62 上は大火事、下は大水…って、このナゾナゾを知らない!?
夕べ、新マンの改造ネタをアップしています。
翼は、夏の間、学校に毎日紅茶を持っていく。2ℓのペットボトルで買ってきて冷やしておいたものをマイボトルに移し替えて。2ℓのペットボトルって、100円ちょっとで買えることが多いからお得なのだ。
もちろん、マイボトルの紅茶だけじゃ足りないので、別に500mlのペットボトルの飲み物も持って行く。いろはすとか、緑茶とか、そういう系のものを。
で、そっちは冷凍して持っていってる。マイボトルが空になる頃には溶けてくるから、ちょうどいいらしい。
「今日は溶けるの遅くてさ、飲んでたら途中で氷だけになっちゃったよ」
要するに、溶けた分は飲み切っちゃって、まだ溶けてない部分だけ残って困ったらしい。教室に冷房が入ってるせいで、室温がそんなに上がらないからかな? 公立高校の教室にエアコンがあるなんて、今の子は恵まれてるよね。まぁ、あたしの頃より平均気温が上がってきてるから、単純に比較しちゃいけないんだろうけど。
しっかし、溶けた分全部飲んじゃったら、余計に溶けるの遅くなるだろうに。
ふと、思いついた。
「ねぇ翼、その凍らせたペットボトル、無重力状態でテーブルに置いといたら、どんな風に溶けると思う?」
「「無重力?」」
翼と天さんがハモった。
天さんは文系だし、こういうのわかんないだろうけど、なんで翼まで。翼って、理系だよね?
「破裂するとか…?」
「それは、無重力じゃなくて真空でしょ!」
水を入れたビーカーを密閉空間に入れて空気を抜いていくと、気圧が下がったことによる沸点の低下で沸騰を始め、やがて沸騰しながら凍結する。沸点と凝固点が同じになるかららしい。
でも、それは重力は関係ない話よね。
「飛んでくとか?」
天さんがとんでもないことを言ってきた。うん、これは真面目に言ってるよね。どこのペットボトルロケットよ。困ったもんだわね。
「どこに飛ぶのよ。無重力ったって慣性はあるんだから、テーブルに置いたらそのまま動かないわよ」
「ん~~~?」
翼ったら悩んでる。おいおい、それでいいのか、理系高校生?
待ってても答えは期待できそうにないから、解答タイムにしようか。
「答えは、“溶けない”よ」
「は?」
驚いてるなぁ。いかんよ、そこは気が付いて「ああ、そうか!」ってならないと。
「なんで溶けないの?」
「正確には、溶けるけど、すっごくゆっくりしか溶けないのよ。
重力がないってことは、対流しないでしょ。だから、表面の氷は溶けても、溶けたまんまそこに留まるわけ。
もちろん熱伝導はあるから、じわじわと内側に向かって溶けていくけど、室温くらいの温度じゃたかが知れてるから」
「対流? ってなに?」
え!? そこから!?
「ちょっと、あんた理系でしょ! 対流知らないってどういうこと!?」
「いや、聞いたことはあるような気がするけど、…う~ん…」
実は、あたしの頭の中では、最初の質問の時点で、「バイファム」の「手を顔の前で動かすんだ!」というシーンが浮かんでいたんだけど、とても披露できるような状態じゃなかった。
だって、翼ったら、本気で対流がわからないみたいなんだもの。天さんだって、“対流ならわかる”って顔してるのに。
「あのね、水って温度によって重さが違うでしょ。
だから、温かいのが軽くなって上に行って、その分冷たいのが下に来てって、それが対流でしょ」
「水って温度で重さが変わるの?」
そこから!?
「お風呂のお湯って、上の方が…って、あ~っ!! あんた、お風呂沸かしたことないじゃん!」
「?」
翼は、あたしが何に驚いてるのかわからないって顔してる。
「そうだよね、あんた、お湯が出てきて溜めるタイプのお風呂しか見たことないもんね」
今の家はオール電化で、夜中に沸かしてあったお湯が出てくるタイプ、前のアパートはガス給湯器で沸かしたお湯を蛇口から出して溜めるタイプ、天さんの実家も夜間に沸かしておいたお湯を蛇口から出すタイプだ。
浴槽に水を張って釜で沸かすタイプのお風呂を、翼は見たことがないんだ!
「あのね、昔のお風呂って、水をガス釜で温めてお湯にしてたの。だから、上の方は熱いけど、下の方は水のまま、なんてことがよくあったの」
「風呂には、かき混ぜるための棒なんかあったよな」
「そうそう」
「水…? お湯…?」
あ~、まだわかんないって顔してるよ。
「あんた、もしかして“上は大火事、下は大水、な~んだ?”ってナゾナゾ、知らなかったりする?」
「知らない。なに、それ?」
「風呂か」
「天さん、答え言ったら駄目じゃない!
まぁ、この様子見てれば、翼が答えられないのは間違いないけど」
「なんで、風呂で大火事なんだよ?」
「知らないわよ! そういうナゾナゾなの!
