国内騒然
浅井軍は圧倒的物量の祭童軍の前に押しつぶされるのであった
腹心の甲賀長門を討たれた方月祭童の怒りは凄まじかった。
すぐさま横浜の北条と交渉し援軍を得て湯河原、熱海を攻めた。
伊豆、伊東は北条に譲渡する事前の約束どおり、熱海が陥落すると北条軍は全力で伊豆、伊東の攻略にかかり、祭童軍は三島、沼津、富士へと侵攻していった。
静岡県東部が次々と祭童の手で攻略されていくのをみて、愛知、岐阜の諸勢力も浜松へと侵攻した。
二正面攻撃を受けた浅井長子は大阪鬼神の会に救援を求めたが、大阪鬼神の会からの連絡はなかった。
窮地に陥った浅井長子は静岡県静岡市駿河区にあるスルメ屋本社ビルに篭城した。真っ白く長方形の堅城であった。
迷惑をこうむったのは隣の製茶工場である。興奮した武黒衆が工場に乱入し茶を撒き散らしたり頭からかぶったりした。
夏目吉子はそれを見て興奮し、製茶工場の隣にあったカレー屋のカレーナベを頭からかぶって、全身大火傷をして病院にはこばれた。
「なにをやっているんだ、お前ら!」
武士は怒鳴ったが武黒衆は興奮しだすと止まらない。
そのスキに明智の軍勢と木下の軍勢がスルメ屋の本社へなだれ込んだ。
明智の軍勢は容赦なく、捕まえた社員を尽く皆殺しにしていた。
木下良太は敵を捕まえ、同人誌やフィギアなどの値段査定ができる社員は逃がしてやっていた。
武士も、それを見てみぬふりをした。
秋葉原衆に関しては、同じオタク同士、スルメ屋の社員に優しいかと思いきや、
発送担当の社員をつかまえて「発送がおそいなだよ!」と言って首をはねたり、クレーム担当の社員をつかまえて、
「同人誌の端が折れてるから代わり送ってくれってメール無視しやがったな!」などと言って首をはねていた。
近親憎悪というものだろうか。
武士は身震いした。
祭童も、甲賀長門を殺されたことを相当怒っており、自らも攻めかかってくる浅井軍の兵士を何人か切り倒していた。
追い詰められた浅井長子はスルメ屋の社長室で割腹して果てた。
約束どおり、スルメ屋は木下良太に与えられ、清水などの港は明智に与えられた。
そうして浅井氏は滅びたが、その直後から悪い噂がネット上にあがった。いわく、方月祭童が浅井長子の首をはね、その頭の肉をそぎ落とし、ドクロにして、そのドクロで酒を飲んでいるというのだ。
そのような事実はまったく無く悪質なデマであった。
合戦が終って池袋に帰ってくると、そこでは反松平武士のデモがあちこちで勃発していた。そのリーダーになっているのは、築山セナであった。
松平武士は武田義子を毒殺し、対浅井戦でも女子供を虐殺し、悪逆非道の限りをつくしたのだと言いふらしている。
そのような事実はまったくなかった。
武士は慌てて築山セナを呼びだし、そのような事実はないと訴えたが、かえって「被害者を疑うなんて卑劣だ!」「
被害者が言っているんだから本当にちがいない」と言って耳をかさない。
そうして、次第に池袋の治安も悪化していった。
デモ騒動が起こったため、池袋の同人誌販売店へ買い物にくる女子の数も激減した。
そんな事が起こり続けている中、秋葉原から佐脇嬢が池袋に亡命してきた。話しを聞いてみると、秋葉原の管理官、赤川景子を仲間の長谷川橋子とともに切り殺して池袋に逃げてきたのだという。
佐脇の話しによると佐脇の兄の前田が失脚したのは赤川の陰謀であり、新しく旅団長となった前田犬も追い落とそうと赤川景子が画策しているとの噂が巷に蔓延しているという。その噂の元をしらべたのかと聞くとそれは確認していないという。
「バカ!それは謀略にかかったんだ!」
武士は佐脇を叱責した。
佐脇と一緒に来た長谷川という女は背が高くロングエアーで長方形の目がねをかけている。無表情で抑揚がないが、
山口ヒルダやカトリーヌとは仲がいいらしくヒルダが半泣きになって長谷川の手をとってブンブン握手していた。
長谷川とは面識がなかったが、そこまでカトリーヌやヒルダと仲がいいなら保護するしかないだろう。
佐脇の話しを聞くと、これまでも屈辱的な事は何どもあったし、周囲の人間が信じられず、疑心暗鬼になったこともあったらしい。しかし、そのたび、甲賀長門がたしなめ、不安な事があると、相談にのってくれたため、今回のような刃傷沙汰になることはなかったという。
武士は改めて、甲賀長門の偉大さを思い知るのだった。
そんな時である。
方月祭童の使者が池袋管理局に早馬でやってきた。
使者はかなり敵対的な表情をしており、「松平武士殿、ご謀反の嫌疑について」
と大声で口上を告げた。恐らく、佐脇と長谷川のことであろうと思われた。もしかすると赤川景子の殺害が武士の命令によるものであると勘違いされたのかもしれない。
使者を管理局室に通して話しを聞く。
「遠路はるばるご苦労様です。お話は赤川景子氏殺害の件についてでしょう」
「さにあらず!」
使者は大声で怒鳴った。
武士は少し首をかしげる。
「ではどのようなご用件でしょう」
「松平武士殿、武田方に内通し、方月の物資を横流ししている件についてでございまする」
「そのような事、しておりません」
「証拠はある」
使者は管理局室の机の上に資料を投げ捨てた。
武士がそれをみると、たしかに武田の物資流通の資料だった。その資料を見て、武士は青ざめた。築山セナの同人誌が物資の中にある。築山セナは武士が警告したにも関わらず、武士への反発から、ナイショで武田と取引をしていたのだ。
「こ、これはボクの知らないことです」
「ならば、密貿易の本人を即刻死罪にしてください、もし、それをしないのであれば、あなたにも武田への内通の意志があると見なす。返答やいかに!」
「……」
武士は言葉につまった。
「やはり、あなたも同罪であったか」
使者が帰ろうとする。
「お待ちください!」
鳥居元子がその前に走り出した。
「お待ちください、私は池袋で開催される同人誌即売会の主催者であり、取引責任者です。武士様は同人誌の取引はすべて私に一任し、ご自分は関わっておられないのです。ですから、返答できないのです」
「ほほう、なら、あなたなら、この密貿易の犯人を見つけ出し断罪できるのですな」
「はい、必ず見つけ出し、私が断罪します。それができないときは私の首を取ってください」
「分かりました。なら3日猶予を与えましょう。それでも犯人が断罪されぬときは謀反と見なしますからな」
そう言って使者は帰っていった。
忍び寄る武田の策謀




