忠義の臣
大阪に残った鳥居忠江を茶々丸の軍が襲撃した。
松平武士の軍勢が小田原にさしかかった頃、関西から急報が入った。
大阪南港の国際展示場で同人誌即売会を開催していたオタクを茶々丸配下の部隊が襲撃し、一般を保護して非難誘導していた鳥居忠江が殺害されたとの報が入った。
武士は愕然とした。
「どういうことだ、毛麗に手を回して毛小龍が守ってくれると言っていたじゃないか!」
武士は本多正子に食ってかかった。
「鳥居忠江は最初から死ぬつもりでした。日本は専守防衛の国。相手が攻撃してこちら側の首脳を一人でも殺さないかぎり、こちらとしても報復攻撃はできません。鳥居忠江は我々に茶々丸勢を攻撃する口実を与えてくれたのです」
「お前か!お前が鳥居をそそのかして死なせたのか!」
武士は激昂して本多正子の胸倉を掴む。
「私が憎ければ殺しなさい!武士様が天下を取るならば私は殺されも本望だ!」
武士はハッとして本多正子の服から手をはなす。
「違うんだ……ボクは、みんなの幸せのために戦っているんだ。みんなが死んだら意味がないんだ。僕の天下なんてどうでもいいんだ……」
「その皆があなたの天下を望んでいるのです!」
「ああ……忠江……ごめん、ボクがもっと察していれば……」
武士はその場に崩れ落ちる。
「遅かれ早かれ茶々丸は武士様を殺しにかかったでしょう。あなたは、こちらが攻めなければ攻めてこないと思っている。それが間違いだ。茶々丸はいずれ、必ず攻めてくる。こちらの隙をうかがって。むしろ、相手に敵対心がないのを見せるために、こちらが防備を手薄にすれば、それはかえって相手に戦争を起こさせる機会を与えることになる。結局は我々は茶々丸と戦うしかないのです」
そこに伝令が駆け込んでくる。
「大変です。真田の軍勢が謀反を起こし、新宿都庁を奪い取りました!」
武士は愕然として目を見張る。
「それは姉か妹か!?」
「はい、妹の真田繁子かと」
「して姉は?」
「はい、本多勝の組下として連隊を率いております」
「謀反の恐れあり。姉も殺せ」
「それはなりません!無罪の者を殺せば天下に不審をまねきます。不信不義こそ国の滅びのはじまり。政治家は嘘をついてはならず、不正義を行ってはなりません。それを行う者が上に立てば国は滅びます!」
本多正子は激しく武士を叱責する。
「だまれ!」
武士は正子を怒鳴りつける。そして携帯電話を出して、怒りに震える手で電話をかける。
「ああ、本多勝か、真田の妹が謀反を起こして新宿都庁を占領した。姉もグルにちがいない。いますぐ捕まえて殺せ!」
「何?自分の部下になったかぎりは自分が守るだと?お前は誰の部下だ!殺せ!これは命令だ!は?何?どうしても真田信子を殺せというなら、お前は師団を率いて松平軍と戦うだと!?それでなくても兵力が少ないときに何を言っているんだ!お前もあいつらとグルか!?何?真田信子の命を助けてくれるのであれば、死力を尽くして反乱軍と戦うだと?!ええい、分かった!今すぐ山口ヒルダを総大将として、真田繁子の反乱軍を殲滅せよ!投降は許すな!皆殺しいしろ!いいな!」
武士は電話をきった。
「おのれい!クソが!」
武士は携帯電話を持った手を振り上げ、携帯電話を地面にたたきつけて壊そうとしたが、思いとどまった。携帯電話を破壊したからといって状況がかわるわけではない。
「今すぐ、我が軍と行動を共にしてここまで来た軍閥の長をあつめろ」
武士は正子に命令した。
「はっ」
正子は短く返事をして、伝令を使い、野営する武士の陣に軍閥の長たちをあつめた。そして、その場で松平武士は、茶々丸が同人誌即売会を襲撃して、鳥居忠江を殺害したことをつげた。そして、同人誌即売会に敵意をもっている者、不潔な同人誌即売会を襲撃して潰した茶々丸は偉いと思っている者は、いますぐ松平陣営をはなれて茶々丸陣営についてもかまわないと告げた。
木下良太の軍は元々秋葉原のオタク連合を母体としている。同人誌即売が襲撃されてた事を聞いて、元木下良太の部下が一番激怒していきりたった。中でも福島則子は激昂し、茶々丸軍を殲滅すると宣言した。これに圧されるかたちで、他の木下の元部下たちも次々と討伐軍への参加を表明した。
武士はこれら外様の元木下配下の軍閥たちを率いて関西に引き返した。
東京を守る山口ヒルダに対しては、至急真田の反乱軍を潰し、宮崎軍は無視して全軍武士の本隊に合流するよう命令を出した。
真田繁子の謀反に激怒しながらも、決して理性は失わない武士であった。




