ユーベルトートと真田
真田と出会うユーベルトート
早朝の中野駅前、ユーベルトートが一人で掃除をしている。
「あ、犬の糞だ。いけませんね、飼い主の方がしまつしないといけないのに。でも、事務所のゴミ箱に犬の糞を入れたら曼荼羅会のひと怒るからなあ。かといって、このままトイレに流すと、犬のフンは硬いのでトイレが詰まってしまいます。
フン!」
ユーベルトートは手からオタソードを出してきて犬のフンに当て、犬のフンを焼ききって灰にしてちりとりにいれた。焼いて灰にして粉々にしたらゴミ箱に捨てても大丈夫。犬のフンに含まれるカルシュームが配管に付着する可能性があるので、たとえ焼ききってもトイレにはながさないほうがいいですね。」
ユーベルトートは灰にした犬のフンをビニール袋に入れて事務所に持ち帰り、ゴミ箱に捨てた。
「あの、ユーベルトートさんですよね」
「はい」
ユーベルトートが振り返る。そこには15歳くらいの純心そうな少女が立っていた。
「私を弟子にしてください」
「あなたは誰ですか?」
「私は真田繁子といいます」
「クレーム担当への配属希望なら人事部に言ってください」
「いいえ、あなたから武芸を習いたいのです」
「……やめておきなさい。お母さんが悲しみますよ」
「いいえ、母から聞き及びました。武芸を習うならユーベルトート先生が一番だと」
「今の私は駅前の掃除のボランティアを生きがいにしているただのクレーム担当係りのサラリーマンです。どうか、他をおあたりください」
「おねがいします!」
少女はユーベルトートの前に土下座した。
「あ、犬のフンの灰がちってるのに……」
少女はユーベルトートの言葉も聴かずにひたすら床に頭をこすりつける。
「あーあー、灰の粉がついておでこが真っ白ですよ、どうかお顔をあげてください」
「では、弟子にしてくださいますか!」
「ですから今の私はただの勤め人です。クレーム処理のやり方を習いたいなら、教えてさしあげなくもありませんが」
「はい!何でも一から学ばせてください!」
「そうですか、それより、顔をあげて」
ユーベルトートはポケットからハンカチを出して、繁子の顔を拭いてあげた。
それからというもの、繁子はユーベルトートの付き添いとして、毎日ユーベルトートの元にかよった。
ユーベルトートは毎日早朝から中野駅前の掃除のボランティアを行い、それが終ると事務所の掃除とゴミ捨て、窓拭きと机拭きの雑巾がけをおこなった。繁子は黙ってそれをてつだった。何の見返りもなく、何も習うことなく、ひたすらつきあった。休みの日にはユーベルトートは松平武士の武田義子暗殺に抗議する抗議集会とデモに参加し、繁子もそれにつきそった。そんなある日の午後、デモが終ってトボトボと帰ってゆくユーベルトート。
「号外だよー!ごうがいー!」
少年が叫びながらビラを配る。
「先生、見てきましょうか」
「興味ありません」
ユーベルトートは即答した。それでも、繁子は興味があったのか、少年から号外をもらう。
「えー!」
繁子が大声をあげる。
「どうしたんですか、そんな大声をだして、行儀が悪いですよ……」
「だって、あの有名な同人作家の築山セナが暗殺されたんですよ、年収何億も稼いでた有名人なのに」
ユーベルトートは繁子に走りより、その号外をひったくる。
そこには、松平武士が築山セナを暗殺したと書いてあった。
「うおおおおおおおおー!松平武士めえええええええー!」
ユーベルトートは大声を張り上げて空に吼えた。
「せ、先生、どうしたんですか……」
あまりの事に繁子はわけがわからず、呆然とユーベルトートを見つめるだけだった。
「ああああああああ……セナ様、セナ様まだ何も恩貸しできていないというのに……」
ユーベルトートはその場にうずくまった。
繁子にとって今まで見たことのないユーベルトートの姿だった。常に冷静沈着で、何事にも動じないひと。
他人からどんな罵声をあびせかけらえれても、常に頭をさげ、低姿勢だったユーベルトート。決してひとのしたことに対して怒らない、冷静なひとだった。それが、こんなに取り乱している。
「先生、何があったかわかりませんが、私にお手伝いさせてください」
「松平武士め、松平武士め、松平武士め……」
ユーベルトートはうわごとのようにつぶやいている。
「先生、松平武士を討ちたいのですか、ならば私にも手伝わせてください。弟子として技を伝授していただけるなら、必ず私が単身乗り込んで、松平武士を討ってみせましょう!」
それまで体をワナワナと震わせていたユーベルトートの振るえがとまる。ヘルメットごしにユーベルトートは繁子を見る。
「力になってくれるのかい」
「はい、先生」
「……申し訳ない、とんでもないことに巻き込んでしまう。でも、いまの私は誰の助けを借りても松平武士を討ちたい気持で心の全てが支配されているのだ。すまない、繁子君すまない」
「何を謝られることがあるものですか、ユーベルトート先生のお役に立てるのなら、私にとって、これほど嬉しいことはありません」
「繁子君……」
ユーベルトートは繁子の手をぎゅっと握った。
ともに打倒松平健詞を誓う二人だった。




