103 とうおるるる
9月、あたしと天さんは毎晩8時からスカパーで「ジョジョ」を見ていた。
「ジョジョの奇妙な冒険~黄金の風~」というシリーズアニメの第5部だ。
「ジョジョ」(といっても3~5部に限るけど)は割と珍しい、あたし達3人ともが好きなアニメだ。
主にあたしと翼の好みの問題で、3人全員が好きなアニメはほとんどない。
最近「呪術廻戦」がそこに加わったくらい。
「ジョジョ」は、原作自体は20年以上昔の作品で、少年ジャンプ連載当時に読んでいたのはうちではあたしだけ。
翼は生まれてないから当たり前だけど、天さんも読んでなかった。
もっとも、天さんはあんまり漫画を読まなかった人で、ジャンプは性に合わなかったらしく、ジャンプ漫画はほとんど読んでないそうだ。
「Dr.スランプ」もアニメで知ったとか、どこの世界の人だって言いたくなる。
とにかく、そんなわけで、天さんは「ジョジョ」を翼が見てたアニメで知った。
当然、先の展開なんて知らないで見ているので、傍から見ていて微笑ましい。
ネタバレ嫌いなあたしは、先の展開を教えることなく天さんの反応を楽しんでいる。
9月は、8時から「ジョジョ」、9時から「夏目」と、天さんの好きなアニメが続くので、我が家には珍しくテレビがつきっぱなしだった。
あたしは「夏目」は好きじゃないけど、天さんに付き合って見てた。
そして「ジョジョ」が終盤にさしかかり、とうとうあいつが登場した。
正面切ってボスを裏切ったジョルノ達を追跡する男・ドッピオ。
ボスの肉体に宿る第2の人格にして、ボスの隠れ蓑。
ドッピオは、自分の体がボスのものとは知らず、腹心の部下として、電話で指示を受けて動いているという認識でいる。
連載当時はまだ珍しかった携帯電話を持ち歩き、ボスからの着信がきたとの妄想の下、電話機相手に独り言を言っているという、見ようによってはあぶないキャラだ。
途中で携帯電話が壊れちゃって以降は、自分の口で「とーるるる」(原作の文字に準拠すると「とうおるるる」なんだけど、テレビでは「とーるるる」と聞こえる)と着信音を言いながら、手近にある“受話器サイズのもの”を手に、ボスと会話する。
本当に、傍から見ているとヤバい奴なんだけど、本人は至って真剣なのがなんとも。
戦闘中に、生きているカエルを使って通話してみたり。通りすがりの女の子のアイスクリームを奪って使ったり、飛行機の中で、隣の席の女の子のリカちゃん電話を借りてみたり。
あたしは、原作で知ってたから、この辺りのシュールさはちょっと覚悟しながら見てたんだけど、事前情報なしに見てた天さんの受けた衝撃は大きかった。
うん、そうだよね、わかるわかる。
「声優って大変だなあ」とか言いつつ、天さんはかなり引きながら見ていた。
そんなある夜、「ジョジョ」を見てる最中に、翼から電話があった。
大学に行って一人暮らししている翼は、時々電話をかけてくるんだけど、そんな時は3人で話せるようスピーカーにする。
そして、絶妙なタイミングでドッピオの「とーるるる」がきた。
この「とーるるる」が電話の向こうの翼にも聞こえたらしく、「なんだ、今の!?」と驚いてる。
天さんが
「今、ジョジョ見てたんだ」
と言ったら、
「ドッピオか。
カエル? アイスクリーム?」
と返してきた。
天さんは「ジョジョ」と言っただけでカエルとアイスクリームが出てきたことに驚いてたけど、あたしにとっては翼の反応はごく普通のものと言えた。
「残念、カエルもアイスももう終わって、今のはリカちゃん電話だね」
と返したら、天さんから変なものを見るような目を向けられた。失礼な。
翼との電話を手短かに切り上げて、「ジョジョ」も終わった後、天さんはしみじみ
「ジョジョって言っただけで、ドッピオとかカエルとか出るのか。すげーな」
と言った。
うん、まぁ、どっちの気持ちもわかるよ。
この手のネタは、引き出しにあれば即反応するのがあたし達の普通だけど、パンピーの天さんには理解しづらいよね。
まぁ、翼はやっぱりあたしの子だね、とは思ったけど。
後日、ドッピオの着信音を自作して翼からの着信に使ったら、天さんに「気持ち悪いから変えてくれ」って言われた。
翼にその話をしたら、「お願いだからやめてください」って言われた。
みんなユーモアってものをわかってないね。
ジョジョの奇妙な冒険
1986年から週刊少年ジャンプで連載されていた荒木飛呂彦の漫画。中断を経て、現在ウルトラジャンプで8部が連載中。
一応、3部までは「ジョジョ」という愛称の少年が主人公だったが、そのうち“ジョジョと読むことができる名前”くらいに落ち着いた。ジョルノはジョジョと呼ばれたことはなかったはず。
「スターダストクルセイダース」や「ダイヤモンドは砕けない」「黄金の風」といった第○部サブタイトルは、週刊少年ジャンプでの連載時にはなく、その後コンビニコミックスとして発売される際についたもの。
第6部「ストーンオーシャン」以降は、連載時からサブタイトル付きだった。
ちなみに、第4部のサブタイトルは、コンビニコミックになった当初は、「ダイヤモンドは傷つかない」だったよね。
シリーズとして「だが断る」などの名台詞を多数生んだ。
梓は「お前は今までに食べたパンの枚数を覚えているのか?」と「いつかって今さ!」が好き。
スタンドが使えるなら、クレイジーダイヤモンド一択。おもちゃ直しまくるし、改造も自由自在! あと、こすった車も直るんだ♡
天さんは「~じゃあないか」という言い回しがお気に入りで、私生活でも使っている。うん、そういうのをオ(以下略)
さすがに、家の中でしか使わない分別があるらしい。
ちなみに、鷹野家3人が全員好きなアニメは「カードキャプターさくら」「ジョジョ」「呪術廻戦」の3つだけ。