ユーベルトートと義子
人の情にふれ、ユーベルトートの心情にも変化が……
ユーベルトートは指を一本ずつ折り曲げて開いた。握りこぶしを作る。開く。開いたり閉じたりする。
「素晴らしい、まるで本物の手のように動きます。よくもこのような精巧な義手を作れたものです。感謝の言葉もありません」
ユーベルトートは武田義子の前にひざまづいていた。
「気に入ってもらえてなによりだ。武田の技術は世界一。これも、長年社員を大事に育てて職人を数代にわたって育成してきた結果だ。それを、あの駄目新蔵総理はフェアートレードとか言いおって、同一労働、同一賃金とか言って、すべての職人の賃金を新人並に削減する無茶苦茶な法律を通した。野党も、ふぇーあートレードにしないのは人権問題だとか、人民の平等とか言われたら反論できずにすんなり法律を通した。しかし、熟練した職人の作ったフィギアと、素人が作ったフィギアでは売れる値段が全然違う。あのクソのおかげで多くの会社がつぶれて日本の国は無茶苦茶になった。それを思えば、その駄目新蔵を東京から追い払ってくれた方月祭童には感謝している。そなたの兄は祭童の元で働いているそうだな」
「はい、もし、義子様がお望みとあらば、このユーベルトート、恥をしのんで兄、松平武士に面会し、同盟の交渉をいたしましょう」
そういうと急に義子の表情が曇った。
「ん?実の兄に会いに行くのに、何が恥をしのんでだ。仲が悪いのか。兄弟仲よくせねばならんぞ」
「恐れ入ります」
ユーベルトートは深々と頭をさげた。
「まあ、気にするな、そなたもこれからは武田の武士だ。赤揃えの武田の甲冑を着るがよかろう」
義子はそういうと、パンパンと手を叩いた。すると、義子の配下の者がユーベルトート用の赤い甲冑を持ってきた。
「これからはこれを着るがよい」
「何から何まで、まことに感謝の言葉もございません」
ユーベルトートは体を縮めた。
「たいしたことではない。気にするな。それより、もっと元気にのびのびしろ。お前は何でも気をつかいすぎる。な」
義子はそう言ってユーベルトートに近づき、その肩をポンとたたいた。
「はい……」
義子はしばらく黙ってユーベルトートの背中をなんども撫でた。ユーベルトートも黙って、そのまま跪いていた。
しばらくしてユーベルトートにも活躍のチャンスがやってきた。宮崎との合戦が始まったのだ。
善福寺川が中心を流れる緑地公園で合戦は始まった。
ユーベルトートは義子からもらった赤備えの甲冑を着込み、次々と宮崎軍の兵士を切り倒していく。相手もオタソードやオタランすをもったツワモノであったが、ユーベルトートにかなうものはなかった。
切って、切って、切り倒し、ユーベルトートは宮崎謙信の本陣の近くまで進軍していた。
「あぶない、もどれ」
義子が後ろから大声で叫ぶがユーベルトートは必死で聞こえない。
危機を感じた宮崎謙信本陣があわただしくなる。と、その時、宮崎謙信本人が馬にのってユーベルトートに突進した。慌てて側近たちがそれに続く。
「ええい、このでユーベルトートを討たせては、セナ殿に申し訳がたたぬ」
義子も馬に乗ってユーベルトートのところまで駆け抜ける。慌てて、側近や作戦の指揮をとっていた軍師勘助が義子を追う。
宮崎の馬がユーベルトートの間近まで迫る。
「この宮崎に単身挑むとは見上げた根性だ。名を聞こう」
「これから死ぬ奴に名乗る名はない!」
ユーベルトートは宮崎に切りつける。宮崎はそれを避けようとしない。
ユーベルトートのオタソードが宮崎の頭の上に振り下ろされる。宮崎は微動だにせず、それを直視する。
その刹那、ユーベルトートのオタソードが消えた。
「え?」
ユーベルトートはオタソード以外の武器を持っていない。
「ゆくぞ知れ者!己の不遜を思い知るがいい!」
宮崎は普通の日本刀を引き抜きユーベルトートに突進する。
ブウン
刀が空を切る。ユーベルトートは宮崎のくりだす刃を避ける。何ども避ける。
しかし反撃ができない。
「助けに来たぞ!」
義子がそこに割って入る。
ガチン!
義子の刀と宮崎の刀が合わさり火花が散る。
そこに軍師勘助が到着する。
「ユーベルトート、義子様を守って引け!このままでは義子様があぶないぞ」
「しかし」
「義子様を守れ!それ以外は考えるな!」
「はい!」
ユーベルトートは義子の前に進み出る。
「義子様、ユーベルトートは無事です。どうかお引きください」
「黙れ、敵を前に逃げるよな卑怯な真似ができようか」
「ならば御免!」
ユーベルトートは義子を馬から引きずり下ろし、他の兵士とともに義子を後方にひきずっていく。
「はなせー!はなせ、無礼者ーっ!」
義子があばれる。
「はやくー、早く、義子様を安全な場所へー!」
遠くの方で軍師勘助の声が響いた。
今回の戦いも引き分けであった。しかし、今回は宮崎謙信によって武田軍の軍師勘助が切り殺されたので、実質的には武田の敗北と言ってよかった。
勝手な行動をとった義子、ユーベルトートへの武田晴子の怒りは激しく、義子、ユーベルトートとも、謹慎を命じられた。
それでも、ユーベルトートは嬉しかった。いままで、ここまで人から大切にされたことがなかった。武田義子のためなら、己の全てをかけてもいいと思った。命すらいらないと思った。謹慎中の身の上とはいえ、これほど心が晴れたことはユーベルトートの人生のおいて一度もなかった。
謹慎期間はかなりの長期間にわたったが、謹慎がとけたら、ユーベルトートは真っ先に義子にお礼に行こうとおもった。
謹慎が終り、そのに出た時、ユーベルトートは門兵に尋ねた。
「恐れ入りますが、今、武田義子様はどちらにおいででしょうか」
ユーベルトートがそう言うと、門兵の顔が見る間に険しくなり、眉間に深いシワを寄せて、目から大粒の涙をながした。
「義子様は……義子様は亡くなられた」
ユーベルトートは愕然とした。
過酷な運命をユーベルトートは何と思うのか。




