技術流出
精強武田軍団にひずみが
松平武士と方月祭童が東京秋葉原に到着すると、真っ先にシヴァ・カーツが出迎え、祭童の前にひざまずいて謝罪した。
「是非に及ばず、ここにいる武士とて、私の命令を無視して武田軍に攻めかかり、大敗したのだ。今後、判断に迷うことがあれば私に必ず報告と相談をせよ」
「ははっ」
シヴァ・カーツは恐縮して益々頭を低くした。
祭童の横に居た武士は首をすくめる。
「それにしても、判断は正しかったとはいえ、総司令のシヴァ・カーツの命令を無視して行動した木下良太の行動は許しがたい」
「はい、最近の木下は増長しております。木下に入れ知恵する黒田とかいう子供に振り回され、我らを軽んずること多々です」
悔しげにシヴァ・カーツが言った。
「そうか、ならば、木下にはしばらく兵庫県で謹慎蟄居するよう命じるとしよう」
そこに明智光子が走りこんでくる。
「何ということですか!」
「どうしたのだ」
方月祭童が眉をひそめる。
「中野にある武田配下の企業、エッジを買収するために台湾から来日したフォンパイの社長が乗った飛行機が羽田空港に着陸するのを許したほうではありませんか!」
「そうだが、それがどうかしたか」
「フォンパイは中国本土とつながりの深い企業。エッジを買収しても技術を外国に拡散しないと約束していますが、実際には中国本土に技術を流出させることは確実。武田のオタソードを無力化させる偏光レンズの技術はエッジが持っています。これが中国に流出すれば、日本の軍事的優位性は失われます」
「それは残念な事だが、武田は新自由主義政策をとり、日本の技術を次々に海外に流出させている。羽田への発着を許可しなくても、他の空港を利用して日本に来ることになるだろう。それより、オタソードを無効化する偏光メガネが開発されれば、我が軍も欲しい。もし、フォンパイで製造されたなら、我が軍もすぐさま購入するとフォンパイにはつたえてある」
「それは売国ではないですか!」
「我が軍が支配している地域の技術は、一つたりとも海外に流出させてはいない。武田が新自由主義政策をとり、自国を無茶苦茶に破壊していることは我らは止めようがない」
「そもそも、武田が新自由主義をとるようそそのかしたのは、あなたが差し向けた密偵でしょう!」
「そのような事、軽々しく言うものではない」
「あなたは、日本の国を外国に売り渡すつもりか!」
「そなたは陰と陽が理解できていない。敵に対しては謀略を用い、味方に対しては誠実を貫く。それが出来ていないからこそ、敵である武田に対しても誠実に対処するよう求めているのだ。そのような事をしていては我が軍は滅びる」
「滅びても、日本人としての美しさを貫くべきです!」
「その美しさを貫いた結果、国が負ければ、世界から世界最低の劣等民族とののしられるのだ。過去の歴史を見よ!日本は二度と負けるわけにはいかぬのだ!」
「それは詭弁だ!日本人なら日本の魂を貫くべきだ!」
「そうやって何も考えず、闇雲に万歳突撃して味方を無駄に殺すことは美学でも何でもない。ただの自己陶酔だ」
「あなたには日本の心がない!」
起こって明智光子は去っていった。
「やれやれ、言葉が通じない。そうやって過去に日本が壊滅的打撃を受け、現在このように日本が戦乱の状態になっているのを世界に笑われていることがどうして理解できぬのか」
武士が祭童に近づき、耳元で囁く。
「オタソードを無効化するレンズとは……」
「そなたも察しておろう、池袋でそなたが武田と戦ったとき、そなたのオタソードが無効化された。その技術を武田は持っている。それを流出させなければ武田の優位は今後も変わることはなかった。小さくともきらりと光る国でいられた。だが、諏訪勝也はアメリカの大資本化が流布する価値観、新しい価値観は全て正しい、古いものは全て間違っている。というプロパガンダを最初から信じ込んでいた。若いものが全て正しい。老人はすべて老害、日本は全て悪い、アメリカは全て正しい、日本の伝統文化は全て無価値、アメリカの新しい文化はすべてカッコイイ。そうした洗脳に犯されて日本は無茶苦茶になった。それをまだ洗脳され続けている。私はそこにつけこんだだけだ。私がやらなくとも、北条なり他の勢力がやっていたとだろう。それを明智光子はわからぬのだ」
「そうでしたか……」
武士は腕を組んで考え込んだ。
明智光子が祭童への不審をつのらせる。




