232 さらば、セラミックのはさみ
「セラミック」って言葉を初めて聞いたのは、いつ、どこだったかなぁ。
本来は陶器全般を指す言葉らしいけど、あたしが聞いたのは“画期的な新素材”としてだった。
正確には「ファインセラミック」と呼ばれる特殊な焼成を経て作られるものらしいけど。
スペースシャトルの耐熱パネルに使われたことで有名になったのよね。
軽く、熱に強く、錆びず、衝撃に強く、硬い…いいことづくめのように。
「プラレス3四郎」の柔王丸が、強化のためにセラミックで外装を作ったって辺りで、あたしもちょっと燃えた気がする。
冷静に考えてみると、外装パーツをセラミックで作ったら、それはもう「プラモ」とは呼べない気がするけど。
一応、「プラ3」では、“シンナーで溶けない”“ホットナイフで切れない”みたいな性質には言及してたと思うんだけど、それ以外じゃ“硬い割に軽い”だけの便利素材扱いだったなぁ。
「プラ3」には、ほかにも「メタルプラ」「サンドイッチプラ」なんていうオリジナルの素材が登場してたからね。
メタルでプラってなによ?
ちなみに、サンドイッチプラは、“メタルプラ→鉛→FRP”の順で積層された素材で、やや重い代わりにめっちゃ硬いってのがウリだった。
鉛の代わりにジュラルミンってパターンもあったわね。
身長30cmくらいのプラレスラーの外装なんだから厚さ2~3mmってとこだろうに、個人でどう成型すんのよって感じだけど、SF系マンガにそれは野暮よね。
あ、柔王丸の外装パーツは、セラミックの開発業者に依頼してオーダーメイドって設定だったわね。
リアルにするためというより、大会に遅刻ギリギリで駆け込む理由付けとして使われてたけど。
柔王丸の素材は、その後、金属との複合素材に強化されてったっけ。
ロボットアニメとかでも、「機動戦士Ζガンダム」のハイザックとかは、チタンとセラミックの複合素材を使ってたはずだから、多分、実際に金属とセラミックの複合素材が開発されてたのね。
まぁ、30年くらい前には、「京セラ」っていえば携帯電話のメーカーくらいになってたし、セラミックを未来的アイテムとしてありがたがる空気はなくなってたよね。
セラミックが先端科学が生んだアイテムだった頃、あたしはセラミック製のはさみを持ってた。
包丁なんかも“錆びない”“金属臭さが移らない”最先端の素材として華々しく登場したのよ。
新しもの好きなあたしは、京セラのセラミック製はさみを手に入れた。
そりゃあもう苦労して。
ただねぇ、実際に使ってみると、刃物としての性能は、ステンレスのはさみの方が圧倒的に上なのよ。
考えてみれば、鉄と陶器じゃ切れ味違って当然だよね。
なんせ、今じゃセラミックの包丁なんて、“うっかり手を切る心配が少ない”から、子供用として作られてるくらいなんだから。
あたしの持ってるはさみは、刃の厚みが5mmもあるぽってりしたものだった。
30年近く前に、わら縄を切ろうとしたらヒンジ部分が傷んじゃったらしく、刃がガタガタして斬りにくくなっちゃって。
以後、一線級は退いたんだけど、それでも結婚するに当たって持ち込んだくらいには愛着もあった。
そんなお気に入りのはさみが、この前壊れた。
はさみを立ててるペン立てから、ほかのはさみを取り出した時、引っかかって出てきて落ちちゃったのだ。
「ガシャン!」って、それこそ陶器が割れるような音がして、バラバラになっちゃった。
具体的に壊れたのは、ヒンジの金属がはまってたところ。
ヒンジを通す穴が開いてて細くなってるところで綺麗に折れた、ていうか割れた。
40年以上使ってたし、寿命っちゃ寿命かもしんないけど、ドジって壊すってのはなかなかに心が痛い。
なんだろね、プラグに引っかかって人工呼吸器止めちゃった、みたいな?
なんだかすっごくすっきりしない展開で、でももう修理のしようもなく、サヨナラすることになっちゃった。
すっごい悔しい。
ごめんよ、はさみ。
グランバザーミーって名前を贈ろうか?
プラレス3四郎
1982年から週刊少年チャンピオンで連載されていたマンガ。
モーターや電子機器、バッテリーを内蔵した身長30cmくらいの可動フィギュアをパソコン(当時はマイコン)からの無線通信で操ってプロレスをさせる「プラレスリング」という競技を描く。
主人公の素形3四郎は、付き合いのあるプラモメーカーから依頼された新商品のサンプルとしてプラレスラー:柔王丸を作り、同じくサンプルとして作られたザ・魔人と戦い、辛くも勝利した。
そこに、全国から腕自慢のモデラー達が加わり、プラレスの全国大会が開かれるという物語。
柔王丸は、魔人戦で胸部外装を破壊されたことへの対応として、外装パーツをセラミックで作って全国大会に臨んだ。
後に、既に世界大会があったなどの矛盾する設定や、3四郎の父が義手・義足のためにロボット工学を研究していたなどの因縁が描かれ、未消化のまま打ち切られた。
一応続編っぽいものがあって、そこでは3四郎はヒロインの今日子と結婚している。
柔王丸は、長髪があり、柔道着風の服を着ている。
梓は、中学時代、ミクロマンを素体として柔王丸を作ったことがある。
キン肉マンの可動フィギュアを素体としての改造も考えたが、キン肉マンがマッシブすぎてイメージと違うので、そちらは断念した。
なお、「プラレス3四郎」は1983年からアニメ化もされているが、柔王丸のデザインは上半身白・下半身青のカラーイメージとヘルメットのデザインだけ残して全く別物となった。
本当は、1/3スケールの主要プラレスラー4体と、1/1スケールの柔王丸がプラモ化される予定だったが、結局1/3の柔王丸と魔人だけが発売されて終わった。
グランバザーミー
1979年放映の「仮面ライダー」(スカイライダー)に登場するネオショッカーの怪人。
ハサミムシの改造人間らしいが、梓は見た覚えがない。なのになぜか名前は記憶に残っているから不思議。




