58 味噌汁が飲みたい
翼は、味噌汁が好きだ。
部活の遠征から帰ってくると、味噌汁を要求する。
「何を食べたい?」って訊いても「何でもいい」って答えるくせに、少なくとも味噌汁が並ぶようなメニューであることだけは要求する。もしパスタとか出そうものなら、この世の終わりみたいな顔をする。
禁断症状でもあるのか⁉︎
天さんも味噌汁が好きだ。
「1日に1回は味噌汁飲まないとな」と言って憚らない。
ちなみに、天さんが飲みたいのは味噌汁であって、すまし汁とか醤油系のものは認めてくれない。
あたしは、シメジが入るんなら醤油で味付けしたいんだけど、それは許してくれないのだ。
昔、実家では、湯豆腐にタラの切り身も入れていて、終わった後は、鍋に残ったお湯に、同じく残った薬味(ネギの入った醤油)を入れ、醤油を足して味を整えて、簡易な味噌汁(というか醤油汁)にしていた。
あたしは、それが大好きだった。
父さんは、ギスのすり身をつみれにして醤油で味付けしたつみれ汁が大好きで、あたしもそれが大好きだった。
父さんと料理の好みが合わないあたしだけど、これと鮎の塩焼きだけは重なってた。
この2つが好きだったから、あたしは醤油汁が好きになったんだと思う。
大人になってから気付いたけど、母さんは味噌汁を出汁を取らずにほんだしを使う人だった。共働きだったしそういうところは簡略化していたんだろう。
あたしが小さい頃は祖父母が一緒に住んでいて、祖父が市販の麺つゆとかダメで、ちゃんと出汁を取らないと食べないもんだから、いつも祖母が作っていた。
もちろん、味噌汁もそうで、あたしが幼稚園の頃は、鰹節を削るのはあたしの役目だった。
多分、そのせいで、あたしは出汁を取っていない味噌汁が苦手で、母さんの作る味噌汁は好きじゃなかった。その分、タラの出汁やギスの出汁が滲み出ている汁が大好きだったんだろう。
あたしが小4の頃、祖母が体を壊して、以後は母さんが仕事から帰った後、夕飯を作るようになって、あたしは母さんの味噌汁が嫌いになった。
風呂拭き大根の昆布出汁に、残ったネギ味噌を入れた味噌汁も好きだったなぁ。
そんなわけで、鷹野家では、味噌汁は出汁を取る。
結婚当初は、結納に付いた鰹節を使ってた。
天さんとこのお義母さんも、ちゃんと出汁を取る人だったので、天さんにもウケがよかった。
その鰹節が終わった後は、お得用のでっかいパック入りの削り節を使っている。なにせ鰹節は高いので。
あたしは、ちょっと強めの出汁が好きなので、鰹節の削り節じゃなく、混合削り節を使っている。お浸しなんかは、鰹節の削り節だけど。
混合削り節を鍋のお湯に放り込んで、網で適当にすくうっていうアバウトなやり方だから、削り節のカスが残る味噌汁だけど、そんなことは気にしない。
ちなみに、時間がない時とかは、汁椀に削り節と刻みネギ、味噌を入れて熱湯を注ぐ手抜きパターンもある。
これは、昔「美味しんぼ」で、手抜きのうどんを作る時のやり方として載っていたものだけど、こんな手抜きでも、インスタントなんかより美味しい味噌汁になるのだ。
鷹野家では、これを“なんちゃって味噌汁”と呼んでいる。
あたしと天さんは、出会って半年足らずで結婚したから、同棲とかしていた時期がない。
あたしの作った味噌汁を天さんが初めて飲んだのは新婚旅行から帰った後だった。
なので、プロポーズの定番の1つである「君の作った味噌汁が飲みたい」はなかったなぁ。
首輪つけられちゃったしね♡
プロポーズの言葉は、「首輪、着けたから。俺んだからね」でした。
詳しくは、梓と天平シリーズ第1作「FALL IN LOVE ~それは、坂道を転がり落ちるように~」をごらんください。
付き合ってからのくだりは、ほぼ実話です(^^)




