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20 いくぜ決勝!

 今回は、ネタの都合上、天平視点でお送りします。

 「いくぜ、いくぜ、決勝! 任せろ任せろ決勝! 俺の勝利が秒読み開始だ~♪」


 あれ? 梓が高校野球見てる。高校野球が嫌いだって公言してる梓が。ああ、もう準決勝か。早いな。

 しかし、何の歌だ?


 「君の祈りが支えてくれる~♪

  ちぇ~っ! また駄目だった~~」


 何が駄目なんだ? 別に打たれてないだろ。あ、テレビ消した!? まだ試合終わってないだろ。

 いや、まあ、普段の梓だったら、普通の行動だな。むしろ高校野球を見てたことが意外なんだから。

 梓が高校野球嫌いだって話が出たのは、結婚当初だったか。

 俺は、特に好きも嫌いもないんだが、梓は野球全般に興味がない。それどころか、高校野球については毛嫌いの域だ。

 その理由をうっかり聞いたのは失敗だった。

 梓は、興奮するとえらく早口になって、圧力を感じるくらいの勢いでまくしたてる。よく舌を噛まないなと感心する。

 梓が無駄に熱く語った理由はこんな感じだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「あたしさ、高校2年の時、生徒会の役員やってたのよ」


 意外だ。そんな熱心なタイプにも、人望のあるタイプにも見えないのに。


 「その年はさ、生徒会長の立候補がいなくてね、各クラスから代表を選んで、その中から会長を選ぶって話になったのよ。

  でね、あたしのクラスでは、1日の最後のホームルームで選ぶことになっちゃってさ。

  要するに、終わるまで帰れないわけ。

  あたしは人身御供にされたのよ」


 「人身御供ってなんだよ」


 「端的に言えば、生贄よ。

  誰だったか忘れたけど、“美波さんがいいと思います”って言ったら、全員“賛成!”って。会長にはならないですんだけど、そのまま役員やらされたんだよね」


 つまり、あれか? 誰かが選ばれないと帰れないから、適当に選ばれた、と。

 「まあ、状況はわかったけど。

  で? 生徒会役員と高校野球が嫌いってのがどう繋がるんだ?」


 「生徒会ってさ、各部活の予算の承認なんかもやってるわけ。つっても、基本、部活の協議会で決まったことを形式的に承認するだけなんだけどさ」


 「で?」


 「その年は、体操部がインターハイ出場を決めててね、備品の鉄棒が古くなってるから買い換えてほしいって要望を挙げてたんだけど、野球部に潰されたのよ」


 「なんで?」


 「予算の総額は決まってるわけで、鉄棒みたいに高いもの買ったら、他の部にいく予算が減るから」


 「なるほど」

 鉄棒がいくらするか知らないが、少なくとも6桁はいくだろうからな。そりゃ、よその部は嫌がるだろう。


 「協議会の議事録読むとさ、主に野球部が潰してたのよね。“甲子園を目指す自分達の予算を体操部如きに奪われるのは納得いかない”って。

  でもさ、鉄棒買うのなんて、10年に一度の話よ? しかも、体操部はインターハイ出場よ? 対して野球部は毎年予選1回戦負け。どっちが“如き”よ! って、職員室まで持ち込んだんだけど、ひっくり返せなかったの」


 「あ~、まあ、言いたいことはわかるけどな」

 梓が怒ってるのは、要するに、大言壮語の野球部より、実績を作った体操部の要望を優先すべきってことなんだろう。

 で、これだけ怒ってるってことは、梓の意見は通らなかった、と。

 まあ、俺達の高校時代は、まだJリーグもなかったし、運動部は野球部一強だったからなあ。


 「あたしはね、別に“叶いもしない夢見てんじゃねぇよ”とか“偉そうなことは結果を出してから言え”とか言ってるわけじゃないのよ」


 言ってる言ってる。まあ、当時は(・・・)言わずに我慢したんだろうなあ。


 「でもね、実績もないくせに、野球部ってだけでいばって、実績のある部の10年に一度の要望を潰したことは許せない。野球部が部費で買ってるテーピングとか、よその部は自前で買ってるのよ。