お母さんが子供の頃には、もうあったのよ!」
「俺が子供の頃に住んでた社宅、五右衛門風呂だった。浴槽が石で、薪で沸かすんだ」
「あたしん家はガス釜だったなぁ。幼稚園の頃までは、浴槽が木でね。
五右衛門風呂も入ったことあるよ。高校生の頃、佐渡の親戚の家に遊びに行った時。浴槽が金属製でさ、うっかり触ると熱いの! ホントに鍋の中にいる気分だったわ」
おっと、いけないいけない、脱線しちゃった。
「とにかくね、水って、温度によって微妙に体積が変わんのよ。同じ質量なのに体積が変わるから、比重、つまり重さが変わるわけ。で、基本冷たい方が重いから、温まった水が上に上がって、冷たい水が下に下がる、それが対流。
重さってことは、重力が必要なわけ。
重力がないと、重さが変わっても動かない。
ペットボトルの中の氷は、溶けた部分が対流で動くことで、触れる水が変わってまた溶けるんだけど、水が動いてくれないとずっと同じ水にしか触れないから、温度変化に乏しいんだよ。
そうすると、室温からの熱伝導だけで溶けることになるから、めっちゃ遅いの」
「熱伝導…?」
ちょっと! 嘘でしょ!? なんで理系高校生のあんたが文系のあたしより弱いのよ。
これ、科学とか化学とかじゃなくって、理科の領分よね?
「ん~、対流を一番身近に感じるのって、風呂だったからなあ」
天さんがしみじみ言う。
そっか、天さんって、普段からあたしよりジェネレーションギャップに晒されてるんだよね。
鍋だと、水流は見えるけど、温度差を体感するのは無理だもんねぇ。
本当は、ここから「バイファム」の話に持って行くつもりだったんだけど、アテが外れちゃったなぁ。
笑い話ではあるけど、これって、実は案外笑えない、怖い話なんじゃなかろうか。
今や、お風呂っていうのはスイッチを押せばちょうどいい温度でお湯が出て、溜まると勝手に止まって「お風呂が溜まりました」とかしゃべって教えてくれる。
その仕組みがどうなってるのか興味を持つ子なんていないだろうし、よしんばいたとしても、親だって説明できないだろう。
みんなブラックボックスに慣れすぎてる。
スマホの普及で、むしろパソコンを使えない若い子が増えてるって話もあるし。
日本、大丈夫なの?
上は大火事、下は大水
やっぱり翼達の世代には存在しないナゾナゾだった。
別バージョンとして、「上は大水、下は大火事」というのもあるらしい。それって、風呂は風呂でも五右衛門風呂以外は当てはまらないのでは? むしろ鍋のお湯では?
五右衛門風呂
石川五右衛門が釜ゆでの刑に処されたという伝説から、浴槽の下で直接火を焚いてお湯を温めるタイプの風呂をそう呼ぶ。
当然というか、浴槽の下面は鉄でできている。
コンロの上の鍋、または竈を想像するとわかりやすい。
浴槽全体が熱せられるので、浴槽の縁に触れると火傷しかねないほど熱い。
ただし、下面付近だけ鉄で、浴槽本体は木などでできているものもあるのだとか。浅い鍋を木で覆って延長したようなものらしい。天さんが言っているのはそのパターンと思われる。
当然、底面は熱いので、木の板を沈めてそれを踏んで入ることになる。うっかり板が傾いたりすると、これまた火傷する危険がある。
「東海道中膝栗毛」で、弥次喜多が下駄を履いて入り、底を抜かしたのが有名。
「バイファム」
1983年放映のサンライズロボットアニメ「銀河漂流バイファム」のこと。
地球から遠く離れた植民星クレアドが謎の異星人の攻撃を受けた。軍人達は、旧型の練習艦ジェイナスを逃がすために次々と戦死し、脱出したジェイナスに乗っていたのはロディ達15人の少年少女と、地質学者のクレークとケイトだけだった。
やがてクレークとケイトもいなくなり、15人だけで両親の囚われたククト星を目指す。という物語。「ロボット版15少年漂流記」とも呼ばれる。
OPの歌詞が全て英語ということで有名。
また、中盤までは、敵からの攻撃は長距離砲撃が主体で、ロボット戦が少ないのも特徴。
後半、実はクレアドは、核で荒廃した星で、異星人が再生作業中に地球人が侵略したという事実が判明する。
クレアドから回収されジェイナスに収容されていた謎のモニュメントは、惑星再生用のシステムで、ククトニアンのコンピュータに悪影響を与えるため、ククトニアンのロボットは接近してこなかったのだ。
ジェイナスのメインコンピュータ「ボギー」は、日本のロボットアニメで初めて“会話で指示できるAI”である。誰かの記憶をコピーしたとかではなく、ただのAIだが、会話で意思疎通できる。ただし、融通は利かない。
例:「現在のクルー15名で地球に帰還できますか?」「不可能です」「現在のクルー15名で地球に帰還する方法はありますか?」「3つあります」……訊かれたことにしか答えてくれないのである。
本作の特徴として、“SF考証がしっかりしている”ことが挙げられる。
ジェイナスには、宇宙を旅する際の情緒安定のための“並木道の通路”があったり、乗員用のエロ本書庫もある。
梓が翼との会話の際に思い出していたセリフは、1話でケンツが無重力ブロックに放り出された際に軍人から言われたもの。
これは、無重力では空気が対流しないため、吐き出した呼気がいつまでも口の前にあり、自分で吐いた息をまた吸うことになる=酸欠を起こすのを防ぐ目的。顔の前で手を動かして気流を作ることで、顔の前の空気を入れ換えるのである。
梓は、「バイファム」のムックでこの意味を知り、初めて“呼吸が空気の対流の恩恵に与っている”ことを知った。
また、本作のロボットであるRVは、アニメロボとして初めて全身様々な方向に噴射口を持つロボットであり、バーニアからの細かな噴射で姿勢制御を行う姿を見せた。
モビルスーツのように、“背面のバーニアを全開にしながらバックする”ようなシーンは存在せず、全て噴射した反対側にのみ動く。
また、“移動中の母艦から出撃したRVが母艦から離れすぎると、相対速度の関係で帰艦できなくなる”というリアルな描写もあった。
多分、宇宙空間での機動兵器の描写で、「バイファム」よりリアルなアニメはないと思う。




