オキュパイドウォールストリート
1%VS99%
東京に帰ってきた武士は池袋の管理局の椅子に深々と腰を下ろした。
「ふーっ、これからどうしたものか」
「どうなされました」
怪訝な表情で本多正子が尋ねる。
「日本の国に巨大な勢力が現れ、国をまとめようとするとアメリカが介入して潰す。地域に突出した勢力が不在となるので、小競り合いが始まり、紛争が起こる。誰からがそれを収束させようとして巨大な勢力を作ると、またアメリカが潰しに来ていつまでたっても戦争が終らない。アメリカは意図的に戦争を長期化させようとしているとしか思えない。どうすれば、この地獄から抜け出せるのか、まったく検討もつかない」
「私によい考えがあります」
「お前は、祭童に民事訴訟を進めたが、アメリカは日本に内戦を起こさせ、強引に潰した。合法に動いてもこのような事をされる。もし、他の国なら絶対に許されない行為でも、アメリカがやればゆるされる。誰も非難できない。これではどうしようもない」
「そうでもありません。アメリカは民主主義国家です」
「しかし、民衆はマスコミに洗脳され、奴隷化され、1%の金持ちに富の大半を収奪されているんだろ?どうしようもないよ」
「その民衆の目を覚まさせてやればいいのです」
「どうやって?」
「よいですか、アメリカにはスーパーPACという献金機構があって、そこに金持ちは無制限に献金が出来る。そして、金持ちに有利な政治をする政治家だけに金が渡る仕組みになっています。金持ちの不利益になる政策を取る政治家はマスメディアが徹底的に攻撃して潰します」
「それじゃ、どうしようもないじゃないか。日本だって政治家はマスメディアを恐れて、日本の国民の利益になる政治をしない。日本でもマスコミは一握りの富裕層。東京に住むエリートだけが利益がえられるよう、1票の格差是正という無茶苦茶な論法を持ってきて、東京に住むことができない貧民、障碍者、老人、など社会的弱者を地方に追いやり、
大金持ちとテレビ局や出版社に就職できる一握りのエリートだけが利益を得られるよう不均衡な選挙制度を素晴らしいと宣伝し続けた。そして、都会の人口の多い場所だけに大量の政治家が配分され、地方の社会的弱者は無茶苦茶に踏みにじられ、地獄のような奴隷労働を強いられている。その地獄がこの内戦の原因になった。日本だって社会的弱者を踏みにじり、東京に住む、一握りのエリートと金持ちだけが利益を得られる腐敗しきった搾取の構造はかわっていない。裁判官も、徹底的に一票の格差の是正という圧力をかけ続けた。自分たちは東京に住むスーパーエリートだから、地方切捨て、社会的弱者の抹殺が進行すればするほど、自分たちも甘い汁が吸えるからだ。こんな腐った状況で、どうしろというんだ」
「実は、アメリカは日本ほど腐っていません。日本人が道徳心を失い、私利私欲しか考えなくなって戦争をはじめたのとは反対に、アメリカでは学生たちがオキュパイドウォールストリートなどの学生運動をはじめ、政治を変革しようとしている。私利私欲のためにスーパーPACから金をもらっている腐敗政治家を追放し、スーパーPACから金をもらっていない政治家を大統領にしようと活動しているのです。この活動を支援して、腐りきった利権まみれの政治家をアメリカから追放すれば、今のように世界中で金持ちのために戦争を起こして貧しい人々を殺戮する政治に終止符が打たれる」
「ちょっとまで、なぜその事を祭童様に言わなかった。お前、もしかして、弁護士による合法的訴訟をやっても失敗するとわかっていて、それを祭童様に言わなかったのか?」
「私はあなたの家臣であって、祭童の家臣ではありません」
「祭童様を裏切ったのか!」
「泥棒の犬は泥棒に尻尾を振り、聖人には吠え掛かります。私は泥棒の犬です!」
「ボクが泥棒だと言うのか!」
「武士様には天下泥棒になっていただきます。私の主人となったからには覚悟を決めていただきます」
