40 一言目は?
「いよいよ最後の1箱を開けるよ。
これがなくなった時、あたしの命も終わるのね」
「最後の一葉か!」
天さんの突っ込みを受けつつ、使い捨てマスクの箱を開ける。
新型コロナ絡みで市場からマスクが消えて半月。鷹野家は元々、冬場はインフルエンザ対策でマスクを使うから備蓄してたんだけど、補充ができなくなっちゃった。
いつもは100円ショップで7枚100円のマスクを買ってるんだけど、2月頭には、売り場そのものがなくなってた。
あたしは、基本、ストックを作って動くタイプの人間だから、それなりのストックはあったんだけど、なにしろ家族3人が毎日1枚ずつ使ったら、7枚入りなんて3日と保たない。
騒動序盤に生協で2箱注文して1箱だけ届いた60枚入りのマスク、これが最後のストック。
翼が学校休みになって、使用枚数は減ったけど、あたしと天さんの2人は結局使わざるを得ない。あたしなんか仕事で接客しなきゃならないんだから、お客さんの心理的な面でもマスクをせざるを得ないもんね。
今は、使い捨てマスクに裏を当てて、裏を交換することで“使い捨てないマスク”にしてる。
これで、なんとか乗り切りたいところだけど。
ちなみに、母さんに状況を訊いたら、ストックあるから大丈夫って言ってた。あの人、安売りしてるとストックあってもガンガン買い込む習性があるから、きっと大丈夫だと思ってたよ。
オイルショックの時も、ストックがあったから困らなかったって言ってたし、その経験があるからため込む習性ができたんだろうなぁ。
オイルショックと言えば、トイレットペーパー品切れを思い出す──もちろん、映像として。当時あたしは幼かったから、あの狂乱は経験してない。
今回のトイレットペーパー騒ぎも似たような感じよね。日本人、全く成長してないじゃん。
あたしが、チラシを見て安売りのトレペを買いにスーパーに行ったら、開店から1時間も経ってないのに売り切れてた。
まだ騒動を知らなかったあたしが店員さんに
「チラシのトレペって、もう売り切れたんですか?」
って訊いたら、「張り紙のとおりです」ってすっごい冷たい目で見られた。
張り紙ったって、「おひとり様1パックでお願いします」としか書いてないじゃんさぁ。
こうやって品薄になると横行するのが転売で。なんか信じらんない値段で売る人、買う人がいる。そのうち“マスク売ります詐欺”とか出るんじゃなかろうか。
あたしは、ちゃんと使う人が買うのが筋だと思ってるから、転売には否定的だ。
フィギュアとか、欲しくて買ったけど愛が冷めたとか、置き場がなくなったとかの理由で手放すのは、もちろんアリだと思う。
それによって、当時手に入れられなかった人の手に渡ることもあるし。
ただ、“最初から転売目的”っていうのは嫌だよね。それによって、本来手に入るべき人が手に入れられなくなるんだから。
保管用、観賞用、予備って、1人で3つも買う人は、まぁ、自分で使う前提だから、合法的に手に入れるならどうぞって気にはなるけどさ。
でもねぇ、転売目的での購入は、ホントにやめてほしい。
「仮面ライダーOOO」のオーメダルの時なんか、朝6時からおもちゃ屋さんの前に並んで買ってたけど、あそこに来てた人はみんな自分の子供・孫のために来てたもんねぇ。
よそから仕入れたものを金額上乗せして売るっていうのは、商売の基本ではあるけど、最近は少し歪んでると言わざるを得ないし、法律で規制すべきだとも思う。
マスクの転売で数百万荒稼ぎして、法規制を商売の妨害扱いする奴は、財産没収してもいいんじゃないかとも思う。
ただ、政府がどこまで規制していいかっていう問題もあるからねぇ。
天さんなんか、バンバン規制して罰則設けるべきって言うけど、法規制ってそんな簡単じゃないから。
「あたしも規制すべきっていうのは大賛成なんだけどさ、こういうのってうるさい反対派もいるからねぇ。
二言目には、治安維持法の再来になるって言い出す人、多いから」
「一言目は?」
「え?」
「二言目に反対って言う人は、一言目にはなんて言うんだ?」
「…挨拶なんじゃない? こんばんは、ラッシャー木村です」
「仮面ライダーOOO」
2010年9月から放映の平成ライダーシリーズ12作目。
コアメダルと呼ばれる円板3枚をオーズドライバーに挿入し、スキャナーでなぞることで変身する。
前作「仮面ライダーW」が2本のガイアメモリによって体の左右が変化したのを引き継ぎ、3枚のコアメダルに応じて、体が胸の部分で上下に3分割され、頭部、腕部、脚部がそれぞれのコアメダルのモチーフである生物の形と能力を得る。
コアメダルは、それぞれ頭部用、腕部用、脚部用と決まっており、腕部用のコアメダルを脚部に使うことはできない。
オーズ胸部の丸いパーツに、使用中のコアメダルモチーフが描かれ、商品展開としては“胸上部と頭”、“胸中部と肩、腕”、“胸下部以下”の3部分に分割して、それぞれ組み合わせて遊ぶ仕様となっている。
コアメダルは、グリードという欲望の化身の怪人を構成するアイテムである。
グリードは、鳥類、昆虫、猫科動物、草食動物、水棲生物の5種がおり、同系列モチーフのコアメダル3枚ずつ計9枚で構成される。コアメダル1枚でも存在できるが、枚数が減ると姿も能力も劣化する。
つまり、コアメダルの種類は各部位ごとに5種類ずつあり、オーズの変身形態は当初時点で125形態と、驚異的な数になっている。
オーズは、自分が強くなるため&グリードを弱体化させるために、グリードは完全体になるためにコアメダルを集めており、争奪戦となった。
この結果、オーズはその時々で所持しているコアメダルの種類が違っており、これまで変身できた形態に変身できなくなるという、ほかでは見られない展開となっている。
この点、番組冒頭において、「Count the Medal!」のナレーションと共に、オーズ側が持っているメダルが表示される。
オーズは、同系列のコアメダル3枚で変身すると、コンボと呼ばれる基本性能の高い形態となり、変身時にコンボ専用の歌が流れる。
基本形態であるタトバコンボのみ鷹・虎・バッタという異種の組み合わせである。
商品展開としては、各種コンボのコアメダルのセットが発売されたが、発売と同時に売り切れという状況が生じた。
新セット発売日は、10時開店の店舗の前に6時前から列ができるほどで、梓は、翼にねだられて、4回にわたり6時前から並んでいた。ちなみに、最初に昆虫モチーフのガタキリバセットが発売された時は、7時前に行ったら既に入荷数を超えていて手に入らなかった。
なお、「OOO」放送中の2011年4月3日は、最初の「仮面ライダー」放送開始のちょうど40年後だったのだが、シリーズ通算1000話目にもなっており、冒頭、タイトルロゴの「OOO」の前に「1」を付けて「1OOO」にしてみたり、ナレーションを「Count the Episode!」に変えたりと、芸コマだった。
こんばんは、ラッシャー木村です
ラッシャー木村は、プロレスラー。
プロレスを知らなくてもフレーズとしては知っているであろう挨拶。
緊迫した場面で、こんな挨拶をして失笑を買ったエピソードが、後にネタとして一人歩きしたものらしい。
梓はプロレスはよく知らないが、それでもこの挨拶は知っているというくらいメジャーなネタと言える。
二言目には~
真面目な話をすると、一言目は、挨拶に限らないが導入部である。
つまり、本論に入るなり~する、という意味。