ボナフ通りにて……
魔物の森がある、アルメティア王国から西へ行くと商人や旅人たち冒険者達がよく行き来する道ボナフ通りがある。俺達は、その道を進んで馬車で15キロ。アルメティア王国とレスケス王国の境界地点を進んでいた。風が涼しい、季節とか気にしてなかったけど春の半ば頃のようだ。
「あれは……」
ベルモの声を聞いて、すぐさまその視線を追うとコボルトだろうか?若い男女を、群れで襲っているのが分かる。周りの人達は、実力者がいないのかまたは居たとしても自分の主を守るために動かない。男が、コボルトに腕を噛まれた。
「おいおい、魔物の粘液とかは菌が多いぞ。」
医者として、どうにかしないととは思うものの馬に乗っているために動きずらい。
「俺が行く……。馬車を少し離れた場所に止めてくれ。男が来たら、治療を頼む。」
答えを聞かずに、動いている馬車からひらりと飛び降りる大地。そして、魔法を展開させる。肉体強化……。馬車を、追い抜く速度で向かう。
「了解だ!」
すれちがいに、ベルモの声がする。
腰のベルトから、剣を抜くとこちらに気付いて襲いかかるコボルトの首をはねる。
けっこう、多いいな……。もしかして、追われて森から出て来たのか?だとするなら………。
考えるのを中断し、男を噛んだコボルトを威圧する。コボルトは、驚いて男の腕を放す。その瞬間には、もう首が空中に飛んでいたのだが。
「その男を連れて、後ろの馬車までさがれ。」
大地は、女性を見てから言う。警戒して、離れてこちらの隙をうかがうコボルト。大地は、言うことは言ったとばかりにコボルトの群れに突っ込んで行く。2人は自分より幼い、子供が戦うのは危険だし止めようと思い次の瞬間に黙り込む。
さっき、自分達は助けられたではないか。
そして、コボルトに向かって行った幼さの残る少年を見る。襲い来るコボルトを、まるでダンスを踊るかのように無駄の無い動きで躱したり受け流したりしながら強い一撃を入れて確実に仕留めていく。しかも、その表情は険しいが余裕があるのが分かる。2人は、思わず魅入ってしまった。コボルトの首から飛び散る鮮血さえ、大地を引き立たせ幻想的に見えたのだ。これで、大地が美しい容姿をしているのだからある意味では仕方ない。
「邪魔だ、早く下がれ!馬車に、医者が居る。」
大地の声で、2人はハッとして後ろの馬車に向かって走り出す。ため息をついて、2人を見てから残り5匹のコボルトを見る。
「まったく、しっかりしろよな……。」
呟き、逃げようとするコボルトを魔法の風の矢で射抜く。大地は、コボルトから魔石を取り出すと魔法で骨も残さず焼く。
「さて、元凶が来たな。」
黒いボロボロのローブを纏い、鈍い光を放つ鎌。
Aランクモンスター リッパー レベル102
死神が、弱った姿だという説もあるとても凶暴で危険なモンスターだ。それに対して、さっきのコボルトはEランクモンスター。なるほど……。
周りの人達は、恐怖に逃げ惑い混乱状態だ。この世界には、8のランクでモンスターを決めているのだが下からF・E・D・C・B・A・Sそして規格外。規格外は、文字通りランクをつけられないくらい強く珍しい存在を示す。それこそ、アルファやセフィロトも規格外になる。
ベルモは、Aランクモンスターだけど。ケットシーとは、この世界では猫の姿をした精霊のことを言うからだ。そして、今では少なくなった。
ちなみに、俺も本来なら神の子だし規格外になるんだよな。今は、力を封印されてるから違うけどさ。今の俺は、人間だしモンスターのランクはつかないんだけど。そのかわり、冒険者ランク。
ゴリッ……。リッパーが、俺をターゲットとして見つめた。鎌を構え、次の瞬間に凄い早さでこちらに向かって来る。やれやれ……。
