37 N君とS君の思い出
ご存じないorお忘れの方もいらっしゃるでしょうが、梓の旧姓は「美波」です。
「ほら梓、また足組んでる。
骨盤歪むからやめろって言ってるだろ」
あ…また言われちゃった。
椅子に座って足を組んでると、骨盤が歪んで色々まずいらしいんだけど、昔からの癖で、ついやっちゃうのよねぇ…。
別に、偉そうにふんぞり返ってるわけじゃなくて、寒いと足組んじゃうだけなんだけど。
生足出してた小学校時代についた癖なんだよね。
そういや、N君にも口うるさく注意されたっけ。当時は、うっとうしかったなぁ。
N君は、あたしが小3~小6の間、同じクラスだった友達…でいいのかな? まぁ、クラスメートだったのは間違いない。
顔が良くて、ちょっと小柄で、頭が良くて、足が速い、クラスの人気者だった。
実際、N君のこと好きだって子も何人かいたようだし。
あたしにとっては、掃除とか給食当番の班が何度か一緒になったり、席が隣だったりで、何かとよく話す、割と仲のいい男子って感じだった。
別に、好きとかってことはなかったんだよね。
5年生の時だったか、国語の授業で「続く」の読み仮名が「つずく」じゃなく「つづく」なのはどうしてかわかる人って言われたとき、あたしが隣の席のN君に
「きっと“゛”が付く時って、同じ字が並ぶんだよね。“硯”も“すずり”だし」
って耳打ちしたら、N君が
「きっとそうだよ。じゃ、2人で手を挙げようぜ」
って言ったんだけど、あたしはちょっと恥ずかしくて手を挙げなかった。
そしたら、N君だけが手を挙げてかけられて、正解を答えたから、周りからは「すげえ」って目で見られたんだけど。
後で、「なんで美波は手挙げなかったんだよ、裏切り者!」って怒られた。
まぁ、悪いことしたかなって思ったから、黙って怒られたけど。
踏み込まなかったのは、N君がやたら口うるさかったせいなんだろうなぁ。S君に意地悪してたのも理由の1つかも。
S君は、ちょっといじめられっ子っぽい立ち位置で、あたしが時々かばったりしてた人。飼育係だったあたしは、S君を誘って、日曜日に一緒に学校で飼ってるウサギの世話をしたりした。
あたしは、S君を守ってあげたかった。
同じ小学校にいた1つ上の従姉からは、あたしの初恋だったんじゃないかって言われてる。幼稚園から数えると結婚の約束した男の子も何人かいるんだけど、それでも。初恋だったんだろうって。
ともかく、あたしが忘れ物とかすると、N君はやたらと文句言ってきた。先生よりうるさかったよね。
足組んだ時もそう。
「美波、足組むのやめろよ」
って言いながら、ぺちぺち足叩いてきて。
触られるのはなんとも思わなかったけど、うるさく言ってくるのが嫌で、よく文句を言ってはケンカしてたっけ。もちろん、口ゲンカだけど。
“好きな子をいじめる”あるいは“構う”のが男の子の愛情表現だから、もしかしたら…って気が付いたのは、高校入ってから。その頃は、もうN君とは顔も合わせなくなってた。あっちがどこの高校行ったかさえわからない。
色々あって、中学の3年間、男嫌いこじらせてたあたしは、高1の遠足で「ダルニア」って名前に反応してY君と知り合うまで、男子とは距離置いてたからね。
小6の頃なんて、今から思い返すとモテ期だったんじゃなかろうか。
「だから、梓、足!」
「はいはい。やっぱこれって、好きな子を構いたくなるってやつ~?」
「なにバカ言ってんだ、お前いくつだ」
この前、17歳30周年を過ぎましたよぉ、だ!
ダルニア
「アクマイザー3」に登場する女のアクマ族。
ザビタンに恋して、アクマ族を裏切った。
ドールフェイスの着ぐるみキャラで、声は魔女っ子メグちゃん役の吉田理保子さん。
Y君がT君と「ダルニアってさあ、…」と話しているのが聞こえて、「ダルニアって、アクマイザー3の?」と会話に割り込んだのが、Y君との出会いだった。
一応言っておくと、彼らのおかげで男嫌いは治ったが、色っぽい関係ではなかった。