で、あるか
食事が終わり外に出ると、そこには木下良太がいた
「では、その孫子や老子を戦略的に取り入れるためにはどうしたらいいのですか」
武士は身を乗り出して聞いた。
「お前みたいに、人の事う右翼だなんだといわぬことだな」
「は?平和を愛する諸国民なら右翼が嫌いなのは当たり前でしょ?」
「だからそれが馬鹿だといっている」
「失礼ながら馬鹿はあなただ。戦争して何になるっていうんですか。無駄に血が流れて……」
「違う!」
厳しい声で祭童が言ったので武士は少し飛び上がった。
「お前が言っていることはネガティブフィードバックだ」
「何だか分からないですが、平和を愛することが悪い事だと言うんですか?」
「そうじゃない、そうやって人間を右翼とか左翼とかに分類するような人間の行動を
アメリカの戦略家、ジョン・ボイドはネガティブフィードバックと言っている」
「そんな話聞いたことがありません」
「なら聞け。ジョン・ボイドは朝鮮戦争で戦闘機乗りだった。そこでの戦闘では、何故か加速・上昇・旋回性能で
性能が上回っているソビエト軍、中国軍のMiG-15戦闘機がアメリカ軍のF-86戦闘機と対戦して圧倒的に負ける
確率が高かった。、最終的にキル・レシオ(撃墜・被撃墜の率)はほぼ1対10にもなった。普通ならありえないことだ。そのような状況が何故起こったか調べたところ、MiG-15戦闘機は
F-86戦闘機に比べて視認性が劣っていた。つまりアメリカ軍の戦闘機のほうが視界が広かったから、性能が
劣っているにも関わらず勝ったのだ。これをジョン・ボイドは応用し、よく相手を把握したほうが相手に勝つという
法則性を見つけ出した。これはこちらの視界を広げて、より相手を知ることとともに、相手の視界をさえぎり、
こちらを視認させないことが重要となってくる。
こちらの視界を良好にし、お互いの意思疎通を明確にし、相手の情報を収集しそれが速やかに指導部にフィードバックされる体制をとることをポジティブフィードバック、反対に、敵勢力を混乱させ、思考停止の陥らせることによって、
こちらの正体を認識させる方法がネガティブフィードバックという」
「それと、僕が平和が大切だということに何の関係があるのですか?」
「つまり、敵国に、右翼、左翼というレッテル貼りを持ち込むことにより、敵国の内部で同国人同士がいがみ合い、
ののしりあい、敵視しあって、争い、国内が混乱し、国内の戦いだけで手一杯となって、誰が自分の国を狙っているか、
誰が自分の国を侵略しようとしているか、わからなくさせることが世界的戦略におけるネガティブフィードバックの
常道なのだ。同じ民族、同じ価値観、同じ文化をもった民族を争わせるのは至難の業だ。よって、そこに、
新しい価値観は全て正しいという嘘の情報を流し、まだ考えが柔軟な若者を騙して洗脳し、常識を破壊することが
カッコイイと流布させる。その上で、共通の文化や伝統を破壊し、それら民族を繋ぐコミュニケーションツールを
破壊するとともに、男女、金持ち、貧乏、年寄り、若者、右翼、左翼、地域、田舎、都会、スポーツマン、文科系、
動物愛護、動物嫌い、人権、権利、自由、など様々な新しい価値観を持ち込んで同じ文化、伝統を持った
民族を分断し、争わせ、弱体化させ、国を侵略しやすくする。その活動の中心になっているのが、その
右翼運動、左翼運動だ。こいつらは、自分たちの民族の中に対立する概念を持ち込み、争わせ、
そして弱体化させ、外国が侵略しやすくしようとする。これはジョン・ボイドの理論によれば、すべて、
敵国にカオスを持ち込み、思考停止させ、敵対するこちらの存在に気づかないようにさせるための
謀略工作なのだ」
「いや、ちょっとまってください、それは右翼でしょう」
「違う、同じ国民を敵視し、分断している行為自体がネガティブフィードバックであり、ただ単に敵国に洗脳され、
思考停止しているだけだ」
それを聞いて武士は腕を組んだ。
「意味がわからない」
