6 半分だけ青い…?
いくらヒロインの父が漫画好きだったとはいえ、特撮番組のマグマ大使は見ていないと思うのです。
某国営放送の朝ドラのタイトルを聞いて「人造人間キカイダー」を連想した人は多いんじゃないかな。
あたしは「花子とアン」以来まともに見ていないんだけど、天さんは職場でお昼休みに流れてるのをなんとなく見てるらしくて、あたしより詳しい。
ある日、天さんに訊かれた。
「あのさ、朝ドラで、笛吹いたら山からロケットが飛び出すシーンがあるんだけど、見た?」
「知ってるでしょ、あたし、朝ドラ見てないの。
山からロケットって、どんなドラマよ」
「ん~。梓なら知ってるかと思ったんだけどなあ。
なんかよくわからない演出なんだけど、ヒロインが笛吹いて友達呼び出すシーンにかぶせて、山からロケットが飛び出すシーンが流れるんだよ。あれ、絶対その手の番組だと思うんだよなあ」
笛でロケットって言ったら、あれだよねぇ。
「マグマ大使じゃないの? ピロリロリー、ピロリロリー、ピロリロリーって」
「マグマ大使? 知らない。どんなの?」
「う~ん、金色のロケットで、笛を3回吹いたら飛んで来る。1回だとガム、2回だとモルが飛んで来るの」
あ~、まだわかんないって顔してるなあ。
あたしは、スマホでググった画像を天さんに見せた。
「こんなやつ」
「あ、これだ! さすが梓、よくわかるなあ、あの程度のヒントで」
「ん~、常識じゃない?」
「だから、お前の常識は、世間では常識じゃないから」
「笛を吹いたら飛んで来るロケットって言ったら、真っ先に思い浮かべるのはマグマ大使でしょうが。
試験に出るよ?」
「お母さん、そんなの、絶対試験に出ないから」
翼から思わぬ反論が出た。
まだそんな甘っちょろいことを言ってるのね。
「ムーミンが試験に出たの、忘れたの? しかも翼ったら、あのニュースの後で、試験に出されたのを間違えたんじゃなかったっけ? あー、恥ずかしい。それでもお母さんの子なの?」
構ってやると、翼は目を泳がせた。
ふっふっふ。
翼がまだ中学生だった頃、試験の時事問題で「ムーミンの出身地が試験に出たことがニュースになったが、その答えはどこだったか?」という問題が出て、翼は答えられなかったのだ。
痛いところを突かれた翼は、それでも
「ムーミンとマグマ大使じゃ違うだろ。俺、マグマ大使なんて聞いたことないぞ」
と反論してきた。
「マグマ大使は、手塚治虫原作で、国産特撮番組初のカラー作品だよ。マジンガーZに対してのアストロガンガーみたいなものよ。
歴史的にも重要なんだから」
「お母さん、それ、絶対おかしいよ…。
この前、先生がライディーンの話したとき、クラスで俺しかわかんなかったんだぞ。お母さんのせいだからな」
「あら、ライディーンの話題出すなんて、見所のある先生じゃない。
あれも古典の域よ、知っておいて損はないわ」
「絶対ずれてるから…」
あれ? 翼ががっくりしてる。
おかしいなあ。
まあ、それはそれとして。
「あの朝ドラ、1話だけ流し見したけど、主人公1971年生まれだよね。マグマ大使って1966年放送なんだけど。
ビデオもない時代だし、再放送なんかなかったはずだし、本放送が遅れてるにしては遅すぎるし、主人公がマグマ大使知ってるって、おかしくない?」
「なんで放送した年までわかるんだよ?」
「ウルトラマンより2週間早く始まったのよ。つまり、同じ年の放送だから、1966年」
「だから、なんでわかるんだ? それもお前の中じゃ常識なのか?」
「ウルトラマンが1966年、仮面ライダーが1971年で、5年違いなの。だからウルトラマンが50周年だと、仮面ライダーは45周年。ちなみに、戦隊シリーズは40作品目ね。
今年は、ウルトラマンが52周年、仮面ライダーは47周年、戦隊は42作品目になるわ」
「…なんだ、作品目って?」
「今、戦隊シリーズは、1975年放送のゴレンジャーから数えるから、ウルトラマンとかからは1年ずれるんだけど、作品数でいくと同じ年にキリが良くなるのよ。そのせいか、戦隊だけ年数じゃなくて作品数で数えるの。
ついでに言うと、帰ってきたウルトラマンも仮面ライダーと同じ1971年放送だから、最初のウルトラマンとちょうど5年違いでね。新マンの40周年はウルトラマンの45周年に隠れてしまって祝ってもらえないという悲しい運命なのよ。新マンって、こういうところまで地味で不幸よね。きっと3年後の50周年も、ウルトラマンの55周年に隠れてしまうんだわ。あたし、新マン好きなのに」
「お前の知識が無駄にすごいことは、よくわかった」
「一応言っとくけど、マグマ大使は常識だからね。うちの母さんもわかるからね」
「まさか」
天さんは笑ってるけど、認識が甘いね。
半月くらい経って、ゴールデンウイークに実家に顔を出した時、あたしはさりげなく「マグマ大使」という言葉を出してみた。
すると。
「そういえば、この前、何かのドラマにマグマ大使が出てたよね」
思った通り、母さんは食い付いた。
「それって朝ドラだよね」
「ああ、そうそう。梓が小さい頃に一緒に見たよね」
「母さん、それ、あたしじゃないから。マグマ大使の頃、あたし生まれてない。
母さんが独身の頃、本家の従兄と一緒に見てたんでしょ」
「ああ、そうかも。エイトマンとか一緒に見たわ」
「お義母さん、この前、笛吹いたら山からロケットが飛び出すって話したら、梓はすぐマグマ大使だ!って言いまして。お義母さんも知ってるからって豪語したんですよ。
本当に知ってるんですね」
「昔のはねぇ、梓とか甥っ子とかと一緒に見てたから。
梓が大きくなった後のは全然わからないのよ」
「わかった? 天さん。マグマ大使は常識なのよ」
「いや、それには同意できない」
このわからず屋め。
解説
人造人間キカイダー──前回の解説にも出た、右半身が正義の青、左半身が悪の赤で構成される左右非対称のヒーロー。「半分青い」と聞いて、梓が真っ先に思いついたのがこれ。同じ青と赤でも、「超人機メタルダー」とか言ってたら、天さんはタイトルすら知らなかったと思われる(ちなみに翼は知っている)。
マグマ大使──手塚治虫原作の特撮作品。ウルトラマンより13日早く放送されたため、ウルトラマンは「日本初の国産カラー特撮作品」を名乗れない。
マジンガーZに対してのアストロガンガー──アストロガンガーは、カンタローという少年が合体(というか胸に吸い込まれる)ことにより真価を発揮する巨大ロボ。マジンガーZより2か月ほど早く放送開始しているため、マジンガーZは、初めての“人間が乗って動かすロボットアニメ”を名乗れない。ただし、“人間が操縦する”という言い方をすると、マジンガーZが最初になる。