「そのような汚いことをかさねて、天下をとっても恨みを買ってまた潰されるだけだ!」
「その恨み、この本多正子がすべて買いましょう!」
「何でそこまでこのボクに入れ込むんだ!駄作の小説しかかけず、前の世界じゃ誰からも相手にされなかったこの無能なボクに!」
「あなたは!私の才能をいかしてくれました!人は、自分の才能を生かしてくれる人のためには命すら捨てるのです!あなたに、才能がありながら世間から意地悪をされ、排除され、むなしく才能を潰して死んでいく人間のむなしさはわかりますまい!」
「そんな私利私欲のために、祭童様を裏切ったのか!」
「私を殺したければ殺せ!武士様が天下を取って殺されるなら本望だ!」
「うううう……」
武士は拳を握り締めた。
「ゆるせない、お前は許せない。しかし、今はボクが日本を統一し、祭童様を取り戻すしか、祭童様を救う手立てはない。今はお前しか頼るものがない。どうすればいい」
武士がそういうと本多正子は目を見張り、顔に気色が浮かんだ。
「はい!今、アメリカは大統領戦のまっただなかです。多くの候補者は1%の大金持ちから金をもらって
1%の大金持ちの私利私欲のために戦争を推し進めている政治家たちです。しかし、たった二人、スーパーPACから金をもらっていない政治家がいます。貧しい者、社会的弱者を救おうと立ち上がった政治家、ラビット・エレキです。もう一人は大金持ちの不動産王、ミッキー・ポーカーです。ミッキー・ポーカーは排外主義者で横柄ですが、現在アメリカを支配している政治家たちが、近隣諸国に威しをかけて関税自主権を放棄させようとしているのに対して、このふたりは反対しています。他国と関税障壁を無くせば、発展途上局から膨大な安い製品が入ってきて、国内の生産者は疲弊し、デフレが促進するからです。国民の利益を考えれば、絶対にアメリカは関税撤廃などやってはならない。
しかし、デフレが促進すればするほど、1%の大金持ちは保有資産の価値があがるので、大部分の国民が不利益をこうむるデフレ促進策を今までアメリカの政治家はやってきました。日本でも大企業の減税を行い、同一労働同一賃金の美名の下、正規労働者の賃金を非正規雇用と同列まで引きさげて、デフレを促進する策だけをやりつづけた駄目新蔵も、デフレが促進したら日本の国内企業や大部分の労働者は地獄に叩き落されるにも関わらず、1%の富裕層だけが資産価値があがって利益が出るので、わざと、デフレが促進する政策を取り続けたのです。大本命はラビット・エレキであり、この人物が大統領になるよう、アメリカの学生運動や市民運動を武士様は全力で応援すべきですが、不測の事態にそなえて、ミッキー・ポーカーも支援しておくべきです。この二人のうち、どちらかを大統領にしないかぎり、アメリカの覇権戦争主義は終わりません」
「ちょっとまで、テレビや新聞では、ラビット・エレキは大学の授業料を無料化するというような無責任な政策をいっているので、私利私欲で頭の悪いアメリカの学生が目先の利益のためにラビット・エレキを支援していると報道していたぞ。ミッキー・ポーカーもレイシストで頭がおかしい人間のクズだと報道していた。そんな人間を支援して大丈夫なのか?」
「それは、アメリカのマスコミが大金持ちから金をもらい、社会的弱者を保護しようとする政治家を片っ端からネガティブキャンペーンでつぶしてきたからです。日本のマスコミもそれを踏襲しているにすぎません。マスコミが非難する政治家こそ支援すべき政治家です」
「では、当面は何をすべきか」
「さあしあたって、ロビー活動資金として10億いただきたい」
「10億か、今の財政状況では厳しい金額だな、何も生まない広報活動に10億か……」
「駄目新蔵は外国に土下剤した上に10億外国に献上しました。それを思えば、工作資金10億は安いものです」
「……うーん、なんとかしよう」
「ありがたき幸せ!」
本多正子は深々と頭をさげた。
武士は一歩前に踏み出す。




