ぜひもなし
横浜、静岡が支配下にはいると、愛知、岐阜も臣下の礼をとってきた。
一気に広がる祭童の支配権
横浜の北条、静岡の浅井と同盟を組んだ祭童軍は愛知県に進軍した。愛知県では独立勢力が乱立しており、こぞって祭童軍を歓迎し、その傘下に入った。愛知県が祭童軍の傘下に入ると、岐阜県もその傘下に入る。一気に祭童軍の版図がひろがった。滋賀県も祭童軍の傘下に入る折衝をしていたとき、祭童軍に浅井軍から使者が来た。
浅井軍が運営するスルメ屋にとって大阪本癌寺が運営する鬼神の会配下の日本橋勢力は秋葉原に匹敵する中古オタグッズの仕入先である。よって、大阪鬼神の会と戦端を開かないで欲しいという要望であった。しかし、市場開放を信奉し、関西州を作ったさいには、伊丹空港を潰してそこを外国の租界とし、外国人無税居住区を作ると宣言している鬼神の会と妥協することはできない相談だ。祭童は丁重に断りの返信をしたため、使者に渡した。
そのあと、岐阜を取り仕切っている明智光子と笑談した。光子は非常に英知優れた少女であり、まだ14歳であるが、新自由主義、市場開放の間違いをといて、全国を回っていた。そのため、何ども危ない目に会いながら全国を放浪していた。
祭童は、光子が自分と同じ考え方をしている事に感動し、彼女に岐阜県の軍勢の統率を任せるほどの信任振りをみせた。
祭童は岐阜で滋賀県の代表と面会することにしていた。滋賀県の代表が到着し、金華山の麓で鮎の塩焼きなどらべながら歓談をかわした。途中会見場に迷い込んだ台湾リスの話題などもまじえながら、会談は和やかに進行した。
その時である。
会見場に使者が走りこんできた。
「何事だ!大事な席だぞ!」
祭童が不快そうにたしなめる。
「静岡の浅井長子殿、ご謀反!岐阜に向けて進軍しております」
「……」
祭童は一瞬眉をひそめた。
「……ぜひもない。撤退する!」
「私がシンガリをつとめましょう!」
明智光子が申し出た。
「お前はまだ軍の指揮をとって間がない。だめだ」
祭童が却下する。
「おそれながら!」
そこに進み出たのは木下良太だった。
「おお、良太か、十中八九死ぬ役目だぞ、分かっているのか?」
「はい、ただし、もし、生きてかえることがあったなら、褒美を賜りたい」
「なんなりと言うてみよ」
「浅井討伐ののち、浅井のもちたるスルメ屋がいただきたい」
「ははは、よかろう。まかせたぞ、良太!」
「ははっ!」
「者ども撤退だ!我に続け!」
言うが早いか祭童はその場を立ち去ろうとするが、その前に甲賀長門が立ちはだかる。
「お待ちください!」
「なんだ!」
「もはやこれまで。私はこれにて殿とお別れしとうございます」
「うむ、危急の時なればかまわぬ。ご苦労であった」
「では、今まで働いた給金がいただきたい」
「今渡すものはない。後ほど支払おう」
「いいえ、今、祭童様が身にまとっておられる鎧を頂戴したい」
祭童は眉をひそめる。
「ならぬ!」
「ならばここで自害します」
「このばか者めが!」
「はい、あなたの家臣ですから」
甲賀は目を細めてにこやかに笑った。
「分かった。」
祭童はその場で何の躊躇もなく鎧を脱ぎ捨て、素っ裸になった。そして、下級武士の具足を身につけ、馬に乗った。
「いずれ、あの世で会おう!」
祭童は甲賀に向けて手をあげた。甲賀は深々と頭をさげた。
武士は、その場でそのめまぐるしい光景をただ呆然と見ているだけだった。
甲賀はその場で服をぬぎすてる。
「武士さん」
甲賀は武士を呼び止める。
「え、あ、はい」
武士は驚いて直立不動になる。素っ裸の姿で甲賀はツカツカと武士のところまであゆみより、その手をとって、自分の胸にあてた。
「な、なにを」
「私は男を知らぬ身、せめて、死ぬ前に、ただ一人、乙女の柔肌を見せたあなたにふれてほしかったのです」
甲賀は少しだけ頬をあからめ微小を浮かべて一礼した。そして武士に背を向け、祭童の鎧を着込んだ。
「さようなら!」
