56 超ウルトラ・ドン
土曜の夜7時半頃、あたしの背後でBSでガンダムをちょっと見てた翼が、チャンネルをちょこちょこ変えてる最中に「しまった!」と言った。
「何が“しまった”なの?」
「いや、なんでもない」
なんでもないって、あんた、あからさまに怪しいんだけど。
もしかして…
「今の“どれみ”のこと? 大丈夫、見ないよ」
って言ってやったら、
「なんでわかんの!?」
なんて焦ってる。今流れたの、どれみのイントロじゃない、わからいでか。あんた、あたしが「あ~、どれみやってる~♪ 見よっかな~」とか言うとでも思ってんでしょ。
「だって、今の、どれみのOPだったでしょ? 大丈夫、無印は前に全話録画してるから」
いつでも見られるから、元々見ようと思ってたエピソードでもなきゃ、わざわざ見ないって。
安心させようと思ってそう言ったのに、翼ったら
「ヤベえ! この人ヤベえよ!」
とか騒いでる。
あたしが見たら、音が聞こえてくるから嫌なんでしょ? 見ないって言ってんのに、なんなのよ、一体。
「あの一瞬で、なんでわかんだよ!」
え? そっち?
「そりゃわかるでしょ、OPくらい」
「ほんの一瞬だったよね!」
「あそこ、特徴的だからね。そりゃわかるよ」
「超ウルトラ・ドン! みたいだな」
天さんも参戦してきた。
「今の、途中だったし。あたし、超ウルトラだったら無理だよ」
「フツー、わかんないって!」
翼はまだ不満らしい。
「翼だって、よく“これ、夏目の曲だ”とか言ってんじゃん。あたし、あんなのわかんないよ。よっぽど特徴的じゃないと」
バラエティ番組とかって、よくアニメのBGMなんかを流用してるけど、翼は耳がいいらしくって、「この曲は夏目の」とか「これ、ユニコーンの○○のシーンで流れたやつ」とか言う。
あたしもユニコーンガンダムは見てたけど、BGMとか全然わからない。
それ考えたら、翼の方がすごくない?
「俺、一瞬じゃわからないからな!
お母さん、なんであの一瞬でどれみってわかるんだよ」
「なんでって言われても…。
“おジャ魔女カーニバル!!”のイントロって、特徴あるから」
「だいたい、俺がどれみ知ってるのがおかしいんだよ。
この前、英語の時間にポケモンとデジモンとプリキュアとさくらが出たけど、さくら知ってる男なんてほとんどいなかったんだぞ。俺以外は、みんなお姉ちゃんが見てたって奴ばっかりで。
俺、CMで見たから知ってるってごまかしたけど」
「だったら“お母さんが見てたので”でいいんじゃない?」
我が家は、親子3人揃ってさくらが好きなのだ。
まぁ、翼は自分が見てたことは言いたくないんだろうけど、あたしが見てたってことにすればいいんじゃないの?
「いや、年考えろって。
どこにさくら見てるアラフィフがいるんだよ」
いるじゃん、ここに2人も。
「年は関係ないよ。いいものはいい。
あたし、最近のディズニーアニメよかどれみの方がいいと思うよ」
「ディズニーと一緒にすんなよ」
「アニメはアニメでしょ。何が違うのよ」
「とにかく、さくらとかどれみ見てる大人って、一般的じゃないんだよ」
「ワンピースや鬼滅ならいいの? あたし、あっちの方が受け付けないんだけど。
第一、翼ってば、小っちゃい頃は仮面ライダーよりプリキュアの方を喜んで見てたよ」
「覚えてない」
「どれみだって、スカパーで見てたから。
証拠写真だってあるよ」
「だから、覚えてないって」
「あれは、梓が見てたから、一緒に見てただけだろう。
確かにどれみは名作だと思うけど、大人が見るのは一般的じゃないんだよ」
むぅ。わかるけど、面白くない。
どれみ
1999年放映の東映アニメ「おジャ魔女どれみ」のこと。
小学3年生の春風どれみが、ひょんなことから魔女見習いとなり、昇級試験を受けて魔女合格を目指す物語。
魔法は練習しないと上達せず、魔法を使うには魔法玉というアイテムが必要で、魔法玉は魔法堂で品物を売った売上金でないと買えないという設定により、おまじないの小物店である魔法堂をどれみと仲間達が切り盛りする。
好評によりシリーズ化し、「おジャ魔女どれみ#」「も~っと!おジャ魔女どれみ」「おジャ魔女どれみドッカ~ン!」と4年間続き、後にOVA「おジャ魔女どれみナ・イ・ショ」も制作された。
「ドッカ~ン!」の時点で、どれみ達は小6であり、最終回は卒業式を描く。
梓は、テレビシリーズは全シリーズ全話録画しており、特に「ドッカ~ン!」41話「どれみと魔女をやめた魔女」は年に一度見直すくらい好き。
無印
シリーズ1作目の「おジャ魔女どれみ」のこと。
2作目以降、「#」などと文字を加えていることから、付属のない「おジャ魔女どれみ」という意味で呼ばれる。
これのOP「おジャ魔女カーニバル!!」は、主役3人を演じる声優ユニット「MAHO堂」が歌っており、梓の“元気を出すための歌”になっている。
超ウルトラ・ドン
1976年から放映されていたクイズ番組「クイズ・ドレミファドン!」という番組のコーナーの1つ、超ウルトライントロクイズのこと。
イントロが0.5秒レベルの長さで流れる。それでも当てる人が多かったという恐ろしいコーナー。
天さんは、梓がほんの一瞬曲が流れただけで、どれみのOPと気付いたことから、こう言った。
夏目
2008年から放映されているアニメ「夏目友人帳」シリーズのこと。
霊能力を持つ夏目貴志が、祖母:夏目レイコが遺した「友人帳」という、名を奪った妖怪を従えることのできるノート(というか書き付け)を巡って様々な騒動に巻き込まれる物語。
梓は、貴志のキャラが好きではないのであまり見ないが、翼と天さんは好きで、スカパーで放映されるたびに2人で見ている。
この作品のBGMはあちこちで流用されており、翼は耳聡く「これ、夏目の曲!」と言い当てる。
ユニコーン
2009年から劇場公開が始まった「機動戦士ガンダムUC」のこと。
「逆襲のシャア」「F91」の中間に発生したラプラス事変を描く。
これのBGMもよくバラエティ番組などで使われている。
さくら
ここでは1998年放映のNHKアニメ「カードキャプターさくら」のこと。
原作マンガは、梓は持っているが天さんと翼は読んでいない。
新婚当初、梓は天さんに全話見せており、翼も幼稚園時代に再放送で見ている。
珍しく、家族3人とも好きな作品である。
ただし、翼は、元が少女マンガだということを知っており、人前では好きだと言えないらしい。
ちなみに、劇中でさくらが使う魔法の杖は、普段はペンダントトップサイズの小さな鍵になっており、梓は、家の鍵に「星の鍵」のキーホルダーを付けている。これも「鍵に鍵のキーホルダー」というシャレである。