家族のだんらん
戦いを控え、親睦をはかるユーベルトート
「ページワン」
宣言してユーベルトートは静かにトランプのカードを一枚と知事室の床に置いた。
「大変です!」
伝令が部屋にはしりこんでくる。
「ちょっと待ってください。」
ユーベルトートは最後に残った自分のカードを裏向きに床に置き、伝令のほうに向かう。伝令に何か指示して小声で会話した。伝令が小声で何か耳打ちする。
「わかりました」
ユーベルトートは都知事室にもどる。
「みなさん、方月祭童の軍隊が中野に進行中との事です。みなさん全員、中野に向かってください」
「それでは、新宿の防衛が手薄になります。私は新宿に残りましょう」
霧隠サイコが言った。
「ならば私も」
猿飛サスケも言った。
「私も残りましょう」
壷谷マタコも言った。
「祭童軍を舐めてはいけませんよ、あなた方全員でかかってやっと防衛できるほど手ごわい相手です。決して油断してはなりません。いいですか、私が教えたとおりにやるのです。あなた方十人そろえば、必ず祭童軍に勝てます。絶対に離れて行動してはなりません。戦力集中の原則です。多数で少数を各個撃破する。分裂しなければ、あなた方は必ず勝つのです。圧してた通りにするのですよ」
「はい!」
ユーベルトートの弟子たちは元気よく答えた。
「では、このトランプはやり直しということで」
真田信子がトランプをしまおうとす。
「待ちなさい、このままここに置いておきまそう。次に集まったとき、みんなで続きからやりましょう」
「そうですね」
信子は微笑んだ。
十人衆は部屋を出て行く。その中で真田繁子が振り返る。
「あの……私が虫垂炎で倒れたとき、助けてくださってありがとうございます。私、何もお礼ができなくて、何かお礼をと思っていたのですけど……」
「今は緊急時です、帰ってから聞きますよ」
「そうですよね、すいません!」
繁子は頭をさげて出て行った。
「事は急を要します。都庁の格納庫にあるヘリコプターを全て使って中野まで急行してください」
「ちょっとまってください」
ユーベルトートの言葉を聞いて真田信子が引き返してくる。
「ヘリコプターを全て使うということは、ここにいる部隊全員を中野まで運ぶということ。しかも、新宿に帰ってくる燃料はもうありません。半分だけでいいのではありませんか?」
「戦力集中の法則!私が教えた兵法を忘れるな!」
珍しくユーベルトートが厳しく叱った。
「は、はい!すいませんでした」
真田信子は慌ててその場を走り去った。
伝令が去り行く若者たちの後姿を見送る。ユーベルトートは都庁室の奥にあるしぼんだバランスボールの目をやった。
「阿保神閣下は、朝比奈様のバランスボールをパンクさせたあと、ひどく後悔されて、ずっとこの都庁室にあのバランスボールを置いていらした。やさしい方だった」
「そうですね」
伝令が言った。
「君も長いね、私が最初に部隊を編成したときからだから」
「な、なんと、私のような名もなき伝令の顔を覚えていただいていたとは」
「よく今まで働いてくれたね、今回も新宿に祭童軍が向かっていることを、よくぞ私だけに伝えてくれた。長らく私に付き添ってくれていたからこそ、できる配慮だ」
「恐れ入ります」
「では、君も行きなさい」
「はい、お先に失礼いたします」
伝令はにっこりわらって、ナイフで自分の首を切り裂いた。鮮血が飛び散り、伝令はその場に倒れた。ユーベルトートは伝令にゆっくりと歩み寄り、頭をなでた。
「ピストルを使って自殺すれば十人衆が異変に気づき引き返してくる。最後まで配慮ができる立派な部下をもって、私は幸せだよ。さて、私も行くか」
ユーベルトートは都庁室を出た。
たった一人で祭童軍を迎え撃つユーベルトート




