218 Fly Me to The Moon
会津若松の和菓子屋さんで、面白い羊羹を売っているって話を聞いた。
聞いたっていうか、テレビで見たんだけど。
羊羹とはいうものの、羊羹じゃない部分の方が多い創作和菓子。
や、和菓子と言っていいのかとすら思うような邪道。
…なんだけど、とっても面白そう。
「Fly Me to The Moon」って名前で、月に向かって羽ばたく鳥をイメージしたもの。
土台の部分が羊羹で、ゼリーで作られた空と、その上にナッツを散りばめた羊羹が載ってて、空には月と鳥が浮かんでる。
要するに、羊羹でゼリーをサンドイッチしてるわけだよ、明智君。
これだけだとあんまり面白そうじゃないけど、これ、切っていくと断面が変化していくのだ。
ゼリーの中を通っている鳥は徐々に羽を広げ、月は三日月から満月へと形を変える。
仕掛けは簡単で、ゼリーの中を金太郎飴のように貫いている月は、円柱を斜めに削ったみたいな形になっている。
この工夫によって、片方の端は三日月、もう片方の端は満月になる。
鳥の方はもう少し複雑な形だけど、やっぱり少しずつ形が変わっていく。
この変化に合わせてうまく切ると、鳥は少しずつ羽を広げ、月は少しずつ円くなるという、パラパラ漫画みたいな羊羹になるのだ。
ご丁寧に、空も青いとこと夕焼けっぽいところに分かれていて、徐々に青いとこが広くなっていく。
理屈は、わかる。
ぜひ本物を見たい。
1本3500円もするんだけど、それでも食べてみる価値はある。
「天さん、買いに行こう!」
ちょうど道の駅坂下のアップルパイも出てる頃だしね。
行きつけのそば屋さんがなくなって、山都にそばを食べに行けなくなったことだし、なにか出掛ける口実が欲しかったってこともある。
ちょうどいい理由ができたね。
「なんかさぁ、アップルパイ、味、変わってない?」
「バターの量、減ってるかな?
代わりにマーガリン使ってるとか?」
「ああ、そうかも!
なんか、口の中に変な後味が残んのよ」
「せっかく買いに来たのにな」
「もうダメかな、これ。
来年もう一度買ってみて、それでダメだったらもう買わないね」
「しょうがないな」
こうして、福島に来る目的がまた一つ減ってしまった。
しか~し! 今回は、主目的が残っているのだ!
お店はナビで探したけど、やたらせせこましい道の先にあった。古い町なのかな?
羊羹は、チョコバージョンの夕焼け全開のやつもあったけど、今回はノーマルだけね。
2つ買ったら7000円になっちゃうし。
チョコは、また次来た時に考えよう。
買って帰って、翌朝、早速切ってみる。
長さ12cmくらいなんで、2cmずつに切ると、2人で3回食べられる。
推奨は、1.5~2cm幅ってことだから、ちょうどいい。
2枚切って、1枚ずつお皿に載せて、写真を撮る。
6枚撮ったら、パラパラ漫画のできあがりだ。
一切れ600円弱って考えると、高いパラパラ漫画ね。
「全部並べて撮りたいな」
なんて天さんが言うけど、それやると断面が乾燥しちゃいそうだし、形も崩れそうだから、却下ね。
ナッツとか、空とか、一層ずつに分けて食べてみる。
ん~、ナッツの層はいらないかなぁ。とはいえ、ゼリーを固定するためにこの層が必要なんだよね、きっと。
ゼリーは、青いとことオレンジのとこで味が違うし、鳥と月はレモンゼリーだし、これはいいわ♡
天さんもいたく気に入って、午後にまた一切れずつ食べて、また翌朝でなくなっちゃった。
最後の一切れは、端を切り落として図柄を出した。
「なんかさあ、1枚ずつ撮るんじゃなくて、全部並べて写真撮りたいよな」
天さんは、まだ諦められないらしい。
「あたしはパラパラ漫画でいいと思うけどねぇ。
全部並べるってことは、一度に切っちゃわないといけないってことだよ」
「翼がいる時なら、2回で食べ終わる」
「そりゃそうだけどさぁ…
まぁいいや、んじゃ、春になったらまた買いに行ってみる?」
「アップルパイの代わりに、毎年買いに行くってのもいいな」
「値段は10倍だけどね」
天さんに好きなようにさせとくと、お金がいくらあっても足りないよ。




