運命
「しぶとい、さっさと王子をこちらに渡せ!」
「あらん、怖いわぁん。」
ギルマスは、頭から血を流していてボロボロである。ルクフォードも、息切らし魔力切れを起こしているのが分かる。信次は、弓を引く。
これで、やっと返してもらえる。
「まずいわねん……。」
「このままでは……。」
だが、容赦なく矢は放たれた。
「ちょっと、失礼。」
キーン 弾かれる矢を見て、舌打ちする信次。
「ねぇ、大地って子がここに来てるって本当かな?会いに来たのだけど。」
「あの子なら、もう3日は来てないわよん。」
「あらら、少し遅かったかな。」
ドヨーンとして、ため息をつく少女。
「もーう、宿くらい教えてくれてもいいのに!そしたら、いつでも夜這いじゃなくて会いに行くのにぃー。大地ったら意地悪。」
ため息をついて、信次を見る。
「あと残念だけど、君の家族は帰って来ないよ。貴族のボンボンが、すでに殺してしまったらしい。大地に、教えるつもりだったけど。」
「なっ、嘘だ!」
「本当だよ、死体も見つかったしね。」
「そっ、そんな……。」
「自己紹介が遅れたわね。わたしは、リラ。この国の裏の情報機関のトップよ。」
「なら、大地を探すのは簡単じゃないの?」
すると、苦笑を浮かべて言う。
「あの子は、その気になれば誰にも見つからないよ。それだけの、才能と力があるんだし。」
「今回のことは、大地が?」
「いいえ、私が勝手に。」
暢気に言うと、伸びをする。
「それと、あと二日後にパーティーあるのに大丈夫なの?と言うか、このままだともって半日だと思うけど。王子は、あと8時間で限界だね。」
「あの、王子を助けてください!」
ドミアが、必死に頭を下げる。
「無理だ。1度発動した呪いは相手が死ぬまで効果が切れることはない。」
信次が、放り投げるように言う。
「そうね。うちの知り合いの、ヤブ医者でも無理かも。となると、これは困ったわね。」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「病気ではないな。と言うか、言ってなかったのかセフィロト。こいつの、人生に関わる事だってのに……。神として、言うべきだろ!」
セフィロトは、悲しそうに言う。
「そうだね。大地は、叶え人の伝説を知ってるかい?この世界の、昔の話だよ。」
「あぁ、最近だけど知り合いから聞いた。」
「なら、話は早い……。異世界についたジェノイアは、とても儚く弱い存在であった。彼は自分を助けた男に、願いを叶えてやりたくてこの世界に戻るすべを探し始めた。そして、見つけた方法が……。」
「魂の契約……。」
セフィロトは、悲しそうに頷くと続ける。
「そのとうり。魂の契約とは、異世界人の体に自分の魂を同意のもとに契約をして重ね合わせる事を言う。そして、君は幼かったためにその契約が仮契約になっているんだ。」
「それで……。」
「君と契約した後、彼は消滅してい自分に恐怖した。そして、君の身体を……」
「俺の身体を?」
「……奪おうとしたんだ。」
ゾワッとして、青ざめる大地。
「………そっ、それで……」
何とか、呑み込んで言う。
「結果的に言えば、幼い君はすでに新たな神王によって守られていたため無事だった。しかし、彼は消滅するのが嫌で神の血だけを君に与え髪の毛で新しい身体を作った。」
「なら、俺は安全なのか?」
首を横に振るセフィロト。
「彼は、禁忌の闇魔術を使って作ったんだ。その結果、人型の歪な化け物となった。これを、この世界では堕天と呼ぶ。聖から闇に墜ちた彼は、その身体を見て生きてる気がしなかったんだろうね。君の身体を、求めだした。」
「………。」
「新たな神王は、僕とアルファを呼び出し彼を君の中に封印した。そして、最近彼が目覚めようとしている兆しが見えた。君が、怠いのは彼が内側から君を支配して取り込もうとしているからだよ。だから、君も覚悟をして。」
俯いて唇を噛むセフィロト。
「なぁ、取り込まれたらどうなるんだ?」
「君の魂が、消滅する。」
「それだけか?」
「彼は、君の身体を使って僕らを殺しに来るだろうね。でも、僕らは主従契約をしている。」
「つまり、お前らは俺を殺すような攻撃は出来ないので大人しく殺されるしかないと?」
「その通りだよ。もし、彼と話せて本契約が出来たら1番良いんだけど。難しいかも。」
大地は、苦笑する。
「なるほど、今までのお前らの行動が理解出来た気がするな。お前が森から出て来たのは、俺が墜ちた場合の事を考えてなのか。」
しばしの沈黙……。
「そのとうりだよ。」
「まぁ、今すぐ喰われる訳じゃないし今は放置だ。俺的にも、考えさせてもらいたいし。」
「分かった。」
ため息をついて、伸びをする大地。
「さて、冒険者らしくギルドに行くかな。」
「おい、診察は受けないのか?」
「後でかな。何か、胸騒ぎみたいなのがするんだ。気のせいなら良いけど……。」
少し不安そうに呟く。ため息をつくベルモ。
「なら、俺も行く。セフィロトは、いったん帰った方が良いだろう。アルファも、心配だしな。」
冒険者ギルドの中……。
「あの、ギルドマスターを知りませんか?」
受付嬢が、慌てたように聞いてくる。
「いや、知らないけど。」
「実は、帰って来ないんです。」
やっぱり、この胸騒ぎは……。
「なぁ、ギルマスは王城に行ったのか?」
「だと思われます。」
「分かった。俺が、行ってみるよ。」
「ありがとうございます!」
受付嬢たちが、ほっとしたのが分かる。
「ベルモ、急ごう……。」
「了解だ。」
2人は、真剣な表情で頷き合いギルドの外に出たとたんベルモは猫の姿で走り出し大地も魔法を発動させてから走り出す。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「王子の意識が……。」
「これは、もう手遅れかな……。」
すると、廊下を走る2つの音がする。そして、勢いよくドアが開き。皆、身構えるが……
「ふぅー、何とかついた。」
「大丈夫か?」
「だっ、大地?」
「あっ、ヤブ医者!」
「よっ、3日ぶりだな。」
「おいらは、ヤブ医者じゃねぇ!」
そして、大地は信次を見てから王子に近づく。守ろうと、警戒するギルマスとルクフォード。
「ギルマス、受付嬢達が戻らないから心配してたぞ。帰れないなら、連絡の1つくらい入れておけよな。まったく、どいつもこいつも……。」
「そうだな、診察すっぽかしてまで走って。」
診察という言葉に、ルクフォード達が反応するが大地はベルモを睨んで黙らせる。
「汝の願いを叶えてやろう。願いを告げるが良い。金か?力か?女か?一つだけ叶えてやろう。お前には、感謝しているのだ。」
すると、魔方陣とは違う陣が浮かび上がる。神の力、神技術が広がる。ルクフォード達は、驚いて信じられないという表情を浮かべる。
「ドミア、願いを……」
優しい笑みで、ドミアを見る。
「王子を、助けて!」
「良いだろう。」
白い光が、部屋中に広がる。
「さて、帰ろうベルモ。」
皆、気を失っている。
「よかったのか?」
「これから、ギルドに行って外に行くような依頼を受けてさっさと出よう。いろいろ、追求されるのも面倒だしな。でっ、お前はどうする?」
「そうだな、その前においらと契約してくれ。」
「よし、1人ですぐさま出よう。」
「おい、待てこら!」




