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道(タオ)戦略的老子の解釈  作者: 公心健詞
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前田犬の栄達

前田犬の活躍にご期待ください

 武田義子の死が伝えられると、方月祭童は静岡の浅井長子と接触して同盟関係を結んだ。浅井長子の財源は全国から集められた同人誌、オタクグッズを中心とした中古ホビーグッズであり、何でも買い取る中古販売店として全国で名をはせていた。その名をスルメ屋干物のように時間がたった中古品を再生して販売するところからこの名前がついたらしい。

 通信販売で全国に発送しており、購入すると、箱の内フタ「このたびはお買い上げいただき、心よりお礼申し上げ候」と武士語でお礼が書いてあるのが特徴である。

 このするめ屋にとって、秋葉原ですでに売れなくなった余剰中古同人誌なども全国からすれば秋葉原でしか手に入らない垂涎の品であり、秋葉原の在庫処分、駿河(静岡)の利幅拡大というお互いに利益のある同盟であった。東京と静岡に挟まれる形となった北条氏は慌てて祭童に使者を送り、同盟の申し入れをした。祭童は同盟の条件として蒲田を中心とした大田区を祭童側の領土と確認することと、旧都庁軍の残党である朝比奈軍の引渡しであった。北条はこの条件を飲み、祭童と北条は同盟を結ぶこととなった。

 祭童と北条の大軍に包囲された朝比奈軍は八幡神社の近くにある、いつもは同人誌即売会をやっているビルに立てこもり、徹底抗戦の構えを見せた。

 武士もこの合戦に借り出された。

「これは武士様、ようこそおいでくださいました、ささ、お手拭を」

 戦場に到着した武士の前に前田が跪き、おしぼりをさしだした。

「あれ、前田さん、何をやっているんですか?」

「兄上は、武芸の拙さを祭童様より叱責され、連隊長の座をとかれた。今は私が二つの連隊の指揮をとっているしだいだ」

 前田の妹の佐脇嬢が横からそう言った。

「なにやってんの、あんたは軍人なんだから自分の部隊にもどりなさい」

 厳しい声が聞こえた。祭童軍幹部の赤川景子だった。

「うるせえ、ばばあ」

 佐脇嬢が悪態をつく。

「だれがババアよ、私はまだ30才よ、ガキは自分より年上だとみんなババアとか言って、本当に智性がないわ」

「うっわー、バッバーヒステリーおこしてんの、まじバッバー」

「だれが!」

 赤川景子が振り返ると、そこには茶髪で小麦色の肌のセーラー服の女の子が立っていた。すごくスタイルがいいスレンダーな体の持ち主だった。

「お、おい、慶子、あっちいってなさい」

「いいじゃん、パパー」

 前田にパパとか言ってる。

「あーあ、こんなクソが世継ぎだから廃嫡されんのよ、前田」

 うとましそうに赤川が言った。

「あ?わっちの事はいいわ、パパんことディスってんじゃねえぞ、殺すぞ、てめえ!」

 目を怒らせて慶子が赤川に迫る。

「お、おい、やめろ!これ以上パパのお仕事の邪魔をしないでくれ!」

 前田は悲痛な声をあげた。

 思えば、前田も勇猛な戦士である。ただ、その下の妹の前田犬が超人すぎる。

 前田犬は何かと暴力的な問題を起こすので、今は謹慎処分の身ではあったが、祭童は明らかに犬のほうの実力を買っていた。その事が不満で、前田の娘はかなりぐれてしまっているようだった。

「朝比奈みるく、無駄な抵抗はやめて出てきなさい。出てくれば、阿保神バカ夫の命だけは保障する。今すぐ出てきなさい」

 武士は拡声器で何ども呼びかけたがビルの中からは反応がない。

 と、その時である。

「うわああああああーん!」

 ビルの中から誰か男の子が飛び出してきた。それは阿保神バカ夫だった。

 武士は思わずバカ夫に駆け寄り抱き寄せえる。

「どうしたんだ!」

「みるくちゃんを助けて、みるくちゃんが死のうとしているの!みるくちゃんを助けて!」

「分かった!」

 武士は何も考えず、バカ夫をかかえたままビルの中に走りこんだ。後ろから武黒衆も続く。

 ビルの中の都庁軍兵士たちは驚いて武器をかまえる。

「お前ら何をしている!朝比奈みるくが自害しようとしているんだぞ!止めろ!」

 武士が大声で怒鳴る。

 その声を聞いて兵士たちも武器をさげて、武士に続いた。建物を入ってまっすぐ続く通路の奥の階段から二回にかけあがり、昔、触祭が開催されていたあたりの部屋に武士は走りこむ。そこでは朝比奈があわや、短刀で自分の腹を刺そうとしていた。