今までに見たことのないような爽やかな屈託のない笑顔を浮かべ、甲賀は去っていった。
「我々もさっさと逃げましょう!」
カトリーヌが武士の前に進み出る。
「逃げるでありますのんた!」
ヒルダが叫ぶ。
「ここで逃げては武士のなおれ!死んで一花咲かせましょうぞ!」
大声で夏目が叫ぶ。
「バカはほっときましょう」
カトリーヌが言った。
「お待ちください、このまま良太さんを見殺しにするのですか!一緒に戦って引きましょう!」
武士の前に進み出たのは明智光子だった。
「君は早くにげなさい!」
「いやです!私だけでも良太さんと一緒に戦います!」
14歳の少女がそう言っているのだ。見捨ててにげるわけにはいかない。
「よし、わかった!一緒に戦おう!」
武士は大声で叫んだ。
「バカですかあなたは!」
カトリーヌが大声で怒鳴る。
「バカだ!」
武士は怒鳴り返した。
「まったく!」
怒った表情でカトリーヌはそっぽをむく。しかし、そのあとすぐ、表情を崩して苦笑した。
「良太さん、助太刀に来ました!」
武士と光子は良太の軍に合流した。
「おお武士君か、一緒に来てもスルメ屋は俺一人のもんだぞ!」
「ははは、いりませんよ」
武士は笑った。
良太の指揮のもと、シンガリ軍は甲賀長門の軍の後ろを追随する形で撤退していった。
祭童軍、甲賀軍は一端、長野県に入ったが、秋葉山に阻まれて直進できない。浜松市に進入するルートを取るしかなかった。
祭童軍本隊はその後、長野県を実質的に支配している宮崎軍に使者を送り通行の許可をとって秋葉神社参拝ルートを通って、秋葉神社に参拝し、北上ルートをとった。甲賀軍は天龍二俣から南進するルートをとった。
浜松市を抜け、掛川市上西郷に進入したところで敵軍と遭遇した。
「あとは任せたぞ!」
甲賀はそう良太に言い残して先に進む。
武士たちは戦闘態勢をとって、甲賀が逃げ切るまでその場にとどまる。そのときである。
ひがしの方から怒号が聞こえた。武士たちに襲い掛かったのはオトリであったのだ。本隊は伏せ勢として甲賀軍を待ち伏せしていた。
「まずい!祭童様を守れ!」
大声で良太が叫ぶ。
武士たちは甲賀を救うために甲賀軍に向かうしかし、甲賀軍と武士たちの間に浅井軍が入り込み、甲賀軍と合流できない。
「おのれ!方月祭童をなめるな!」
大声で叫びながら甲賀が日本刀で敵をきりふせる。
その時である。
キュイン!
甲高い音がした。
「な、なにっ!」
甲賀は胸に手をあてる。そこから血が噴出してくる。
「ば、ばかなファインセラミックのこの鎧が打ち抜かれることなど……」
武士はその光景を見て唖然とした。普通の弾丸では祭童の鎧は打ち抜けない。もしそれが出来るとするなら、今はほとんど普及していない、レールガン超電磁砲意外考えられない。それを浅井が持っているということだった。
甲賀が倒れ伏す。
「うあああああー、方月様がやられたー!もうおわりだー!」
甲賀の部下が泣き崩れる。
「やばい!方月様がっ!にげろ!」
パニックになって逃げ惑う甲賀の部下たち。口々に祭童の名前を口にする。無論、すべて演技だ。演技で混乱したふりをして、逃げ惑っている。武士たちが逃げる時間を作るために。
武士は唇をかみ締めた。
「おい、ヤツラの死を無駄にするな、逃げるぞ!」
良太が武士に走りよってきて、怒鳴った。
「は、はい!」
武士は叫び、部下たちとともにオタソードを振るいながらひたすら北上した。もう、普通の道には怖くてもどれない。敵の軍勢、とくに戦車がいたら、完全に皆殺しにされる。
戦車が入れない山道に入って安倍の大滝までたどりついた。そこから道無き道をたどって、やっと身延温泉までたどり着き、山梨県に抜けることができた。
良太も、武士も光子も、身も心もボロボロでやっと命永らえることができたのだ。
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武士は生き延びることができるか




