに合体させると、2号ロボの ダイタンケンになる。
ミニプラ
バンダイが出している食玩のプラモデルシリーズ。
申し訳程度にガムが1粒付いている。
見た目と可動性を両立させることを重視しており、造形的にも超合金よりよくできていることが多い。
最近では、大人向けのスーパーミニプラが登場しており、パーツメカ1個が2000円とかするものもある。
野菜王子
ボウケンブルー:最上蒼太を演じた三上真史は、2011年からNHK「趣味の園芸」に出演したのがきっかけでガーデンコーディネーターの資格を取り、園芸や家庭菜園などを扱う番組に出演することが多くなった。
その甘いマスクから、野菜王子と呼ばれている。
ちなみに、梓は、King&Princeの阿部亮平くんと見分けが付かない。