  高校野球が爽やかだなんて、世間が作り上げた幻想なのよ!」


 あ~、こりゃ相当根が深いな。

 「世の中の野球部が全部そうってわけじゃないだろ」


 「わかってるけど、“坊主憎けりゃ袈裟まで憎い”のよ。

  高校野球見ると、あの時の怒りが甦るの。

  大体ね、野球なんて、アメリカや日本じゃメジャーだけど、ヨーロッパじゃマイナースポーツなんだから!」


 あの後、随分長いこと愚痴を聞かされたっけ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その、梓が。

 新潟代表の日本文理が甲子園で決勝戦まで行った時も、よそ事のような顔をしていた梓が。高校野球の、それも全然関係ない学校が出てる準決勝を見て歌ってるなんて、不思議だ。

 と思いながら見ていたら、こっちに気付いたようだ。

 「あれ、天さん? やだ、今の見てたの?」


 「今のって、なんか歌ってんのは見てたけど」


 「やだ、黙って見てないで、一緒に歌ってくれたらよかったのに」


 「無茶言うな。何の歌かもわからないのに。

  少なくとも、高校野球の応援ソングじゃないよな」


 「当たり前じゃない! なんであたしが応援なんか…」

 「じゃあ、なんだ?」


 「準決勝で、試合が終わりそうな頃に勝ってるチームに被せてあれ歌うのが永年の夢なのよ。“君の祈りが支えてくれる”ってとこにマネージャーとかチアリーダーとか映ってくれたら完成なんだけど、うまくいかないのよね~」


 「永年って?」


 「ざっと30年!」


 またこのパターンか。

 梓の夢は、基本的にスパンが長い。それも異様に。

 一旦こうと思うと、叶うまで言い続ける。

 欲しかったおもちゃとか、本当にいつまでも探し続けていて、手に入れると「苦節10年」とか言って喜ぶ。冗談じゃなく苦節20年とか言ってることもあるから恐ろしい。


 「で、あの歌は何なんだ?」


 「スピルバン」


 「は?」


 「だから、時空戦士スピルバンのOP。車の中で、時々流してるでしょ」


 そんなもん、聞き流してるに決まってるだろう。

 「高校野球と何の関係があるんだ?」


 当然の疑問を口にすると、梓は軽く首を傾げて答えてきた。

 「別に、野球でなくてもいいんだけどさ。準決勝の映像がマネージャー付きで流れそうって言ったら、甲子園くらいかなって」


 「準決勝? ああ、そういや“いくぜ決勝戦”とか言ってたっけ?」


 「ああ、あれね、決勝戦の“決勝”じゃなくて、雪とか塩とかの“結晶”なのよ」


 「塩?」


 「そ。塩の結晶の“結晶”。スピルバンの変身のキーワードなのよ。だからOPにも歌われてるわけ」


 結晶?

 「ああ、決勝戦に行くぜ、じゃないのか」


 「そう…そのとおりっ!

  読みが一緒だから、被せてみたかったのよ! 2番の歌詞がね、“いくぜいくぜ結晶 任せろ任せろ結晶 俺の勝利が秒読み開始だ 君の祈りが支えてくれる 時空戦士だ俺はスピルバン”なわけ。だから、準決勝で勝利寸前の場面で、マネージャーとかが勝利を祈ってるシーンに被せて歌いたいわけなんだけど、なかなかうまく合わなくて」