後ろに跳び、リッパーの攻撃を躱すと素早く剣を戻し胸ポケットからカードを出す。Aランクモンスターに、ただの剣は意味が無い。しかも、相手はアンデット系モンスター。物理攻撃は、意味が無いし剣が駄目になるだけだ。
「厄介だな……。」
カードに魔力を込めると、剣や弓の時とは違う金色の美しい模様が浮かび上がる。カードは、杖なる。華美ではなくかと言って素朴なわけでも無い杖に。そして、声に魔力を込めて詠唱する。
「我、かの御方に詠唱を捧げる。」
広がる魔方陣と、それを嫌がるようによろめくリッパー。詠唱は、まだ続く……。
「この地に縛られ、彷徨い歩く哀れな魂よ。かの御方のもとえ帰りたまえ。」
リッパーは、鎌を上げて攻撃をしようと動こうとするが鈍い。魔法が、効いてきているのだ。
ちなみに、この魔法の技名は無い。なぜなら、神聖級の聖書のオリジンにおお昔載ってたものだから。もう、名前すら忘れられた魔法。失われた魔法だから。詠唱だけで、終わってしまうのだ。
リッパーは、1歩また1歩と鎌をかかげこちらに来る。ボロボロになりながら。そして、大地にたどり着く事無くバラバラになって倒れた。
「アンデットの、生への執着は凄まじいな。」
ホッと息をつき、座り込む。魔力を、少し使いすぎた。ベルモが、走ってこっちに来る。
「おい、大丈夫か!」
「何とか……。」
すると、ベルモが大地を抱える。
「おっ、おい!自分で、歩けるって。」
「お子様は、黙って言うことを聞け。」
恥ずかしそうに、少し表情は赤い大地が言う。ベルモは、ため息をついて有無を言わせぬ態度。
馬車に戻ると、あの2人が居る。
「いい加減に、降ろせって!」
「まったく、うるさいお子様だな。」
大地を降ろすベルモ。大地は、すぐさま距離を取る。そして、ベルモに向かって言う。
「男の傷は?」
「あぁ、大丈夫だ。だが、しばらく戦闘は無理だな。お前達は、どこに向かっているんだ?」
「少し先の、モセ村です。家に、結婚する事になったので報告に戻る途中でした。」
男が、言う。カップルか、若いねぇ~。えっ、俺?俺は、歳を偽ってるようなものだし若くねぇよ?さて、どうしたもんかね。
「でっ?どうするんだ、大地。」
「俺に振るのかよ!」
「まぁ、この中で1番強いしな。」
「そこは、歳が上のお前が仕切れよ。」
ドヨーンとして、馬車によっかかる。
「いや、俺の主は大地だからな。」
「まだ、主じゃねぇし。」
「へりくつ言わずに、とっとと決めてくれ。」
大地は、ムスッとする。がっ、しばらくしてため息をつき2人を見る。どうするか……。
「なぁ、モセ村に宿はあるのか?」
「ありますけど、ご飯は凄く不味いですよ。」
「あー、何か言ってたな。」
ベルモの言葉を思い出して呟く。
「なら私の家に、泊めますよ命の恩人ですから。えっと、大地君だっけ?」
「泊めてくれるなら、うれしいけど良いのか?」
「もちろんです。」
少し考えて、ベルモを見る。頷くベルモ。
「分かった、よろしく。」
純粋で子供らしい笑みで言う。
ズキューン!
「でた、天然のキラースマイル。」
ベルモが、ため息をつく。案の定、2人は大地に見惚れてボーッとしている。周りの人達はも、鼻血が出たり気絶者が出たり黄色い声が飛びかう。
「おい、おーい。大丈夫か?」
心配そうに、2人を見る。ハッとなる2人。
「2人とも、慣れろ。じゃないと、大変だぞ。」
ベルモが、ため息をつき言う。
「「無理ですよ!」」
思わず、叫び返す2人。そして、本人は……。
「???」
うん、無自覚であった。
こうして、2人を馬車に乗せボナフ通りをまた進むのであった。




