2.ツルツル神が舞い降りたッ!
今後どうするのか。
主人公の運が問われそうな。
ナビゲーターはとにかくあてにならない事がよーくわかったので、自力で今後の活動方針を考える。
いつの間にか住宅街に俺はいた。
確か、黄色の髪の毛の子が何の説明も無しにここへ飛ばしたんだっけか。
人通りはあるみたいだ。今の日本の風景と然程変わりない。この風景と今の俺の服装はマッチしなさそうにも思えるが。
さて、ここから何をすれば良いのやら。…ガチで説明なかったぞあの女。
弓を手に入れてるのだから、これを活かした何かをするのだろうけど、的があるわけでもないし、モンスターやら何やらが出てくる気配もない。
「マジで何するんだよ…」
ついつい口に出してしまった。本当の事だけど。
何をすればいいのかわからないので、自身の持ち物チェックをしてみる。ここが本当の俺が望んでたゲーム世界だとすれば、スキルやらお金やらいろんな情報があるはずだ。憧れの、手をスライドしたらウィンドウが現れる的な事もあるかもしれないし…。
そんな期待を胸に、手を振ったりスライドしたりしてみた。…何も出てこない。
ウエストバッグには何が入っているのだろうか。少し気になってた。
チャックを開けてみると、小さい巾着一つのみ。
巾着の中身を見てみれば大金が。5万円も入っていた。札束はお馴染みの福沢さんだった。
…ここの通貨は円なんだな。
円とわかったところで何も始まらない。わかった事と言えば、ここが日本である事と俺が5万円を持ってると言う事。連想させてみても、何にも繋がらない。
わからないなら聞くしかないのか。他人に何かを訪ねるなんて、緊張して上手く話せないだろうけど、ここで声を掛けなきゃ何も始まらないので、勇気を振り絞って掛けてみる。
人探しへ行くために足を踏み出すと、
「わっ」
ドン。誰かとぶつかってしまった。それと同時にチラシが散った。
ヤバいと思ってそのチラシを拾うと、声をあげた主が言ってきた。
「すみません、私の不注意でぶつかってしまって」
「いえ、俺も立ち尽くしてたのも悪いですし…」
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。この様子だと、相手も同じ事思ってそう。
拾いきった分を相手に渡す。渡す時に顔が見えたので、思わず見てしまったが、かなり綺麗な人だ。
「本当にごめんなさい、それではっ」
「気を付けて」
チラシを抱えたまま走って行った。
トラブルが起こって一段落着いたのはいいが、話し掛けに行く気力がなくなってしまった。
どうしようもなく、キョロキョロしてたら、
「ちょいと君」
おじさんの声が聞こえた。多分俺に言ってるんだと思うので、向いてみる。
「弓使いさんよ、頼み事を頼まれてくれ」
「な、何ですか…」
そこに立っていたのは、ハゲており、長い白髭を持つおじいちゃん。かなり老けてるが、声はしっかりしてる。
「遠距離にしかできない事をやってほしいから、こっちに来てくれんか」
「行きます…!」
途方に暮れてた俺に神が舞い降りてきた。今すごく嬉しい。
スタスタと歩くおじいちゃんの後を追う。歳が幾つかわからないけど、見た目にしてはかなり歩くのが速い。杖を持ってそうなイメージなのに。
「もう少しで着くからな」
そのもう少しを歩くこと数分。ごく普通の一軒家に到着。
その家の隣は、枯れた雑草がわんさか生えている。
「あそこに柵があるのが見えるだろう?」
おじいちゃんが指したのは、雑草が生えている所。雑草で隠れてて見えなかったが、確かに柵があった。
「その向こうに、猿がいるんだよ」
「猿…か」
よくある事ではないが、猿などの野生動物が侵入してくることは稀にある。
「その弓で射ってくれんか」
「えっ、俺が!?」
「俺がって、お前さん弓使いなんだろう?そんくらいできて当然じゃろ」
いやいやいや、始まったばかりだから。
それに、弓。俺弓道部に入ってるわけでもないから、弓なんて触れたことない。今が初めて。
けど、おじいちゃんはあの黄色の髪の毛の子と同じように話を聞かなさそうだ。射つしかなさそう。
「何あっても文句無しですよ」
「おう。猿を退治してくれれば文句なんかないわ」
俺はそれっぽく弓を構える。矢が弦に引っ掛かった事を確認し、照準を合わせる。生憎、俺は目が悪いのでぼやけてしまう。
ここだと思う所に射ってみた。...が、的中せずに全然違う所へ矢が飛んでいった。
「へったくそだねぇ~」
「も、文句無しって言ったじゃないですか!」
「はぁ?何言ってんだお前」
