110 愛しのトゥルビヨン
「梓! グレーテルのかまどでどれみやってる!
いとしのなんとかって!」
大晦日、リビングにいた天さんから呼ばれた。
「グレーテルのかまど」っていうのは、NHK教育でやっているお菓子作りの番組だ。
文豪やら文学作品ゆかりのお菓子を、ヘンゼルこと瀬戸康史が実際に作る。
以前にも、モンゴメリ(「赤毛のアン」の作者)が作ってたパイやら、「ムーミン」シリーズに登場するお菓子を作ってたことがある。
そんなことより!
どれみで「いとしの~」ってことは、「愛しのトゥルビヨン」に違いない!
あたしは全速力でテレビの前に飛んでった。
果たして、そこには、愛しのトゥルビヨンのためのロールケーキが映っていた。
「愛しのトゥルビヨン」……それは、「も~っと! おジャ魔女どれみ」ラストでどれみ達が作った、魔女界の先々代の女王ゆかりのケーキで、ラズベリージャムを使ったロールケーキを薄切りにしたものを、ドーム状のムースの上に散らし、ゼリーでコーティングしたもの。
「も~っと!」では、どれみ達はお菓子屋さんを営んでいる。
“ラズベリーを使ったケーキ”という恐ろしくアバウトな指定だけで、レシピの失われた先々代の女王の思い出のケーキを作れという無茶ぶりに対し、どれみ達は先々代の女王の名前:マジョトゥルビヨンをヒントに、渦巻きをモチーフにしたケーキを作った。
これが見事に正解で、どれみ達は魔女になるための条件を満たすことになった。
これだと、なんであたしが興奮してるかわかんないだろうな。
愛しのトゥルビヨンは、このエピソードだけでなく、次作「おジャ魔女どれみ ドッカ~ン!」のラストで再登場するのだ。これが素晴らしい。
「おジャ魔女どれみ」シリーズは、東映オリジナルのアニメで、4年間続いたシリーズだ。
当初は、どれみ、はづき、あいこの3人が魔女見習いとして、魔女合格を目指して進級試験を受けるという内容だった。
魔女は、人間に正体を見破られると魔女ガエルという芋虫みたいな姿に変わってしまい、元に戻るには、見破った人間を弟子にして魔女に合格させ、その者から元に戻るよう魔法を掛けてもらうしかない。
どれみは、マジョリカを「魔女だ!」と言ってしまったため、友人のはづき、あいこと共に、魔女見習いになって魔女を目指す。
最終回、魔女試験に合格したどれみ達は、ライバルだったおんぷを救うために魔法を使ったことで、魔女の証:水晶玉を剥奪された。
2作目の「おジャ魔女どれみ#」では、魔女界の次期女王候補である赤ん坊:ハナちゃんを育てる。
最終回では、ハナちゃんの強大な力を恐れた闇の森に住む悪しき魔女:先々代の女王がハナちゃんにかけた呪いを解くために水晶玉を割ってしまい、魔女の資格を失った。
3作目の「も~っと!」では、どれみ達を特例で魔女にすることに反対する元老院魔女からの課題をクリアすることが目標。
課題はお菓子であり、どれみ達はお菓子屋さんを営む。
件のケーキ作りは、その最後の課題だった。
愛しのトゥルビヨンを先々代の女王に食べさせたところ、それは悲しみの心が生み出した幻影だったことがわかった。
4作目の「ドッカ~ン!」は、先々代の女王を封印している“悲しみのイバラ”を消すのが目的となる。
先々代の女王が人間に絶望する原因となった悲しみを打ち消し、幸せだった時代を思い出させるアイテムを探していく。
シリーズを通して…というか、「も~っと!」と「ドッカ~ン!」で語られた先々代の女王のお話は、こんな感じ。
1000年前、人間に恋をしたマジョトゥルビヨンは、魔女界の女王の座を降り、人間界で結婚した。
相手の男は、プロポーズする際、自作のケーキをプレゼントした。
だが、魔女の寿命は人間とは比べものにならないくらい長く、夫も息子も、老いて死んでいった。
また、衰えない容貌に、周囲の人間は気味悪がり、マジョトゥルビヨンは魔女と呼ばれ、孤立していた。
6人いた孫達も、魔女の家族と気味悪がられることを嫌がり出て行く。
息子アンリの死を前に、マジョトゥルビヨンは6人の孫達を呼び戻そうとしたが、誰一人として戻っては来なかった。
人間を愛したが故の悲しみに、マジョトゥルビヨンは、魔女界に戻り、魔女が人間と深く関わることのないよう、魔女ガエルの呪いを掛け、自分に関する記憶や記録を消し去って闇の森へと消えた。
そこで悲しみのイバラに囚われ、悲しみの心が幻影の女王となって森を徘徊するようになった。
レシピが失われていた愛しのトゥルビヨンをどれみ達が再現したことで、幻影は消え、本体が姿を現した。だが、悲しみのイバラは消えない。
イバラを消すには、幸せだった時代の思い出の品を再現するしかない。
どれみ達は、マジョトゥルビヨンの思い出を探すことになった。
というわけで、「も~っと!」の最終試練は、思い出のケーキを作ること。
先々代の女王は、レシピそのものも、実際に食べた者の記憶も消してしまったため、“ラズベリーを使ったケーキ”ということ以外何もわかっていないという状態。
どれみ達は、名前にまつわる工夫がされていただろうという予測の下、今の自分にできる最大限の工夫を凝らして作り、見事正解に辿り着いたわけ。
そして。
悲しみのイバラ最後の1本を消すための情報を探しに、最後の孫:ロイの子孫を訪ねていったどれみ達は、その家で代々受け継がれていた愛しのトゥルビヨンを見た。思い出のケーキは、ちゃんと受け継がれていたのよ!
そして、ロイが遺した日記に、真実が記されていた。
孫のうちの3人は妊娠や内戦で動けなかったものの、3人の孫が駆けつけようとしていたのよ。
ところが馬車が事故に遭ったために足止めを食らい、ようやく駆けつけた時には、墓があるだけだった。
孫達は、決して父アンリのことも祖母のことも忘れてはいなかった。
ロイの子孫に受け継がれていた、家族が描かれたタペストリーを再現(なにせ1000年経ってボロボロだったので)し、日記の中身を知らせることで、最後のイバラは消え、マジョトゥルビヨンも復活、魔女ガエルの呪いも消えて大団円! なのよ。
孫の子孫のところでの「愛しのトゥルビヨン!」「なんでうちの秘伝のケーキの名前知ってるの!?」という会話が好きだったのよね。
もうウキウキで、愛しのトゥルビヨン作りたいなぁ、なんてはしゃいでたら、天さんからものすごく生暖かい目で見られちゃった。
そして、番組の最後に宣伝が。
劇場版「魔女見習いをさがして」を放送するって!
絶対録画しなきゃ♪
「魔女見習いをさがして」を見た結果は、来週の「鷹良箱」で。