戦略的思考のすすめ
武士はずっと祭童が血の気の多い智慧の回らない野蛮人だと思っていた。
しかし、彼女のもっている戦略思想の話を聞き、
もしかして馬鹿なのは自分ではないのかとの疑念を生じる。
秋葉原の神田川を少し渡ったところにある茶色いビルの残骸、ビルの屋上に何故か牛の絵の看板がかかったビルに
武士は呼び出された。
祭童はその最上階の座敷に胡坐をかいて座っていたが、その前に灼熱に焼けた鉄板が置いてあった。
武士は背筋が寒くなった。どうしても戦争の殺し合いに自分を巻き込むため、祭童が武士を拷問するかもしれないと
思ったからだ。
「さて、どうしてくれようかのう」
祭童は薄ら笑いを浮かべた。
「何があろうと僕は戦争には参加しませんよ。そうやって戦争好きは殺して、殺して終り無き殺戮を繰り返すだけなんだ」
「まあ硬くなるな」
祭童は周囲の者に目配せする。
すると、女たちが牛肉や生野菜を運んできた。
「肉でも食って話し合おうではないか」
「……はい」
武士は言われるがまま祭童と焼肉を食べた。
「そなたは木性ゆえ、話せば分かってくれるはずだ」
「だからその木性って何ですか」
「老子における陰陽五行だ」
「それじゃ意味が分かりません」
「では、どうしてこの国がこのように無茶苦茶になったのか話しをしよう。
まず、事の起こりは大阪であった。大阪の治安は乱れ、腐敗が横行し、警察は罪無き者を逮捕し、
司法は不公正な裁判を繰り返した。人々の心は乱れ、誰であれ、この状況をぶち壊してくれる者があれば、
その者にすがりたいと思うようになった。それが悪鬼、鬼神の類であってもな。その時に人々の前に現れたのが、
大阪鬼神の会じゃ。大阪鬼神の会は野田にあったNPO障碍者支援センターや千里親子の絵本博物館など
立場の弱い者たちの施設を経費節減の名目で次々に破壊し、社会的弱者への福祉と給付を全て廃止した。
その上で、その金を大阪市民にばら撒いたのだ。小銭を貰って大阪市民は大喜びし、鬼神の会を崇拝するようになった。
その人気に便乗して政府与党も鬼神の会と連合政府を作り、全国で同じ事をやった。そのうち、鬼神の会は
日本が不景気なのは老人が無駄金を使っているからだ、若者は搾取されていると言い出し、
寝たきり老人の介護費用と年金を全廃し、若者に一人当たり1万円のお買い物券を支給した。
若者は熱狂して鬼神の会を崇拝した。そのうち、鬼神の会は若者の中のニートが働いている若者を搾取している。
日本の国はニートに支配されていると言い出し、ニートを逮捕し、ガス室に送って殺した。
国民はすでに感覚が麻痺しており、それを拍手喝采で迎え入れた。そして、オタクへの大弾圧が始まった。
それでも国民は鬼神の会を褒め称えた。その次に農協、労働組合、が特高警察に捕まって次々と処刑された。
そして、鬼神の会は、それでも日本の景気がよくならないのは、怠け者の日本人が悪いからだと言い出した。
そして、中東から大量の移民を受け入れ、低賃金労働者として奴隷労働させた。
奴隷扱いされた中東の人たちは暴動を起こし、国が荒廃した。鬼神の会は、これは日本人経営者が利権をむさぼって
いるからだと主張し、日本の市場を完全に開放し、欧米の大資本によって次々と日本企業を買収させ、
日本の経営者を追放した。無職になった経営者は当然、全員ガス室送りだ」
「ちょっと待ってください、そんな人権侵害、世界平和を願う欧米の人権派や国連が絶対許すわけないでしょ」
武士の言葉を聞いて、祭童は少しクビをひねった。
「そなた、平成前期の生まれだな」
「あ、前期かどうか知らないですけど平成生まれですよ」
「なら、シリアやパラスチナやイラクで無人機を使った大量殺戮がすでに起こっていたではないか、お前の
大好きな国連や欧米の人権団体がそれに一度でも反対したのか?ヨーロッパでは中東の人々が家畜のような
安い賃金で奴隷として働かされ、耐えかねて暴動を起こして弾圧されていたが、国連や人権派はそれに
反対したのか?否、お前は反対したのか?」
