4 うちの台所でジャムを煮た
2018年2月17日のかっぽうに書いたネタの再編成です。
小鳩子鈴さまの書籍化作品「森のほとりでジャムを煮る」に絡むお話ですが、小鳩さまから掲載のご許可はいただいております。
「いちごジャム作りたい」
「は? なに、唐突に。この前買った本の影響?」
さすが天さん、以心伝心だね!
「そう。なんかさ、あの本に書いてあるとおりにジャム作ってみたいと思うのよ!
すっごい楽しそうでさ。それに、手作りジャムって、おいしそうじゃない?」
「ん~、まあ、いいんじゃない? でも、作ってどうするんだ?」
「そりゃあ、パンに塗るとかヨーグルトに入れるとかだけど」
「おー、手作りジャムでヨーグルトか。いいね。贅沢だな」
実は、あたしが小さい頃、14歳上の従姉がジャムを作ってるのを見たことがあった。
完成したジャムはスプーンが入っていかないくらい固くて、あたしの中で手作りジャムというのは、一種の職人でなければ作れないものだって感覚だった。
初めての体験がその後の感覚に影響を与えることってよくあるよね。
あたしの場合、ちょっと極端らしくって、6歳の頃に初めて食べたホテルのグラタンがまずくて、それから10年以上、グラタンは嫌いな食べ物で、食べたことがなかった。
友達の薦めで美味しいグラタンを食べて、10年以上損してたと気付いた時の怒りったらなかった。
今回のジャム熱は、多分それと似ている。
マーガレットが本当に楽しそうにジャムを作ってる描写が、あたしにささやきかけてきたんだ。
「簡単に作れるし、手作りジャムはとってもおいしいのよ」って。
今作らないと、きっとあたしは一生ジャムを作らないだろう。
翌日、天さんと2人でスーパーに週末の買い物に来たあたしは、特売のいちごの、なるべく小さめの粒を選んで買った。
1パック400円ちょい。普通にジャムが買えてしまう。
でも、そういう問題じゃない。あたしは、この“作りたい”という熱を解放してあげないといけないんだ。
「あ~、まぁ、こんくらいするよな」
天さんが値段を見て呟いた。うん、安売りとはいっても高いよね。でも。
「いちご代は生活費からは出さない。あたしのお小遣いから出す」
「なんで? みんなで食べるんだし、生活費でいいんじゃないの?」
「これはあたしの趣味よ。漢のロマンなの! 自分で出さなきゃ男が廃る!」
「俺は男と結婚した覚えはないぞ」
「気分の問題よ。あたしの楽しみのためにやるんだから、あたしが出すの!」
「あ~、それで気が済むなら、それでいいけど」
家に帰ったあたしは、買ってきたものをしまうと、いちごの重さを量り、へたを取ってホーローの鍋に入れる。
そして、とりあえず初めてなので、上白糖を使うことにした。というか、鷹野家にはグラニュー糖は常備してないし。
「え~っと、いちごの半分の重さね。いちごが270gだから、135g、っと。
うわあ。雪に埋もれてる感じ。こんなに入れるんだ…」
半分の重さの砂糖って、意外と大量なんだなあ。
で、これをしばらく放置して水分が出るのを待つのね。
鍋に蓋をして、じゃあ、お昼作ろっか。
1時間おきにいちごの様子を見るけど、一向に水分が出ない。
そういえば、一晩置いてもいいって書いてあったっけ。いざとなったら明日の朝作ってもいいか。
しかし! しかし! 気になるのよ! この“いつまで待ってればいいの?”状態は、気の短いあたしには辛い。
こういう時のあたしは、すっごく落ち着きがない。
バターになりそうなくらいウロウロぐるぐるしてしまう。
約4時間が過ぎ、もう何度目になったか数えてない蓋を開けると、砂糖がしっとりとなっていた。
「よし、夕飯の前に掛かる!」
とは言っても、やることと言えば、火加減を調節しつつ耐熱スパチュラでかき混ぜるだけ。
火加減を弱めにもできる分、カレーでタマネギ炒めるより楽かもしれない。
お~、凄い水分が出てきた! これっていちごから出てるの? すごいぞいちご! 頑張れいちご!
で、混ぜ混ぜしながらアクを取る、と。
このちっこい泡がアクかなあ? 少ないから取りにくいなあ。
「どんな感じ、梓? うわっ!」
様子を見に来た天さんが騒いでる。何よ、うるさいわね。
「梓、何こぼした!?」
え? こぼした? 何を?
「見てのとおり、ジャムをかき混ぜ中なの。
こぼしてる暇なんてないんだけど」
「だって、ベタッていったぞ、今! なんかこぼしたんじゃないのか?」
ぶつぶつ言いながら、床を確認する天さん。
だって、あたし何もこぼしてないよ?
「え~? だからこぼすって何を?」
あたしがアクを取ると、天さんがおたまを指さした。
「お前、アク取っててこぼしたろ! このベタベタ、砂糖か!」
言うが早いか、ぞうきんを取りに行っちゃった。
え~、あたしこぼしてないよ。
まあいいや。あたし今、手離せないから、天さんよろしくね~。
「掃除嫌いなくせに汚すんじゃない!」
あたしじゃないってば。
「おお~~、なんか、できあがったみたい♪
じゃあ、瓶に移そうかねぇ」
あれ? 思ったよりネバネバしてる。水飴みたい。
「ん~?」
「お、できたか? あれ? ちょっと煮詰めすぎたんじゃないか?」
え~? やりすぎた? あ、でも、ちゃんと木さじで掬えるよ。
「ちょうど1瓶だねぇ」
木さじを舐めながら瓶を見る。前に食べちゃったジャムの空瓶。取っといてよかった。
「ほらほら天さん、砂糖といちごだけで作ったジャムだよ」
「え? レモン汁は? 入れるもんなんじゃないのか?」
「入れてない。入れなくていいって書いてあったし」
別のスプーンで天さんにも一口。
「あ、すごい甘いけど、ちゃんといちごの香りと酸味が残ってるな」
「でしょでしょ! 初めてなのに、ちゃんとできちゃったよ!
あたしったら偉い!」
「はいはい偉い偉い。こぼさなきゃもっと偉かったんだけどなぁ」
「ほらまたすぐそうやって昔のこと言うでしょ~」
「ほんの15分前のことだ!」
うんうん、やっぱこのツッコミが大事だよ。やっぱり天さんは最高のパートナーだね。
ジャムは、夕飯の後、ヨーグルトに入れて食べた。
粒が残るように煮たから、潰してからじゃないと均等にヨーグルトに混ざらないけど、おいしい!
次はグラニュー糖で作ってみよう。
どんな甘さになるのかな? 楽しみ!