表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生【撲滅】委員会  作者: ノンアクティブ木下
エージェントAa004編
8/86

Fa49012世界 ソレイユランド 【同情】

 

 予想滞在猶予期間は約30日間。


 これは運が悪ければ27日程度で、運がよくとも33日程度で、私の意識が肉体を離れて意識の海へと送還されることを意味するらしい。


 私、アイことエージェントIh014がこの世界に降り立って、現在で27日目。


 日数こそギリギリになってしまったが、作戦はいよいよ第三段階まで来た。


 ちなみに第二段階であるクロイツの信用を得ることに関しては、実はそう難しくなかった。

 世界は違えど、一緒にいる時間が長ければ親密さを感じやすいのは人間の性であるらしい。



「あー、今日も疲れた。

 なあアイー、肩揉んでくれよー。」


「んー、いーですよー。

 じゃあ、横になってくださいね。」


「ダメですよ、アイ。甘やかしたら。

 重い剣を振り回す戦士や勇者ならともかく、魔法を唱えるだけのクロイツ様は肩なんか凝るはずないんですから。」



 リリーとクロイツの足を引っ張らないように、魔物との戦いの際には留守番をしていたものの、その他の時間のほとんどの行動を共にしただけあり、十日が経つころにはこんな会話もできるようになっていた。

 もしかしたら、この世界で必須となる魔力をほぼ持たない非戦闘員であるということも、警戒を解くことに繋がっていたのかもしれない。



 ただし、第三段階。

 隙を見てクロイツを始末する機会を整えることは、流石に難航した。

 それこそ、予想滞在猶予期間が危ぶまれるほどに。


 というのも作戦決行に際して、どうしても必須な条件があったのだ。


 それはどうにかしてリリーを排除し、クロイツと二人きりの状況を作ること。

 なぜならリリーは非常に優秀な治癒術師だったから。


 もっとも、このことは広場で先生のけしかけたチンピラとの彼らのやりとりを見て、作戦の構想段階から予定していたことではあった。

 リリーはどうやら手をかざすだけで傷を治すことができる。

 そもそもただでさえ圧倒的に分が悪い相手に、二対一などどんな状況であったとしても挑むべきではない。


 が、さらに悪いことに、予想外にリリーは優秀すぎた。



「はい、治りましたよ。」


「あ、ありがとう……!

 ありがとうございます……!」



 魔物との戦いで重傷を負ったという町の兵士に対して。

 彼女は切断された腕さえも、復元して見せたのである。


 その光景を目の当たりにしたとき、私は戦慄した。


 この女がクロイツの隣にいる限り、作戦の成功は無いものと思っていい。



「その、無茶を承知で聞くんですけど、私にリリーのように治癒術を扱うことってできませんか?

 やっぱり、二人の力になれていないのは歯がゆいなあ、なんて。」


「気持ちは嬉しいのですけど、はっきり言って無理ですね。

 残念ながら、こればっかりは努力とかそういう次元じゃないです。

 実は私の力は本来の治癒術ですらありません。」


「?」


「生まれもった祝福、あるいは呪いのようなものなんだよ。リリーの能力は。」



 ある日のこと、尋ねてみたことがある。

 表向きとしては自分にできることはないかと。

 その真意は、リリーの能力について探ること。



「治癒術師の限界は、傷を塞ぐ程度だと言われています。

 傷を塞ぐ程度とはいっても、もちろんそれは十分すぎるほどに魅力的な能力なんですけどね。

 けれど私の場合は生まれつき、手をかざすだけで身体部位の再生さえできてしまう。

 そんな人間がいれば、どうなるかはなんとなく想像ができるんじゃないでしょうか。」


「……。」


「私は田舎のいたって普通の家庭の出身なんです。

 うわさを聞き付けた貴族に金を積まれ、けれど家族は首を振らず。

 結果、私を除いて家族は皆殺し。残った私は奴隷として連れ去られます。

 どんな重傷者も手をかざすだけで治すことのできる女。

 しかも一般的な治癒術とは違って私の力は魔力消費を伴わない。

 自分で言うのもなんですが、このうえなく都合がいいですよね。」


「もういいよ、リリー。十分だろう?アイ。」


「……はい。」



 あらためて分かったことはリリーの恐るべき能力と、リリーが非常に深い恩をクロイツ感じているということ。

 後者はわかりきっていたことではあるが、そういった過去があるのであればなおのこと、彼女をクロイツのもとから引き離すのは困難だろう。

 ……そして、聞いてしまったがゆえに生まれる感情。

 同情。憐れみ。あるいはそれでも前を向いて今を生きていることへの尊敬。

 どれもこれも、これからクロイツを殺すうえで、必要のないものだ。


 結局のところこの二人を一時的にでも引き離すことに関して、私がどうにかできたわけではない。



「おっと、ごめんよ。」



 状況が動いたのは、街中でフードを深くかぶった男に軽くぶつかられた時。

 その男は上手く、そして自然に私の上着のポケットに手紙を潜り込ませた。


 今夜、リリーをクロイツから引き離す。後はうまくやるように。

 手紙の中身には、そう書いてあった。

 どこでどうやって仕入れたのか、小袋に入った睡眠薬まで添えて。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