謀略戦
混乱する松平陣営
「いったいどういう事なんだ!」
武士は珍しく怒りの表情で管理局の机を叩いた。その前には険しい表情の甲賀長門が腕組みをして立っており、武士をにらみつけている。
「はぁ?」
小ばかにしたように甲賀が言葉を漏らした。
「武田晴子の娘、義子が毒殺された。これはただ事ではない。まさか、お前が殺したんじゃないだろうな!」
「やるわけないでしょ、義子が生きていたほうが、武田家の内紛は深まる。むしろ混乱を激化させるために、毒殺の計画があれば、我らが義子を守るわ」
「じゃあ、誰が?」
「武田晴子にきまってるでしょ」
「親が子を殺せるわけがない!」
「いままでの歴史でも当たり前にあることでしょうに、歴史勉強したことないの?ボウヤ」
「ふざけるな!」
「ふざけてるのはアンタよ!アンタが私たちに補給物資を渡して武田潜伏をサポートしていたら、武田義子の暗殺は私たちが阻止できていた。武田義子を殺したのはあんたよ!」
激しい甲賀の叱責に武士は言葉を詰まらせる。
「その上、武田晴子は武田義子暗殺の汚名を、松平武士、つまりアンタに着せ、世間的に被害者の母親としての宣伝をはじめた。松平武士糾弾運動の先頭に立っているのはアンタの弟、ユーベルトートよ!どうなってんのよ、これ!」
そういって甲賀はポケットから写真を取り出し、管理局の机の上にばらまいた。そこにやユーベルトートが反松平武士のプラカードをもってデモをしている写真が掲載されていた。
「おのれ、殿を愚弄するか!」
部屋に居た夏目吉子が激昂して刀を引き抜く。
「やめろ!ボクが悪いんだ」
武士は止めた。
「殿は悪くありません!殿は心のまっすぐなお方です!」
夏目が叫ぶ。
「その心がまっすぐなおかげで、こんな目に合わせれているのよ。武田義子にせよ、母親から何度孫子を学ぶよう言われても無視し、勝手に行動して武田晴子が頼りにしていた軍師勘助が死んだ。いかな親子といえども、これ以上そのような思い込みの善意を曲げぬ人間を指揮系統の上位においておけなくなったのよ。武田晴子の判断は正しいわ。そして、武田義子が死んだのも、あなたが犯人の濡れ衣をきせられているのも、すべて自業自得よ!」
夏目がギリギリと歯を食いしばり甲ぼく賀をにらみつけている。
「分かった……ボクが悪かった。これからは甲賀の潜伏活動をサポートするよ、補給物資も渡す。どうかゆるしてくれ」
「最初からそうしれいれば二度手間にならなかったのに」
「口がすぎるぞ、下郎!」
夏目が吼える。
「しずまれ!」
武士が怒鳴る。
夏目は悲しそうに唇を噛み、視線を下に落とす。
「それでは、あとはよろしく」
甲賀は管理局長室を出て行った。
「夏目」
「はい」
「君はたしか、築山セナを知っているね」
「あ、はい!私徹夜して、雪かきペナルティくらって、それでも並んでサンシャインでセナ様の同人誌買って持ってます!」
「一度会いたいんだ。なんとか手はずを取ってくれないか」
「はい!いいですよ!たまには気晴らしもいいですね、すごく気さくでいい人なんですよ、セナ様!」
夏目は目を輝かせた。
しばらくして築山セナは管理局長室に来た。
露骨に不快そうな表情を隠さず、武士をにらみつけた。
「あなた最低ね、最低だわ。義子は私の友達なのよ、あの子はあなたと和解したいと言っていたそれよよくも暗殺したわね」
「そんな事してないよ」
「じゃあ、誰がやったっていうのよ!」
「それが出来るのは武田晴子しかいない。あの厳重な武田の警備網を抜けて義子を暗殺できる部外者なんていないよ」
「そんな、武田晴子さんは被害者の母親なのよ!被害者がそんな事するわけないじゃない!被害者を疑うなんて、よくもそんなかわいそうなことができるわね!あなた、人でなしだわ!」
「その考え方は僕も分かる。でも、本当にボクじゃないんだ」
「じゃあ、だれよ!」
「そんな事できるのはボクじゃなければ武田晴子しかいないじゃないか!」
「じゃあ、あなたよ!」
「ちがう、そこまで言うなら証拠はあるの?」
「武田晴子さんが言っているわ。被害者の母親が言っているんだから間違いないわ!被害者を疑うの!?」
「だから、何と言われても僕はやってないんだよ!」
「もう、こんな嘘つきと一緒にいたくない、帰るわ」
「待ってくれ!今日来てもらったのはその事じゃない。ボクの処に密告があって、君はユーベルトートを武田に送り込んだそうだね」
「そうよ、武田と松平が和解できるようにね。それをあなたが踏みにじったのよ!」
「違う、そうじゃない。武田との交流はもうやめてくれ。武田は今、松平に敵意をむき出しにしている。祭童からも、武田と貿易をしないよう命令があった。これを破ると、破った者は罰せなければならない」
「私、貿易なんてやってないから」
「同人誌の委託も禁止だ」
「えー、委託は私の本よ、何で売っちゃいけないのよ!」
「販売手数料が武田に入る」
「そんなのあなたの知ったこっちゃないじゃない」
「だ、か、ら、それを禁止するって祭童が命令してきてるんだって!」
「なんで命令するのよ!」
「だ、か、ら、敵対してるからだろ!」
「なんで、敵対するのよ!武田晴子さんは可愛そうな被害者なのよ!被害者を疑うの!?」
「ボクはお前を守りたいんだ!祭童は武田と密貿易する者は死罪にするって通告してきてるんだ!」
武士が声をあらげると、セナの目に恐怖の色をうかぶ。
「え……、あなた、私を殺すの?やっぱりあなた、悪い人だったんだ……」
「だ、か、ら、殺したくないから、密貿易はしないでくれっていってるんだろう、はーっつ」
武士は深いため息をついた。
「密貿易とか、しないわよ、ばかーっ!」
セナは泣きながら部屋を走り出して行った。
「まったく……」
武士は頭をかかえこんだ。
濡れ衣を着せられる武士




