ユーベルトートとセナ
行き倒れになっているユーベルトートを発見する築山セナ
池袋の管理局地下室。銀色の長髪の女性がその鉄の扉をあける。
「ああ、やばい、やばい、これつけてないと目が腐って死ぬんだった」
女性がメガネをかけた。それは、対駄文ガードメガネだった。元々中野曼荼羅会を運営する武田氏が開発しためがねだ。
中野曼荼羅会はオタクグッズや同人誌を買い取ってそれを中古販売して収益を得ていた。その中で、内容がクソ以下の駄文が掲載したものを読むと目が腐って人が死ぬ。そんなものは商品にならない。そのため、その見極めの査定をするとき、実際に死亡者が出ないように武田氏が長年のノウハウを元に開発しためがねだ。これは武田氏の中でも機密となっており、好敵手でお互い認め合っている宮崎謙信と、BL同人誌の女王と呼ばれたこの築山セナだけには貢物として武田氏が献上している代物だ。それ以外は都知事の阿保神やる夫ですらこのメガネは持っていない。
この地下室には松平武士が描いた駄文が大量に保管してあった。敵が攻めて来たとき、これを管理局の窓から撒き、敵を撃退するために保管しているものだ。
いわば凶器である。しかし、好奇心旺盛の築山セナはどうしてもこれを読んでみたかった。
「うえ~、つまんな~い」そういいながらセナはニタニタ笑いつつ武士の文章を読んだ。
「セナ様~どこにいかれました~」
武士配下の武黒衆の声がする。
「やばいわ」
セナは慌ててその部屋をでた。
それからしばらくして、セナが暇つぶしに松平氏と武田氏との国境、南長崎のあたりを散歩していたときの事である。
南長崎の雑木林の辺りで鉄仮面をかぶった人が倒れていた。
「あれ~、あんたユーベルトートじゃーん」
セナは自分のアシスタントを携帯で呼んでユーベルトートを自分の家までは運んで、食事をあげて、看病した。
セナも元々都庁軍の所属である。ユーベルトートとも顔見知りであった。
「あんた、あんなところで何してたの?」
「生きる希望も目的もなく、さまよっていました。やる夫様のいないこの世では何の希望も目的もありません」
「今、ここの主になっている松平武士を紹介してあげようか?」
「それだけはイヤです。あいつは、やる夫様の仇です」
「やったのは祭童軍でしょ。それに、武士はあんたに罵倒されて吐血したそうじゃん。あんたの事、本当は心配してんだよ、きっと」
「そうでしょうか……」
「そうだよ、仲直りしなよ、兄弟なんだし。前のいざこざだって、お兄ちゃんはわざと、君を落としいれたんじゃないんでしょ?」
「それはそうですが……踏ん切りがつきません」
「なら、こうしよう。この前、武士は武田義子に面会して和解交渉したらしいんだ。そんな噂を聞いてる。だったら、君が武田側に行って、武田と武士の和平を取り持ったらいいんじゃないか?そうしれば、兄弟も和解できるだろ」
「そんな上手くいくでしょうか。それに、武田が私を受け入れるとは思えません」
「それなら心配ないよ。私のBL同人誌、武田義子のお店で委託販売してんもん。義子はすげーいい子でマブダチだから、私が紹介してやんよ」
「そこまでしていただけるのですか。いままで、何の利害もない人にそこまでしていただいたことはございません。なんと感謝していいか……」
ユーベルトートは肩を震わしている。泣いているようだ。
「そんなの気にしなくていいって、あ、義子ちゃん?セナだよー。あのお願いがあるんだけどさー、え?セナの言うことなら何でも聞いちゃう?義子ちゃん最高!」
セナは携帯電話で義子と話しをつけた。
「話しついたよ、迎えがくるから、ユーベルトートはこれから武田の家臣だよ、しっかりやんなよ」
「しかし、そんな事をしてセナ様が松平武士に責任を追及されることにはならないでしょうか」
「大丈夫、大丈夫、武士ってすごいいい奴だからさ、そんな事しないって。それに、武田と松平は和平交渉やってんでしょ?武士の弟のアンタが武田陣営にいたら大助かりじゃん」
「何から何までありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
ユーベルトートは床に頭をこするつけてセナに礼を言うのだった。
しばらくすると、武田の使者が来てユーベルトートを連れて行った。松平領への勝手な越境は規律違反であったが、
そのあたりの事情に詳しくないセナは自分の私兵であるアシスタントに命じて、武田の兵士とユーベルトートを武田の国境まで案内して松平領から出国させた。
無事、武田領に送り届けるのであった。




