247 封蝋
お付き合いのある作家さんの小説で「シーリングワックス」が出てきた。
高校生の男の子が主人公のお話で、幼馴染がシーリングワックスを使ってるのを、なんか変なものを見る目で見てたのだ。
あたしの中では、シーリングワックスは“使ってみたい憧れの品”だったから、「あれ?」って思って作者さんに訊いた。
そしたら、「男子でシーリングスタンプ知ってたら、ちょっと「どゆこと?」と思ってしまいます」って返ってきた。
そんなもんか~~って思って翼に「封蝋とかシーリングワックスって知ってる?」って訊いてみたら、あっさり「知らない」って言われた。
そっか~、知らないもんなんだ。
「封蝋」でも「シーリングワックス」でもいいけど、要するに“封筒の蓋に封をするためのもの”だ。
言ってしまえば、封筒の蓋をのり付けしたところにシールを貼るのと同じ。
封をしたところに溶けた蝋を垂らして金属の印を押す、正に「封印する蝋」だ。
蝋に押す印は、家の紋章ってイメージ。
あたしの中の封蝋は、ホームズとかルパンとかの小説に出てくるもので、中世での格式高い手紙の差出人証明って感じだ。
日本みたいに文書に印鑑押す代わりに、封筒に家紋とか入れることで“私が書いた”って証明するみたいな。
だから、なんか高貴なイメージだし、カッコいいと感じる。
これが、最近、若い女子の間で人気らしいんだよね。
家紋とかじゃなくて動物とか何かのマークとか、色々な印章が売り出されてる。
使う蝋も、半透明だったりラメ入りだったりとカラフルだし、数色の蝋を小型のひしゃくみたいなところで溶かして色が入り交じった状態で使ったりもするみたい。
郵送するわけじゃなくて、友達同士で渡し合って自慢するアイテムとして機能してるのかな。
そういう意味では、あたしの知ってる封蝋と今流行ってるシーリングワックスは、似て非なるものなのかもしれない。
こんな話を天さんにしたら、文具店で一緒に見ることになった。
「ほら、猫の絵のあるぞ」
あたしの猫好き知ってるだけに、天さんは真っ先に猫の絵を勧めてくる。
おう、ファンシーだね。
たしかに猫は可愛いけど、あたしの持ってる封蝋のイメージとは違うんだよねぇ。
あたしは、どうせならなんかのマークっぽいのがいいなぁ。
とか思いながら見てたら、なんか砂時計みたいなのを見付けた。
ん~、でも、直径がでかいなぁ。
直径が大きいってことは、それだけ沢山蝋を垂らすってことで、綺麗に押せないリスクが増えるんだよね。
もうちょっと小さいサイズでいいデザインないかなぁ。
「なんだ、買わないのか?」
「いいデザインが見付からないの」
「この半透明の蝋、綺麗だよな」
「そうだね。でも、あたしとしてはこっちのラメ入りの方が好みかなぁ」
半透明だと、封印的なイメージと少しズレちゃうのよね。
ん、この押し見本、いいな。
「あ、このデザイン、いいかも!
…でも、棚にないね。売り切れってわけでもなさそう」
店員さんに訊いたら、大分前ので、もう入荷の予定がないやつだそうな。残念。
家に帰ってネット通販でモノを探してたら、ちょっと面白いのを見付けた。
「ねぇ、これって、さくらの!」
「さくら?」
「カードキャプターさくらだよ。
魔法陣の封蝋とか、いいと思わない?」
「思わない」
え~~~~…。




