5.バス旅
バス時まで時間がありすぎるので、観光していたときのこと。
野次馬がはけていくと、中心には倒れる女性とトラ。
女性を救うべく主人公の相方は前に出る。
なんやかんやのハプニングを終え、地元へ出発。
「硝子工房じゃん!俺ここ行けなかったんだよなぁ」
「小樽来たことあったの?」
「うん、宿泊研修でね」
バス時間まで暇潰しに小樽運河周辺を来てみた。予想以上にテンションが上がる。
「宿泊研修かぁ。懐かしいな」
「本当…あっ、何かあそこでやってる」
「本当だ。あれは…テレビ撮影か何かかな」
「すげぇな。さすが小樽だわ」
「ここは結構テレビ出てるもんな」
テレビ取材をしてる人達を横目で見つつ、通りを歩く。
「腹減ってない?カイザ」
「減った」
「何か食べよう。腹減って死にそう」
お前はいつから食ってないんだよ。
時間帯的にも朝飯時になる…はずなので、何か口にしたい。
「うーん、近くの店でいいよなぁ。別に有名な食べ物食べなくたって、悔いはないっしょ?」
「うん」
宿泊研修の時に限定物は食べたので、ありきたりな食べ物でも構わない。
サーモンは、たまたま目に入った蕎麦屋に入って行った。
「そばー、そばちゃん会いたかった」
「やめてよ気持ち悪い」
店員に案内された席に着いてからサーモンが発した。隣に違う客がいると言うのに。
「いろんなそばあるな。俺何にしよっかなぁ~」
「うーん…」
俺達は悩んだ末、俺が天丼そばでサーモンがつけそばにした。
早く来いと文句を言い続けてたサーモン。まだ注文してから3分も経っていないのに。
10分後、注文したそばが来た。人も混んでるから結構長かった。
ズルズル煤っていると、サーモンがいきなりむせ出した。
むせ出すのも無理はないだろう。それはその口に入らないだろうという大きすぎる束にして、無理して入れた結果むせた。馬鹿すぎる。
「死ぬっっ!!」
「一回死んで勉強した方がいいんじゃ」
「死んだら生き返られないし!」
「そっか」
苦しそうな顔をしながらもツッコみを入れてきた。本当にノリのいいやつ。
再びむせたが、無事食べ終えた。サーモンは汁まで全てを飲み干した。
「美味しかった~。食事代俺が奢ったるよ」
「えっ、そんな、申し訳…」
「先輩だからさ」
「お、そ、そうか」
言われてみれば、俺の立場からしてみれば確かに先輩だ。先輩という実感が湧かないけど。
会計を終え、外へ出ると、野次馬が群がってるのが見えた。
「ありゃ何事だ」
「さっきの取材?」
「移動したのかよ」
まぁ、然程距離はないからもしかしたらそうなるのかもしれないか。
「何で見えもしないのに後ろの方にいるやつらは群がるんだろうな」
「確かに。俺なら行かないな」
意外にもサーモンはああいう群れは好まないみたいだ。
事実上、後ろの方の人達は起こっている事は見えていないはず。
「離れてくださいっ!」
男の人がそう呼び掛けていた。
「そんなに前出たら危ないですよ!」
よく見れば警官ではないか。あれはテレビの取材じゃないのか。
「警察じゃん。何かあったんかな」
「どうするの?」
「警察いるって事は、事件か有名人に群がってるかとか、そんな事だろうし…。さっき撮影しに来てたから有名人に群がってるんじゃね?」
「そうか」
あんなに人いたら見るのも諦めるけどなぁ。
そんだけ人気者なんだろう。
「キャーーーッ」
突如叫び声が。それと同時に人がサッと捌けていく。
人が捌けたので隠れていた、皆が注目していたものが見えた。
目に入ったのは、虎が女性を襲っている光景。
エグイほどに女性を噛み千切っている虎。
よく野次馬達は恐れも知らずに虎を見ていることができたものだ。
あれは危険すぎる。
「虎じゃん…」
「カイザ、俺達の出番」
「へ?」
サーモンはマントの中からショットガンを手に取った。
あぁ、そうか。野生動物を殺るのは俺らの役目なのか。
「あ、でも。俺だけで始末できるかも。カイザは俺の構えとか学習しとけ」
「え…」
どうやって学習すりゃいいんだよ。
銃と弓は構え方が違う気が…。いや、全然違うかもしれない。
「警察さーん」
サーモンはショットガンをぷらぷらさせながら警察に歩み寄る。
警察と何か話をしてるみたいだが、俺には聞こえない。
話終えたのか警察から離れ、虎にそれとなく近付いた。
片膝を地面に付け、もう片方の膝で肘を支える。女性を襲っている虎めがけて1発放つ。バンッッ!とかなり大きい銃声をあげて、虎は倒れた。
近いとはいえ、1発で弾を当ててしまうとは。1年近くやっているだけあると感心するわ。
「カイザー、見てた?これが俺の実力よ」
「すごいね」
笑顔で手を振ってくる。きっと自慢してるんだろうけど。
サーモンは警察に一声掛けた後、こちらへ向かってくる。
警察は敬礼していた。
「いやぁ、女の人ヤバかった。骨見えてたわ」
「マジか…」
あんだけ喰われれば骨も見えちゃうか。
にしても、何で町中に虎なんてものが出てくるのか。野生じゃなくて動物園の虎だったりするのか。
「カイザ、俺からの教訓を与えよう。ああいう猛獣を見付けたら、言われる前に自分から行動しろ、な?」
「わかった」
「うし。言われてからじゃ遅いからな。命に関わるし」
俺の性格を指摘してきたかのような感じ。俺の悪い所を突いてきたようなもんだ、“言われる前にやれ”なんて。
「おー、10時かぁ。まだまだだな」
「おっそ…」
これから何やればいいんだよ。
男2人でボーイズトークでもするのかこのやろう。女2人ならそれなりに時間が潰せそう。
「暇だぁ~」
「何とかならないの?」
「えぇっ、俺を何だと思ってるの」
「盛り上げ役」
「おぉぅ」
べちゃくちゃずっと喋ってそうなイメージしか出てこない。暇というものを忘れさせるような、そんな感じで。
暇暇言いながら町をぶらぶら歩き、暇潰しできそうな店は入って時間潰して、時には物作りしたりして。
多少お金は減ってしまったが、なにもしないでずっと待ってるよりはいいだろう。
こんなことをして、今の時刻12時35分。このまま歩いてターミナルまで行けば丁度いい時間になるのではないかと思う。
俺達はターミナルに向けて歩き出した。動き回ったので足が疲れてしまっているが、地元に行って親に会えるというならそんなのお構い無し。
歩くこと20分、ようやくターミナルに着いた。バス時間は1時丁度なので、残り5分。遅れを取らなくてよかったと思う。
「やーっとバス乗れんね」
「疲れたわぁ」
外へ遊びに行く回数が減ってしまった俺にとっては、キツいものがあった。けど、これを気にいい運動になったのならいいかな。
『新千歳空港行きバス、まもなく到着致します。新千歳空港~…』
アナウンスが流れた。
「行くか!」
「うん」
高速バスは乗ったことなかったので、少しワクワクしてきた。乗り心地が良さそうだなとずっと思ってたのだ。
バスに乗る人が意外と少なく、場所に困ることなく乗れた。
ここから座りっぱなしの旅になる。この世界の謎も解き明かせたらいいな。
バス時ないとき何して暇を潰せばいいのかわからないっすね