関ヶ原へ
関ヶ原へ向かう武士
「何をやっているんだ!早く来い!」
衆人居並ぶ中で武士は携帯電話に向かって怒鳴った。
電話を切ったあとも武士の怒りは収まらない。
「まったく山口ヒルダは何をやっているんだ!もし、茶々丸との合戦に遅れたらただでは置かないぞ!」
周囲に聞こえる大声で怒鳴る武士。
本多正子が近くに寄ってきて微笑を浮かべる。
「山口は秋葉原から連れてきた人間であり、あなたが後継者と目している人間。その人間の失敗をかばったら、余計に武黒衆から反感を買うと思って厳しくしておられるのですか?そのようなお心使いは無用です。平常心で行動してください」
「余計な事は言うな」
そう言って武士はそっぽを向く。
正子は含み笑いをして立ち去った。
武士の軍は大垣に駐屯していた。関西から石田成子率いる軍勢が進行してきたら、関が原で駐屯している。
関が原の山の上から街道を見下ろし、そこを通ってくる敵軍を集中砲火で叩きのめす戦法だ。
地理的条件において、石田成子のほうが圧倒的に優位である。
地政学的見地から考えて、地理的要因は極めて重要なファクターであり、石田成子はその点を最も重視した。
武士が率いてきた部隊は、いずれも大垣に駐屯し、石田が大垣まで進軍してくるのを待とうというものだった。
しかし、武士の軍は武士の直属の部隊ではない。地域からの寄せ集めである。しかも、大垣は武士の本拠地の関東からは遠い。関西に本拠地を持つ石田軍の方が物流コストが圧倒的に安い。長期戦になれば、武士軍の補給が枯渇しかねず、枯渇しないにしても、莫大な物流経費を損失することになる。
「関が原で決戦に及ぶ!」
武士はそう宣言した。
「待たれよ、敵が山の上から集中砲火を浴びせる中に突っ込めば莫大な被害を受ける。戦略論において、地理はもっとも重要なファクターなはず。それを無視しての作戦行動は無謀というものでしょう」
元、木下軍の福島が詰め寄った。
「心配しないでください。先鋒は我ら松平軍がつとめます。集中砲火は私たちが受けますので、私たちの屍を踏み越えて敵を殲滅してください」
「せめて山口軍が到着するのを待たれてはいかがか」
「敵はまだ寄せ集めで精神的にまとまっていません。今攻めてこそ、敵の動揺をさそえるというものです」
「しかし……」
福島は苦り切った顔をした。
「怖いですか?」
「何が怖いことがありまそうか!おう!やってやろうじゃないか!」
武士のちょっとした煽りに福島はまんまと乗った。
伊賀衆からの情報によると毛麗軍を率いる毛小龍はぬけぬけと石田軍に合流しているようだった。本多正子と密約を結びながら、実際に石田が軍事行動を起こすと、そこに同調する軍の多さに腰がひけて自軍の被害を出さないために石田軍に寝返ったのだ。
武士は毛小龍に電話をかける。しかし、相手は着信拒否をしている。
武士は進軍を開始した。
ほどなくして武士たちの軍団は桶狭間に到着。
武士は真っ先駆けて突進した。敵は集中砲火を浴びせてくるが、武士はその銃弾の荒らしの中を突き進む。武士自身は、オタソードを振りかざして砲弾を切り倒すが、全員がオタソードを使えるわけではない。次々と武黒衆が敵の砲火に倒れてゆく。
「機関銃部隊前へ!」
武士は叫ぶ。武黒衆の機械化部隊が軍の前面に出て来る。
「全弾討ちつくすまで、毛小龍の陣地に銃弾を打ち込め!それが終ったら毛小龍の部隊に突っ込む!」
武士の号令とともに、武黒衆は毛小龍の部隊に銃弾を打ち続ける。すると、武士の携帯電話が鳴る。
「なんだ?」
「あの、毛小龍です。武士様、あなたが今銃弾を打ち込んでいるのは我が部隊です。私は武士様に味方すると伝えたではありませんか。すぐに銃撃をやめてください」
「だまれ、やめてほしければ、石田成子の部隊に攻め込め。すぐに行動を起こさなければ、お前の部隊に今から攻め込む。この戦、地理的には圧倒的に我が軍が不利だ。だが、全力で突っ込めば、たとえ我らが皆殺しにされても、お前らの部隊は皆殺しにできる。たとえ石田が勝とうとお前は死ぬのだ!覚悟しろ!」