「やめろ!」

 武士は朝比奈が短刀を持った手を押さえる。

「武士!なにやってんの!」

 朝比奈が目を丸くして武士を見る。

「バカ夫はボクが責任をもって育てる。だから朝比奈は死んじゃだめだ!」

「で、でも……」 

 朝比奈が戸惑う。

 その時、建物の一階で怒鳴り声が響く。

「前田犬、一番乗り!」

 朝比奈は驚いて武士を見る。

「だましたね!」

「違う!俺は何があってもバカ夫を守る!武黒衆戦闘態勢!一命をもって阿保神バカ夫を守れ!」

「はっ!」

 その場に居た武黒衆たちは戦闘態勢に入った。

「だめだよ、武士、アンタも殺されちゃうよ!」

「何があっても守るって言っただろ」

 武士は朝比奈に向かってニヤリと笑った。

「ぎゃー!」「うああああああー!」

 一階で朝比奈軍の兵士たちの悲鳴が聞こえる。しして、ドドドドドと階段をかけあがる音がする。

「おい朝比奈、決着をつけにきたぜ!」

 前田犬が怒鳴る。

「あら、あなたのお相手は私よ」

 前田犬の前に本多勝がたちふさがる。

「お前なんぞに用はねえ!」

 前田犬は本多勝に拳を振るう。勝はそれを素早くよける。

「ほほほほほっ、つかまえてみなさい」

「逃げるだけの腰抜けめ!」

「それはどうかしら」

 勝は素早く前田犬に槍を繰り出す。

「あたらぬわ!」

 前田犬はそれを素早くかわす。

「やめい!味方同士で何をやっているか!」

 そこに方月祭童がどなりこんでくる。

「ははっ!」

 前田犬と本多勝はその場に跪く。

「おい、本多、貴様なにゆえ味方に刃を向けるか」

「殿のご命令です」

 方月祭童は憤怒の表情で二階にあがってくる。

「おい、武士、お前は私との盟約より朝比奈との友情を優先するのか!」

「そうじゃない!でも、ボクは、バカ夫をどんな事があっても守るって朝比奈と約束したんだ。そのかわり、朝比奈も戦わないようにって言ったんだ。それなのに、前田が勝手にうごいて!」

「甘いんだよ!」

 前田犬がどなる。

「黙れ!」

 祭童が叱責すると、前田犬は口を尖らして顔をそらした。

「ならば松平武士、この祭童がそのバカ夫を殺せといえばどうする。この祭童と一戦するか?この東京の覇者の祭童と!」

 地鳴りがするような大きな声で祭童は一喝した。周囲の兵士たちはその威圧感に圧されて後ずさりした。しかし、武士はまっすぐに祭童を見たまま言った。

「戦う!たとえ皆殺しにされても戦ってバカ夫を守る!」

 祭童の眉間に深いシワがよる。

「ふん、愚か者め」

 祭童は刀を引き抜いて振り上げる。そして、勢いよく武士の脳天めがけて振り下ろす。

 ブウン

 音がして、刀の切っ先が武士の鼻先一寸のところで止まる。

「今回だけだぞ、次は無いと思え」

 祭童は武士をにらみ付けるとそのまま背を向けて去っていった。

「ふーっ」

 あまりの祭童の殺気に圧されて武士はその場にへたり込んだ。

「ごめんね、武士、ごめんね」

 朝比奈は半泣きになっていた。

 朝比奈はそのまま拘束されて幽閉されたが、バカ夫は武士の強硬な主張によって武士が保護することになった。


 今回の合戦で、前田犬の奇襲攻撃で蒲田のビルは陥落したとして、前田犬の謹慎はとかれ、前田犬は原隊復帰をみとめられた。それだけではなく、前田旅団の旅団長に任命され、前田家の当主に任命された。前田は武芸不行き届きとして、当主の座を追われた。別に前田が悪いわけではない。前田はよく頑張っていた。ただ、前田犬がつよすぎるのだ。

 前田犬は原隊復帰がかなっただけではなく前田家当主の座も得て上機嫌だった。

 

 この事件があってから、前田の娘である慶子が妙に武士になつくようになってきた。

「武士さんってやさしいんですね、マジぱねえっすよ!」

 なんかよくわからない敬語をつかって付きまとう。正直、ちょっとうざかった。

 そんなある日、慶子は武士を風呂場に呼び出した。

「なんだ、背中を流すとかなら断るからな、何か役に立ちたいなら武勲をあげろ。そしてお父さんを喜ばせてやれ」

「いやあ、そんな事じゃないっすよ、今日はわっちがマキで風呂わかしたんっすわ。その風呂に武士さんに入ってほしいんですよ、それから、ここから見る風景は絶景でしてね、いいもん、見せてあげるっすよ!」

「あ、そうなの、じゃあ遠慮なく」

 武士はとある旅館の風呂場に案内された。そして脱衣場に入る。しかし、悪い予感がする。脱衣所のカゴの中に女物のショーツが入っている。ブラジャーもある。

「あれ?」

 武士が首をかしげる。

「うわっ!つめてー!氷水じゃねーかー!」

 風呂場から前田犬が走り出してくる。そして犬の巨乳がボウン!と武士の顔にぶつかる。大きくてやわらかい胸が武士の顔をつつむ。

「あ!ぎゃー!チカンだーーーーー!!!」

 犬は武士の頭を掴み、風呂場の壁にたたきつけた。

「げぼっ!」

 武士は風呂場の壁にめり込む。

 首をムチウチになってしまった。

 前田慶子はそのドサクサに紛れて朝比奈が幽閉されている留置所を襲撃し、朝比奈を開放して、宮崎領まで逃げた。

 朝比奈は宮崎謙信の家臣の山吉氏と面識があり、山吉氏を通じて宮崎氏の家臣となり、前田慶子も祭童軍を出奔して宮崎の家臣となった。

 この責任を問われ、前田は軍を辞職し、引退するはめになってしまった。そして、前田旅団の指揮権は完全に前田犬のものとなった。


前田慶子もお忘れなく!

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