「いや、分かっている」
「何を言ってるんですか?」
「そうやって理解しようとしているということは、お前は理解できる可能性があるということだ。本当に
洗脳されて思考停止している奴は、お前は右翼だ!お前は左翼だ!と言って相手を嘲笑し、聞く耳をもたない。
そういう人間はすでに脳を犯されており国を破壊するだけの存在なのだ。そうなってしまえば、あとは
切り捨てて見捨てるしかない。分かりにくければ、お前が嫌いな右翼で説明してやろう。右翼は、愛国心がある、
国を愛していると主張している。そして、敵対勢力が外国に祖国を売るような行動をとったら口を極めて非難し、
攻撃する。しかし、自分が支持している保守政権が外国に国を売るような行動をとっても、手を叩いて
喜び、もっとやれ!もっと国を売れと大はしゃぎして応援する。結局、口先で愛国者と言っていても、
実は自分が応援する政党のファンクラブであり、応援する大好きな政治家のやる事なら、どんなに国を滅ぼすような
行為でも大喜びで応援するのだ。それは愛国ではなかろう。ただの売国奴だ。それが右翼の正体だ」
「まさしく、その通りです!」
「ならば、お前も同じことをしているのだぞ」
「いいえ、僕は平和が大切だといっているだけです」
「いや、右翼も、祖国を愛しているだけですと言うぞ、いままで、お前と同じ時代から来た右翼も同じことを言った。
しかし、異世界で中立の立場の私から見れば、二人ともまったく同じ行動をとっている。ただ単に、外国に洗脳されて、祖国を破滅させ、大勢の人を死と災いに追いやる死神の奴隷にすぎない。それだけ洗脳というものは
恐ろしいのだ。だから、そんな右だとか左などという犬の首輪は捨てることだ。そして、自分の頭で考えろ」
「今まで、自分の頭で考えてきたつもりなんですが」
「まだ、何もかもなれぬであろう。そのうち、おいおい分かってくる。いまはただ、私についてこい」
「そうやって、また貴方が僕を洗脳するんでしょ」
武士がそういうと、祭童は一瞬きょとんとした。
そしてけたたましく笑った「ぎゃはははははっ!こやつめっ!」
祭童は武士の頭に腕をかけてヘッドロックした。
「うわっ、やめてくださいよっ!」
祭童の大きな胸が武士の顔に当たって、たゆん、たゆんゆれる。武士の顔は真っ赤になった。
武士と祭童は食事場から出る。
すかさず下僕が履物を差し出す。
「ご主人様、これを」
「あ!」
武士の目が点になった。それは先輩の木下良太だった。
「木下先輩!何をしてるんですか!」
「何を仰せですか、このような下賎のものに対して、恐れ多くも松平様はこの秋葉原を奪還された英雄、
私のような下賎のものにお声かけてくださるなど、もったいのうございます」
そう言って良太は平伏した。完全にこの世界に順応している。
「我がハキモノはどうした」
厳しい声で祭童が言った。
「ははっ、これに」
良太は毛糸のパンツを差し出す。
「なんだこれは」
「そのような格好をされていて、お腹が冷えてはいけませぬ。せめてハキモノだけでもと思いまして」
「うむ、大儀である」
祭童はその毛糸のパンツを受け取る。
「むむっ」
急に祭童の表情が厳しくなる。
「おのれ!貴様、この寒さに耐えかね、我が毛糸のパンツを履いておったな!ものすごく生暖かいぞ!」
「そ、そんな!頭にかぶることはあっても、殿の毛糸のパンツをケツになすりつけるなど、断じてありませぬ」
「では、何故暖かいのじゃ!」
「それは、お殿様が冷たいパンツを履いてはお体にさわると思い、ずっと、鼻の上に押し当て、鼻の息で
毛糸のパンツを温めていたのでございます!」
「で、あるか!ふっ、なかなか心効いた奴よ、そこな草履とり、名はなんと言う」
「ははっ、木下良太ともうしますっ!」
「うむ、そのほう、これより、足軽一隊をまかせる。足軽組頭として奉公するがよいわ」
「ははっ!ありがたきしあわせっ!」
良太は床に額をすりつけて土下座した。
良太の機転に舌を巻く祭童