「違います、中東の人たちはテロリストで悪い人たちだから殺してもいいってテレビで偉い人が言ってましたよ」
「今、この日本では戦乱が続き、日本人は奴隷として海外に売り払われ、そのあまりの辛さに暴動を起こして
現地で殺戮され、日本人はテロリスト、日本人難民なんて海に投げ込めといわれているぞ!お前は殺してもいい
テロリストなのか!」
「……」
武士は黙り込んだ。
「どうした」
「あの……あなたたちを右翼だと思っていました」
「ほう」
「戦争をいっぱいして、人を殺すのが楽しいからもっと戦争をしようと訴えている右翼だと思っていました。
近隣諸国の人たちを馬鹿にして日本人は世界で一番優秀だって嘘を信じてる狂った人たちだと思っていました。」
「それは嘘だな」
「そうでしょ、僕も学校で、日本は歴史上、悪い事だけしてきた最低の劣等民族だと教わってきました。
だから世界の平和を愛する諸国民に贖罪のために賠償金を永遠に払い続けなければならないと。それが
世界でもっとも低俗で頭の悪いクズ民族に与え垂れた使命なんだと」
「それも嘘だ」
「は?」
「お前ら平成前期の人間の馬鹿なところは、実際のデータに基づかず、ただの妄想で話しをするところだ」
「そうでしょうよ、どうせ俺たちは頭の悪い黄色人種なんだ。優秀な白人には永遠に勝てないんだ」
「だから、それが嘘だといっている。実際の調査データでは、世界でもっともIQが高いのは香港人、
その次が韓国人、次が日本人だ」
「それはおかしい。何で頭のいい日本人が自分たちより頭の悪い白人に支配されているんですか」
「それは日本人がを学ばなかったからだ」
「戦略論ですか?」
「うむ、所詮は韓国も日本と同様の敗戦国なのだ。欧米列強は勝ちに奢ったりしない。冷静に
日本人や韓国人が世界有数の有能な人種であることをデーターで把握し、日本や韓国が世界の覇権を
握らないような仕組みを作った。日本人はひたすら憲法9条を崇拝し、手を合わせて平和、平和と
喚いていれば世界平和になると教え込まれてそれを妄信し、考えることを放棄した」
「あー、はいはい、右翼が言っている嘘ですね。それは先生から全部嘘だから絶対信じるなと
教わりましたよ、それが韓国でも行われているんですか?そんなわけないでしょ」
「お前、ジョン・ボイドの勝敗論(A Discourse on Winning and Losing)を読んだことないのか?」
「は?」
「戦略は相手に気づかれないよう、毎回同じ方法論をとってはならない。毎回、ケースごとに変えねばならない。
日本人は馬鹿正直で日本語しか読まず、海外で発売された地政学、戦略論の勉強すらろくにしてこなかった。
中国では孫子のみならず、孔子、老子ですら戦争のための戦略理論であるにもかかわらず、日本語訳では
すべて意味の分からない人生訓にすりかえられ、読んでもわけのわからないものになっている。クラウゼビッツ
の日本語訳本も戦略論、地政学をまったく勉強していない程度の低い日本の学者の妄想に内容が
捻じ曲げられ、日本語訳版は読んでもまったくわけのわからない役に立たないものにされている。それに比べて
韓国人はまだ頭がいい。英語を勉強し、ちゃんと戦略論や外交術を学び、常に日本に外交交渉で勝利すつづけてきた」
「なら、どうして韓国は世界を支配してないんですか?それとも今は韓国が世界を支配しているんですか?」
「いいや、日本以上に荒廃し、内乱が発生して無茶苦茶になっている」
「どうして!?そんなに、世界でも二番目に頭がいい国民で、しかも地政学や戦略論の英語ですべて
学ぶほど周到なら、なぜ、そんな事になるんですか、言っていることがおかしいでしょ」
「だから、やり方をかえるといっただろ。アメリカは韓国を統治して早々、韓国人の有能さに気づき、
韓国国内でも無能な連中に大きな権限を与えて財閥を作らせ、その財閥に韓国を支配させた。
それでも財閥一代目は最低限の経営能力があり有能だった。しかし、その子、孫の馬鹿どうもは