 またくだらないことに情熱を燃やして…。

 これを30年も狙ってたってのか。

 「言っちゃなんだけど、暇なことしてるよな」


 「“梓ちゃんのささやかな野望”シリーズの1つよ」


 「ささやかと野望って、表現矛盾してないか? あと、シリーズってなんだよ」


 「色々あんのよ。“日本海から昇る朝日”とか」

ささやかな野望シリーズ

 梓がいつかやりたいと狙っているものごと。

 今回のように、特定の画面に合わせて替え歌を歌うなど、一般的に見てくだらないものが多いが、本人は至って真剣。目とカラータイマーが光るウルトラマンなどもその1つ。

 このシリーズに、“日本海から昇る朝日を見る”というのがある。一応、佐渡の北端部からだと本州が邪魔にならず、海から昇る朝日が見られるが、まだ果たされていない。「赤い糸、いかがですか?」で明星(あきら)たちが佐渡に行っているのは、これが元ネタ。



時空戦士スピルバン

 1986年放送のメタルヒーローシリーズ第5作。

 故郷であるクリン星をワーラー帝国に滅ぼされ、子供2人だけで脱出させられたスピルバンとダイアナが、成長して流れ着いた地球で、同じく地球に辿り着いたワーラー帝国と戦う物語。実は、スピルバンの父ベン博士と姉ヘレンは、ワーラー帝国に囚われており、ベン博士はドクターバイオに改造され、ヘレンを人質にされて戦闘生物を作らされている。

 ワーラー帝国の巫女パンドラを演じたのは、日本一の魔女女優:曽我町子さん。

 ワーラー帝国の守護神であるワーラーは、綺麗な水の中でしか生きられないが、ワーラーが触れた水はワーラープランクトンが繁殖して腐ってしまう。常に水を汚し続けないと生きていけないというなかなかリアルな生態で、スピルバンのパトロールは、基本的にワーラープランクトンがいないか水源を回って水質検査するという地味なものだった。

 スピルバンは元々地球の人間ではなく本名がスピルバンなのだが、(じょう)洋介と名乗ったりもしている。「結晶」の掛け声でハイテククリスタルスーツを装着し、必殺技はツインブレードで滅多切りにするアークインパルス。技に入る前に嫌な思い出を振り返り、「俺の怒りは爆発寸前!」と叫ぶのがデフォ。視聴者の間では「いつ爆発するの?」と笑われていたが、最終回では「俺の怒りは、今、爆発!」だった。怪人が出ないエピソードでは、戦闘員キンクロンを斬りまくる。

 キンクロンはロボットという設定だが、ダイアナヒッププレス(要するに顔の上に座る)を食らうと、ニヤニヤ顔に変化する。今ならCGで処理するところだが、そういうマスクが用意されていた。

 主人公の名前が映画監督のスピルバーグから、ヒロインがまだ英王室にいたダイアナ妃からと、ネーミングが安直だったのも話題になった。

 スピルバンを演じたのが「宇宙刑事シャリバン」でシャリバンを演じた渡洋史、ヘレンを演じたのは「宇宙刑事シャイダー」でアニーを演じた森永奈緒美で、ダイアナも含めてJAC(現JAE)の所属。

 中盤、ヘレンが戦闘生物ヘルバイラに改造され、お互いそうと知らないまま姉弟で殺し合うという展開になっていたが、同時期放映中だった「超新星フラッシュマン」(幼い頃地球から連れ去られた5人が両親を捜す)、「機動戦士ガンダムΖΖ」(攫われた(リィナ)を取り戻す)が、いずれも生き別れの家族を追い求める物語だったため、スポンサーの要請で「フラッシュマン」以外は家族絡みの話をやめることに。

 結果、ヘレンは元の体に戻してもらってワーラーを脱走、スピルバンの仲間になり、ダイアナの影が薄くなってしまった。「ガンダムΖΖ」では、リィナが事故死(と思わせて最終回で登場)という展開になる。

 なお、「スピルバン」の主題歌を歌っていた水木一郎は、ベン博士を演じているため、イベントで「俺はスピルバ~ン!」とOPを歌ったところ、来場していた子供から「お父さんでしょ?」とツッコミを受けたとか。

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