269 鍋蓋
ガラガッシャーン!
「梓、すごい音したぞ! 何落とした!?」
お~、天さん、反応早いね。
「鍋の蓋だね」
「いつも言ってるだろ、もっと慎重にだなあ…」
言っとくけど、お皿割った数なら、天さんも同じくらいだからね。
でも、今回はそもそも話が違うんだなぁ。
「あのね天さん、鍋蓋のツマミが折れちゃったんだよ」
「折れた?」
「そ。
あたしのせいじゃないんだなぁ、これが」
いわゆる経年劣化ってやつで、ツマミのパーツが折れちゃったのだ。
この鍋は、天さんが結婚前に一人暮らししてた頃からのものだから、30年近く使ってたもの。
そりゃ、傷んでもくるよね。
「下に皿とかなくてよかったなあ」
「そだね」
「蓋だけって、売ってたよな?」
「売ってるかもね。
ていうか、ツマミだけでも売ってるじゃん」
以前、ヤカンの蓋のツマミが折れた時、ツマミだけ交換したことがある。
鍋とかの蓋のツマミってネジで留まってるから、交換できるようになってんのよね。
ただ、鍋とかヤカンって水を扱うから、ネジが錆びたりしてて簡単には外せないこともあったり。
ヤカンの時は、ネジからツマミの欠片を外すのが大変だった。
で、今回の鍋蓋は、ネジ自体が蓋の一部──っていうか、蓋からネジが生えてるというちょっと変わった造りになってる。
今回もツマミの欠片がネジにはまったまま。
これをなんとかしないと、次がどうにもならないから。
とりあえず手で回してみるけど、当然のごとく回らない。
ペンチでつまんで回してみるけど、やっぱり回らない。
つっても、回ってくれないとどうにもならないから頑張るしかないのよねぇ。
下手に力籠めてネジが曲がったり折れたりすると終わるから、慎重に。
悪戦苦闘してたら、ツマミの残骸の方にヒビが入ってるのに気付いた。
縦に少し、長さにしてネジの棒の半分くらい。
このヒビを大きくできれば、外せる。
ラジオペンチの先端で突いてみたり、ぐりぐり捻ってみたりしてるうちに、なんとか外れた。
ネジ棒は無事。
あとは、ホームセンターで新しいツマミを買ってくれば、解決タマゴン。
君にはあと10年は働いてもらうからね♡