都合のいいようにしやがって...。
思わず俺は歯軋りをしてしまった。
「ほれ、もう一丁」
「はい....」
もう一度構える。どうせ当たらないんだからと諦めて射ったら、当たった。
俺は思う、期待すればするほどできなくなると。困ったもんだ。
「おぉ、当たったじゃんかいな!ありがとうよ」
「あれの始末はどうするんです?」
「警察に頼むわい」
警察はこの世に存在しているのか。ここは俺の知る日本と何が違うのか。
「...ってか、この猿退治は最初から警察に頼めばいいんじゃないすか?」
「こういうのはなぁ、それぞれ専属の人がいるからって警察を忙しくさせるんじゃねぇ...とよ」
「はぁ!?」
警察が何をほざいてやがる。住民を守るのが警察の仕事じゃないのかよ。
でも、専属の人っていうのは俺達のことなんだろう。だからって全てを押し付けるのもどうなんだか。見た感じ俺と同じような武器持ってる人は見かけなかったが。
「それより、ほれ。お駄賃」
「えっ、こんなに!?」
「命を守ってくれたみたいなもんだからな、こんくらい出すわい」
おじいちゃんがくれたのは2万円。俺の持つ5万円と合わせれば7万円になる。こんだけあれば十分に生活できるだろう。
「おし、用が済んだからお開きな。そんじゃ...」
「ちょい待って!」
俺はおじいちゃんを引き留めた。ずっと聞きたかった事があったのだ。
「つかぬことを聞くんだけど、今って2016年?」
「うん、お前今年が何年かも忘れたのかいな」
「いや...あはは...。あ、じ、じゃあさ、ここってどこ?」
「ここってどこって、お前大丈夫か?ここは小樽だぞ」
「小樽!?てことは北海道!?」
「おうともさ」
質問して恥ずかしさがあったが、いまはそんなことも忘れていた。
「じゃあじゃあ、室蘭ってある?」
「あるぞ、南にある町だよな?」
「はい!」
室蘭は、俺の生まれ故郷。もしかしたら室蘭に行けば家族がいるかもしれない。もしいたとすれば、ここは異世界でも何でもない、俺の知る日本になる...のかな?こんな格好してるけど。俺は記憶を失っているのかもしれないし。
「用はそれだけか?」
「.......多分。情報ありがとうございました!では」
「気を付けてな、またな」
「はい、では」
おじいちゃんに手を振って別れた。
何をすればいいのか途方に暮れていたが、ようやく目的が見付かった。一回室蘭に行ってみよう。
バスくらいしか乗り方知らないので、バスで行くことにした。確か、バスだと高速通っても2~3時間、いや、大きく見積もって3~4時間としておこう。バス賃は3000円以内なので、余裕がある。
余裕があるのはいいが、今日は行けないだろう。日が暮れそうだ。
となれば明日からでも実行したいが、とある問題が。
どこで寝ればいいんだ。
住宅街なので、店がほとんど見当たらない。せめてホテルくらい見付けなければ。
これは、人に聞くしかない。さっきおじいちゃんに聞けばよかった。今更おじいちゃんの元へ訪ねるのも気まずいので、違う人に聞かなければ。
聞きたいのがやまやまだが、人に聞くという行為が緊張してならない。この性格が本当に嫌い。
とりあえず俺は歩く。人探しに歩く。
見付けたところで話し掛けられる自信はないけど。
しばらく歩いているが、話し掛けられずにいる。皆忙しそうに見えて仕方ない。
そこで、家の前で休憩してるおばあちゃんが。あの人なら声掛けられそうな気がしたので、さりげなく近寄ってみる。
「あ...」
相手はおばあちゃんだ。悪く思われる事はないはず。何せ、おばあちゃんとかは若い子達が好きだろうし。
「あの、すいません」
「んだ?」
座って休憩しているおばあちゃんは、俺を見上げた。
「聞きたい事が...」
そう言いながらしゃがむ。目線を合わせた方が話しやすい気がする。
「ここら辺にホテルとか、宿泊できる場所ないですかね」
「宿泊かい。ここら辺にはないけどさ、あの通りを真っ直ぐ行けば商店街さ。多分そこにあるだろうね」
「おぉ...」
俺が歩いてきた道だった。Uターンになってしまうが、寝れる場所があるなら文句はないか。
「私地図書けねぇから口でしか言えねぇけど、あっちの方さ」
「助かります、ありがとうございます」
「いんだ、仕事頑張れよ、弓使いさんよ」
「仕事...?....まぁ、いいか。頑張ります」
おばあちゃんに一礼してこの場を去った。
さて、向かうはおばあちゃんの言う向こう側。どのくらいかかるのかは検討もつかないが、歩ける距離にあるから教えてくれたのだろう。
今日の目標は宿泊場探しとしよう。