それぞれの思い
国を思う祭童、明智光子、武士のそれぞれの思いに食い違いが生じてくる。
「で、あるか」
報告を聞いた祭童は笑顔でこたえた。祭童は滋賀県の病院のベッドの上に居た。足を狙撃されて怪我をして担ぎ込まれたのだ。足の先が鬱血して紫色になっている。
「これ、大丈夫なんですか」
見舞いに来た武士が心配そうにたずねる。
「大事ない。出血した血が皮膚を通って下に流れているだけだ。筋肉がそげただけ故、しばらくすれば歩ける」
それにしても祭童は豪胆だった。
祭童が大阪の戦いで破れ、祭童自身も狙撃されたとの噂が流れるや、西国の勢力はこぞって大阪鬼神の会に寝返っていった。東兵庫の荒木、西兵庫の別所も次々と大阪鬼神の会に寝返り、西国では唯一、明石の黒ちゃんだけが孤軍祭童方についていた。
「荒木を説得してくるぴょん!」
そういい残して黒ちゃんは有岡城に向かったが、そのまま帰ってこなかった。
このため、祭童は黒ちゃんの人質である櫛橋と長ちゃんを処刑するよう武士に命じた。周囲を敵に包囲されながらも祭童は平然としていた。
「それにしても、このままではまずいのではありますまいか。このままアメリカが鬼神の会に最新兵器を与え続ければ、我々の敗北は決定的となります」
「ははは、このまま手をこまねいている私と思うたか、その件であればヤスケ・クルーグマンに命じて、アメリカの黒人人権団体、プエルトリカンの人権団体、移民保護施設を行っているカトリック教会など中南米の人脈と連絡を取っておる。また、日本の優れた科学技術や私がもっている東洋の兵法の技術を教えるため、黒人と中南米出身者1千名を留学生として日本に招くことにした」
「ちょっと、まってください、アメリカの国内事情に手を突っ込むのですか?それは危険では?」
「我らは今までアメリカを同盟国と考えていたがゆえにて手出しはしなかった。しかし、アメリカは再三にわたって、日本国内を混乱させるための工作をおこなってきた。味方を裏切る者は敵からすら笑われることを知らしめてやる」
「しかし……」
武士は口ごもった。
「そんな事おやめください!」
そこに明知光子が走りこんできた。
「外国人を移民させるなどとんでもない!あなたは!移民に反対と主張していたがために私は岐阜の一族をまともえてあたたに味方しました。それをあなたは裏切るのですか!」
驚いたように祭童は明智光子を見た。
「待て、移民ではない、留学生だ。優秀でありながら学費がないために勉強できない黒人や中南米出身者に教育をほどこし、アメリカで発言権を持たせるのだ。そうすれば、海外で横暴のかぎりを尽くす、アメリカのジャーナリストたちの暴挙も抑えられるであろう」
「ならば、アメリカで教育すればいいこと!日本に移民を入れること、断じてゆるせませんぞ!」
「何を言うか、人は志しをもってみるもの。人種に何の違いがあろうか。何人であっても差別は断じてゆるさん」
「日本は日本人のものです!」
「日本は志しある者の国だ。高き志があるものであれば、人種は問わぬ」
「それは違う!あなたは日本を裏切るのか!」
「なぜ、優れた者を日本に招くことが裏切りになるのか!」
「日本は日本人のものだからだ!」
怒鳴りあいに気づいて、警備の万見千代が警備兵を引き連れて病室になだれ込んでくる。千代は滋賀県で新たに祭童軍の指揮下に入った女性だ。甲賀長門と遠縁の親戚筋らしく、長門に容姿が似ていたため、祭童が非常に気に入り、そばにおくようになったのだ。
「どうなされましたか!」
「千代か、なんでもない」
けだるそうに祭童は言った。
「日本への裏切り、ゆるしませんぞ!」
大声で叫んで明智は部屋を出て行った。
「チッ、なんだあの下品な女は」
吐き捨てるように千代が言った。
「武士、お前はどう思う。人種によって人を分け隔てすべきと思うか?」
「そうは思いません。人種により人を差別することは悪い事だと思います。しかし、明智様は、日本を外国人に乗っ取られてしまうと懸念しておられるのでは」
「日本を悪くするのは外国人とはかぎらぬ。駄目新蔵のような外道もいる。大阪鬼神の会の頭領の橋元大僧正も極悪人だ。外国人であっても、尊い心、清い心をもっている人はいる。かのヤスケのようにな」
「はい、それは私もそう思います」
「ならば、人種ではなく人柄によって人を見分けるべきではないのか」
「それは、そうですが……」
武士は首をひねる。
「どうした、遠慮なく言うてみよ」
「人は育った環境というものがあります。日本の文化を知らぬものは結局は日本に溶け込めぬのではないでしょうか。これは人種ではなく日本の常識を心得ているかどうか、日本教の信者かどうかということではないでしょうか」
「日本教か、それは私も掲げている。天下不武である。これは、武で天下を治めるということではない。武辺道、つまり、天道思想によって生きることだ。お天道様にはじぬ生き様をしているか、人が見ていなくても怠けないか。それができるならば、人種などどうでもよいのだ。それが私の考えだ。それが気に食わぬなら、いつでも謀反を起こすがよい、受けてたとう」
「いえいえ、謀反などと」
武士は苦笑した。
「それでは」
武士は一礼した。
「では、裏切り者の黒田の人質を皆殺しにするようにな」
「はい」
武士はあたまをさげて退出した。
すぐに自分の陣営に帰ると本多正子を呼んだ。武士の真剣な顔を見て正子は深いため息をついた。
「はーっ、今度はどんな厄介ごとですか」
「黒ちゃんの家族をたすけたい」
「ああ、人質を殺せといわれたのですね、殺せばいいではないですか、黒田も今頃殺されています。殺さねば、あなたの命が危ない」
「罪もない女子供をころせるか!」
「くっだらない、いままで戦争でどれだけ罪もない人間を殺してきてるんですか、自己満足はおやめなさい」
「理屈じゃない、殺したくないんだ!」
「はいはい、殺せといっても殺さないでしょ、もし私が勝手に殺したら、激昂して私を切り殺すでしょう。あなたはそういう知恵の回らない感情的なお人だ。池袋の合戦の時にそれはよく分かっている。それでも、私を雇ってくださる酔狂者もあなただけだ。論理的な人であれば、私のような嫌われ者、雇いはしなかったでしょう、つまり、私はあなたの言うことをきくしかないわけです。手ごまが駄駒ばかりならその手の内を回して生き残ることを考えなければ」
「理屈はどうでもいい。助けてくれ」
「わかりました。私が一存でかくまったことにしてください。見つかれば、私が勝手にやったことと言い通してください」
「そんな事はできない。私が責任をとって処刑される」
「そんな事をしたら武黒衆が破滅します。あなたの命はあなた一人のものではないのです。池袋の戦いで多くの者が命をさしだしてあなたを守ったのは、あなた一人のためではなく、一族の命をたもつため。あなたは、すでに、あなただけのものではないのです」
「すまん、愚かな主君で」
武士は深々と頭を下げた。
「あー、はいは、そういう処も含めて好きですよ」
本多正子はそう言うと肩をすくめて含み笑いをした。
「え?今なんと言った?」
「何も言ってませんよ~」
正子はスキップしながらその場を立ち去った。
どうしても人質を助けたい武士は苦悩する。




