兆し
なんか、怠いな……。そう思う。大地は、この街の外の森に入っていく。
「なあ、出て来いよ。」
すると、武装した男達が出て来る。
「わざわざ、俺達が動きやすい森に逃げてくれるとは。ありがたいなぁ。」
「ははっ、まったくだぜ。馬鹿だな。」
ざっと見れば、37人。隠れて居る奴もいるな。
「出来れば、帰って欲しいんだけどな。」
本当に、疲れたように言う。
「余裕だなぁ。今から、俺らに殺されるのに。」
「それは、どうかな?」
「お前、現状が見えていないのか?」
なるほど、数で押すつもりか。でも、知ってるか?俺の世界には、量より質の方が強い時だって有るんだぜ。まぁ、何事にも絶対はないがな。
「あぁ、ちゃんと見えてるよ。」
「なら、大人しく殺されろ!」
俺は、怠い身体に鞭を打ち魔力を纏う。
「そんな事、言われてもなぁー。はい、そうですか。と受け入れられる訳が無いだろ。」
そして、腰のベルトからナイフを抜き構える。
「おい、何ならあのカードを出しても良いんだぜ。俺らが、大切に使ってやるからな。」
「まじ?ならやるよ。」
胸ポケットからカードを出して男に投げる。地面に落ちたのを見てから、男の1人がカード拾おうとする。もちろん、次の瞬間に男は悲鳴を上げる事になった。基本、神代や古の時代のアーティファクトは数は少なく主を自分で選ぶ。認められた者のみが、そのアーティファクトを使える。
そして、『神王の最高傑作』と呼ばれる失われたアーティファクトは主を自分で選ぶタイプの武器であった。主である大地に投げられたのは、嫌だったがそう言う作戦なのだろと理解できるだけの知能を持っていたため主のために喜んで拒絶を示す。その結果が、男の悲鳴の原因であった。
「たっ、助けてくれ!」
「ん、どうしたんだ?」
軽く言いつつも、助けるつもりは無さそうで欠伸までしている。男達は、ぶち切れる。
「こいつ………、殺せ!」
だが、忘れてないだろうか?彼が、誰と契約しているのかを。ため息……。
「さて、もちろん手伝ってくれるよな?」
森が、大地の声に応えるようにざわざわと揺れだす。大地は、カードを拾い胸ポケットに直すとナイフで倒れた男の息の根を止める。
知らぬ間に、敵の殆どが息絶えていた。
これを命じた俺は、神なんて神々しいものじゃなく魔神の方になるんだろうな。
「すまん、セフィロト。」
「良いよ。僕らは、君を守らなければならない。相手が、君を狙うのなら僕らの仕事だよ。」
安心させるような、優しい笑み。でも、少し怖くなった。俺は、2人を……。
「大地?おーい、大丈夫かい?」
心配そうに、俺の表情を覗き込むセフィロト。俺は、ハッとして謝る。顔色が悪いのが分かる。
「………ねぇ、大地……。」
「んっ?どうしたんだ、セフィロト。」
「君、身体は大丈夫かい?酷く疲れたり、気分が悪くなったりしてないかい?」
「それがどうしたんだ?」
何故、そんな事を聞くのかよく分からない。
「あるんだね……。」
「まっ、まぁな……。」
セフィロトの気迫に、思わず引き気味に答える。
「いつから?ちゃんと、ご飯食べてるの?」
「二日前くらいからだけど……。」
「………今すぐに、帰って寝なさい!」
「セフィロト?」
セフィロトは、何も話す気は無いらしい。
「俺、仕事の途中だし無理だぞ。」
「そう……。でも、なるべく身体を休めて。」
「……分かった。あのさ……」
「さて、僕はもう帰らないとね。」
言わせないように、遮ると姿を消す。もちろん、セフィロトの言葉を破るつもりは無い。無いんだが、何か大事な事を秘密にしている気がしてとても胸騒ぎがする。考えすぎか…………?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その日の夜 -魔物の森の聖樹の下-
「ついに、大地の身体に兆しが見てたよ。どうしよう、彼が目覚める…。大地が……、危ない……。」
「ふむ、まだ寝とけば良いものを……。」
セフィロトは、とても悲しそうに呟きアルファは不愉快を隠すこと無く呟く。
「今の大地じゃ、確実に引きずり込まれる。」
「あぁ、そうじゃな………。」
2人は、沈黙する。そうするしか、なかった。