「待ってください!そんな事して何の利益があるんですか!やめてください、不合理です」
「不合理もくそもあるか!今の目的はお前を殺すことだ!わかったか、お前を殺す!負けても、破滅しても、そんなことは関係ない!お前を殺す!」
「やめてください、何でもしますから殺さないで!」
「なら石田成子の本隊に攻め込め!」
「そんな事したら、我が軍は大損害を受けます!」
「大損害を受けても、お前ら自体は死なないだろう。攻め込まねば、お前だけは絶対殺す!お前が生き残る方法は、石田本隊に攻め込むことだ、どうする!」
ブツッ
電話が切れた。
「電話を切られましたか、どうなさいます」
本多正子が近寄ってきて武士の目を見る。
「切ろうが何しようが関係ない、今より毛小龍の部隊に突撃するぞ!突撃!」
その姿を見て本多正子は目を見開いて満面の笑みを浮かべ拳をふりあげた。
「おおっ!」
武黒衆は一体となって毛小龍の部隊に向かって突進する。と、その時である。
毛小龍の部隊が動いた。武士たちに突進してくる。が、
角度を急反転して石田成子の部隊の側面に攻め込んだ。
「いまだ!我らも石田成子の部隊に突撃せよ!」
「おーっ!」
武黒衆はそのまま石田成子の部隊に突撃する。石田の部隊は二方面から敵を受け、混乱に陥った。指揮系統に混乱が生じた部隊はもろい。
それを見た松平軍に追随してきた他の部隊も、勢いに乗って敵に突撃していった。
石田軍は完全に崩壊して総崩れとなる。
が、
突如としてこげ茶色の鎧で武装した300人ほどの軍団が武士の軍の側面から突撃してくる。
すでに石田軍は敗退し、勝利が確定した直後だけに、一体何の意味があってこの部隊が逃げずに突撃してくるのか、武黒衆の将兵は戦いなれしているだけに意味がわからなかった。
「ユーベルトートだ!」
誰かが叫んだ。
こげ茶色の鎧に身をつづんだユーベルトートが武士めがけて突進してくる。
一瞬の武黒衆の動揺をついて、ユーベルトートは武士の突進してくる。
「お逃げください!」
本多正子が武士の前に立ちはだかる。無論、文治派の正子にユーベルトートが倒せるわけがない。
「無用だ!」
武士は正子をはらいのけ、オタソードを出してきた。
ユーベルトートは武士の間じかまで槍を振りかざしながら突進する。
「槍?なぜオタソードを使わない?」
武士は眉をひそめる。
ユーベルトートは武士のすぐ近くまで迫ると、槍を捨てて、懐からガラスの破片をばら撒いた。
武士のオタソードが消える。対オタク偏光ガラスだ。
「あ!」
武士が一瞬ひるむ。ユーベルトートは懐から拳銃を取り出して武士に向ける。
「あぶない!」
武士の前にリー・ナオトラが飛び出す。
パン!パン!パン!
バン!バン!バン!
ユーベルトートの拳銃が火を吹く。
リーの拳銃から弾丸が発車される。
ユーベルトートとリーは同時に倒れた。
「リー!」
武士は叫んで、リーに駆け寄る。
リーは口から血を流して倒れている。武士が抱き起こすと、まだかすかかい意識があった。
「武士様……どうか……リーの生まれた国……アメリカを嫌いにならないで……」
リーの目から涙がながれる。
「わかったぞ、わかった、よくぞ命を張って僕を守ってくれた。この恩義は忘れない!」
リーはそのまま動かなくなった。
「リー!」
武士は絶叫した。そのあと、ユーベルトートの処に走りよる。
「なんでお前はいつもそうなんだよ!お前はエリートで、僕はいつもお前と比べられてきた。エリートの親はお前ばっかり可愛がって、勉強のできない俺は、田園調布の家から追い出されて、江東区で畳屋やってるおじいちゃんのところに預けられた。それでも、ボクはお前をかばっていたのに!お前はボクの事を憎んでばかりでっ!」
激昂した武士はユーベルトートのヘルメットを足で蹴りあげる。
ガラン
音がして仮面が取れる。そこで死んでいたのは女だった。
「だれだこれ……」
武士が呆然とする。
配下の伊賀衆が駆け寄ってくる。
「これは真田配下の壷谷マタコという女忍者です!」
「おのれぃ、さなだああああああああー!」
武士は怒りのあまり絶叫した。
大きな代償を払った戦いであった




