動き出す者達
朝日が眩しくて目覚める。
「……うーん。」
「おはよう、大地。起きた?」
にこやかに笑うと、コーヒーをいれる。
「あぁ、おはよ。でっだ、何で紅茶の中に睡眠薬なんか入れたんだ?セフィロト。」
怖いくらい、にこやかな笑みで言う。
「だっ、だって君がちゃんと休まないから。」
オロッとして、コーヒーを渡す。
「ちなみに、この中に睡眠薬は?」
「愛情くらい入ってるよ☆」
「やっぱりか!」
思わず、叫んでしまう。いや、何て言うか分かってたけどセフィロトって………。
「さて、ご飯持ってくるね。」
「人の話を聞け!」
駄目だ、久しぶりの雰囲気に疲れるような嬉しいような複雑な気持ちだ。これで、アルファが居ればなぁー。ため息をついて、コーヒーカップを机に置いてベッドから抜け出す。
「駄目だよ、大地。寝てなさい。」
エプロン姿で、きまってますがお兄さんお鍋の中の紫色で異臭ただよう液体はもしや……。
「朝ごはん、美味しそうでしょ?」
「お前、朝から俺を殺す気か?」
ドヨーンとして、頭をかくとお鍋をお外にポーイと投げる。芝生に落ちた瞬間、ジューウと音を立てて草が溶けていく。うわーあ………。青ざめる。
「お前、なんてもの食わせようとしてんだ!」
「えっ?ご飯だけど?」
「ジューウって音したぞ!ジューウって!」
セフィロトは、意味が分からなそうに首を傾げている。頭が痛くなってきた……。実はこのイケメン、魔術や武術は凄いのに家庭的な事はまったく出来ないのである。させたら、家庭が終わる。
「しょうがない、作りなおそう。」
「やめぇい!」
「えー、何で?」
「良いから、キッチンから出ろ!」
やっと、セフィロトをキッチンから追い出し朝食を作り出す。今日は、軽めの食事の予定である。
「大地は、料理が好きだよね。」
「そうか?あっちでは、ひとり暮らししてたし家事全般は出来るけどな。好きかと聞かれれば、少し迷うかな。確かに、楽しいけどもな。」
「大地は、帰りたい?」
急に小さな声で言うので、包丁を止めてセフィロトを見る。セフィロトは、複雑な表情である。
「どうしたんだ、セフィロト。」
心配そうに、セフィロトを見て言う。
「…………。」
「そうだな、帰れるならば帰りたい。」
ビクッと、俯いたセフィロトの肩が震える。
「でも、帰れないんだろ?」
「今なら、帰れるかもしれない。」
「えっ……。」
「君が彼と、仮契約じゃなく本契約をしてしまえば君の魂はこの世界に縛られる。」
「なぁ、あいつらも帰れるのか?」
「いいや、君だけ限定だよ。」
大地は、包丁をまた動かしながら暢気に……。
「ふ~ん、ならいいや。俺は、ここに居る。」
「でも、帰りたいんでしょ?」
「帰れるならな。でも、帰れないんだったら別に帰れなくっても良いんだよ俺は。」
そう言って、フライパンをマジックアイテムのコンロの上に置いて炒めたりする。
「そうなの?」
驚いてこちらを見るセフィロトに、花が咲いたように笑いかける大地。
「おう、どうせ俺の家族は誰も生きてねぇし。」
素っ気なく言うので、一瞬間が出来る。
「えっ、そうなの?」
「おう。俺は1人っ子だし、親は病気持ちで社会人になってから亡くなったからな。今は、帰る実家すら無い。だから、ここに居ても同じだ。」
「同じじゃないよ。君は、僕らの家族なんだからね。今までも、これからも……。」
「だな。さて、朝飯出来たぞ。」
「わーい♪」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
王城の王子の部屋にて……
「王子!しっかりなさってください!」
「か……らだ…あ……つい……。」
熱を出して、倒れる王子。ルクフォードは、信次を睨み激怒に叫ぶ。信次の手には、あの呪われたアーティファクトが握られている。
「私を、だましたのか!」
「あぁ、大地を追い出すためにな。やっぱり、本物だった。だから、巻き込みたくなかった。」
悲しそうに、こらえるように呟く。
「大地、ごめん。お前の大切な人を、殺させて貰うよ。大地が居ない、今がチャンスなんだ。」
「あら、させないわよ!」
ギルマスの拳を躱して、賢者の魔法を受け流す。ドミアは、王子を見つめ泣いている。
「これで、終わらせる。」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「さて、皿洗いは任せて寝てて。」
「わー!ストップ!俺がやるから、お前は座ってろ!あっぶねぇ……。何とか、皿を守れた。」
ため息をついて、皿を洗う。
「おや、君が人の家をたずねるなんて珍しいね。どんな気まぐれだい?」
「うるさい、天然系残念イケメン。」
大地は、それを聞いて思わず笑ってしまう。
「あっ、大地まで笑うだなんてひどい!」
「ごっ、ごめんな。何て言うか、あははっ。」
「へぇー、気が合うな。俺は、ベルモ。」
青年が、嬉しそうに笑いかける。
「ベルモ?と言うと、王城の医者ベルモか?」
「そうだ。よろしくな、大地。」
「あぁ、よろしく。」
ニッと笑いかける。
「ちなみに、今は人の姿だが俺はケットシーなんだぜ。どうよ、驚いたか?」
「なんか、ケットシーと言えば2本足で立つ猫で確か種族は妖精だったはずだけど。」
「正解。おいらは、何万年も生きてるから人に化ける力があるんだ。今日から、お前の担当医でもあるからよろしくな。あっ、拒否権無いから。」
「また、個性の強いのが来たな。」
苦笑交じりに言う。
「まぁ、でも嫌いじゃ無いだろ?」
「嫌いじゃないな。」
2人して、笑い合う。大地は、紅茶とクッキーを出すと自分も座り紅茶を飲む。ふと、2人がこちらを見ているのに気付く。
「どうした?」
「いいや、可愛い顔してるなと思って。」
「大人の姿は、眩しすぎるけどね。」
2人は、紅茶やクッキーに手をつける。
「????」
「なるほど、このての奴か。」
苦笑を浮かべて、ため息をつく。
「はぁ~、こう言う事は僕より天然で鈍感だよね。本当に、将来が心配で仕方ないよ。」
疲れたように、ため息をつく。
「ん?」
キョトーンとしつつ、ガジガジもぐもぐとクッキーを食べる大地。2人は、笑いつつもまたため息をつく。何て言うか、最高の癒やしだな。
「さて、これ食い終わったら診断するからな。」
「なぁ、俺はどこか悪いのか?」
キョトンとして、2人を見ているのだった。




