マーブルな地球
「地球って何色だと思う?」
土曜日の昼下がり、陽の光が柔らかく回り込んだ明るいカフェで、サチが唐突に聞いてきた。
「何色って、そりゃ青でしょ」
「私は、マーブルだと思うの」
また始まった、とミカは思った。サチのこういう突拍子も無い発言は日常茶飯事だ。サチは、アイスティーの氷をストローでクルクルしながらニヤニヤとミカの反応を観察している。
「なんでそう思うの?」
そう尋ねると、サチは待っていましたと言わんばかりの顔だ。
「だってさ、この地球上にはいろんな人がいるでしょ? もしその人たちの心とか価値観が色で見えたら、地球は絶対マーブルだなって」
はぁ、そうですか、という気持ちにもなるが、ミカ自身はこんなことを考えもしないので、面白い奴だなとも思う。
「それにね」サチが続ける。
「人間の体の中には、100兆個の細菌が住んでるらしいよ」
「何の話?」
ミカには話がかなり飛んだように思うが、サチの中では何かが繋がっているらしい。
「ずっと同じ話だよ。私の中に住んでいる細菌たちにとって、私は地球みたいなものでしょ? もしその子たちに『私は何色?』って聞いて、『肌色』って言われたらなんか心外だなって」
お前の話かい、と思いつつ、ミカは興味本位で聞いてみた。
「じゃあ、あんたは何色なの?」
「うーん、ピンクと黄色かな。あっ、緑もいいな」
サチはうっとりとカフェの天井を見つめて答えた。また新しい妄想が始まっていそうだ。ミカはそんなサチを微笑ましく思った。
「私はあんたが何色でもいいよ」
「茶色でも? 黒でも?」
「うん」
「そうか、そしたらミカはどんな色の私のことも、いつも近くで見守ってくれる心優しい友人ってことになるね」
「そうだね」ミカは苦笑した。
「なんか、いい話になっちゃったね」サチは嬉しそうだ。
唐突に、サチが右手を高く上げた。
「じゃあ、質問! ミカは何色ですか?」
「赤」
「おお、それは情熱的」
今日もおしゃべりは止まらない。マーブルな地球の上で。