無能な上に甘やかされて育ったボンクラどもだった。その財閥の連中の合意で、そいつらが金を出して、
財閥に都合のいい大統領を選んで政治をさせた。それは有能であるわけではない。ただ、財閥に都合がいいだけだ。
お前の時代でも、世界中のテレビや家電、携帯電話の大部分は韓国製品だったろう。日本には入ってこなかっただけで。それだけ世界中の電子機器を支配している韓国人が、なぜ、あれだけ極貧の生活に苦しまなければならないか、
疑問に思ったことはないかい?」
「え、そんな事、考えたこともありませんでした。韓国人って世界有数のお金持ちじゃないんですか?」
「韓国製品が世界を席捲し、世界中の人が韓国製品を使っていたことは間違いのない事実だ。
それでも、お前がいた世界では韓国国民は極貧の生活に苦しみのたうっていた。それは、すべての利益を
財閥が国民からむしりとっていたからだ」
「でも、財閥が浪費すれば国民が潤うでしょ?」
「それが違う。韓国の財閥は、自分たちが有能な韓国人の中でももっとも無能であることを知っており、
政権が転覆しないよう、欧米の大資本家たちにたよった。つまり、財閥の株の大半を欧米の大資本家に売り渡し、
韓国財閥の利益=欧米の大資本化の利益とすることのよって、自分たちの身を守ろうとしたのだ。
日本でもテレビ局の株の20%以上は外国人が保有することは禁止されている。その他、電力や銀行など、
それを支配されたら国が崩壊するような企業は世界中で投資規制がされている。それが世界の常識だ。
それを、韓国の財閥のトップは私利私欲と保身のために、大部分アメリカの投資家に売り渡した。
そして、わずかなおこぼれを頂戴し、細々の生き延びたのだ。結果、アメリカは莫大な利益を得て、
世界の軍事超大国となった。韓国の財閥のトップに少しでも知恵があれば、その地位は韓国のものだったのに」
「アメリカって悪い国なんですね」
「悪い国ではない、それが地政学、戦略論というものだ」
「でも、韓国人もその地政学や戦略論を学んでいるんでしょ?」
「ああ、優秀な韓国人は大勢いる。しかし、彼らが政府に対して愛国心をもって、国の改革を叫ぶと、
財閥が圧力をかけて、大統領に対する名誉毀損罪で告発し、次々と弾圧していいった。デモは弾圧され、大勢の
人が殺された。世界中はその悲劇を報道で伝えたが、洗脳された奴隷の日本でだけは、一切その報道は
ながされていない。そうやって、有能な人たちは徹底的に潰され、韓国国民は極貧にあえぎ、内乱が起こり、
韓国は日本以上の無茶苦茶な状態になったのだ。だが、裏返して考えるなら、日本人や韓国人よりも
IQが低い欧米人が世界を支配しているということは、我々も目覚めれば同じ事ができるということなのだ。
我らはそれを目指しておる。いまだ、欧米の媚を売り、欧米の奴隷でありつづけようとする連中が
都庁軍だ。分かったか」
「……まだ、よく飲み込めていません。でも、それなら欧米の戦略論がそんなに優秀ならば、欧米の戦略論を
学ぶべきです!価値の無い東洋思想なんて捨ててしまって!」
「ははははは」
急に祭童が大声で笑い出したので武士は驚いて少し身を引いた。
最初に言ったろ。具体的な調査ではIQの上位独占は東洋人であると。
その東洋人が何故、自分たちよりIQの低い欧米人に支配されているのか?それは、欧米人は自分たちが東洋人より
IQが低いという事実を冷静に受け止め、そのIQの高い東洋人の戦略思想を徹底的に学んだからだ。
クラウゼビッツも、リデルハートも、ジョン・ボイドもミア・シャイマーも、欧米の戦略論の根幹にあるもの、
それは孫子と老子なんだよ。しかし我々東洋人はその有能さを顧みず、古臭い、役に立たないものだと思い込んで捨ててしまった。そして現在の欧米人の世界支配があるのだ。だから、我々はそのコアにある孫子と老子の戦略思想を学ばなければならないのだ」
祭童はニヤリと笑った。
戦略思想の重要性、武士はまだその大切さを十分には理解できないでいた。