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道(タオ)戦略的老子の解釈  作者: 公心健詞
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清廉潔白

宮崎勢に招かれ、宮崎氏と武田氏の戦いを見た武士は、これこそ清廉潔白な日本の戦い方だと思った。このような人たちこそ、生き残るのではないかと祭童の意見に疑念を抱くのだった。

 早馬を使い、宮崎氏に今回の合戦への参戦見送りを伝えると、宮崎氏より折り返し、合戦の様子を観覧してほしいとの申し出があった。こちらから参陣を申し出、再び断るという非礼をした相手に対してこの待遇。武士は素直に心打たれた。

 武士の心に疑問が沸いた。このように正々堂々と戦う日本人たち、この人たちが本当に祭童に屈することがあるのだろうかと。しかし、一端、祭童軍と盟約を結んだかぎりは、たとえ敗北し、滅びようとも盟約はまもらねばならない。それが人の道であると武士は信じた。

 使者は、宮崎謙信が武士が小説を書くと聞き、ぜひそれを読みたいと言っていると伝えてきた。しかし、その内容はあまりにも駄文であり、それを読むと目が腐って死ぬと伝えたが、それでも宮崎は読みたいと言っていると伝えてきた。

 胸騒ぎを感じながらも武士は宮崎の処へ自分の書いた文書を持参した。

 小金井の事務所に行くと、出迎えの者が対応し、宮崎のところへ通された。宮崎は自分のアトリエでスケッチブックにカリカリと鉛筆で絵を書いていた。

 白髪頭の小太りの中年男性だった。メガネをかけて無精ひげをはやしている。ただのむさくるしいオジサンに見えなくもない。普通の人のように見えた。

「あ、来たの、小説見せて」

 宮崎はぶっきらぼうに言う。

「あ、はい」

 そっけない宮崎の態度に武士は動揺した。いままでに一度も会ったことのないタイプだ。小説を渡すと宮崎はそれを無造作によみはじめる。

「あ!」

 武士は宮崎が死ぬのではないかと心配した。しかし、宮崎は平然としている。

「ご心配なく、死を招く文章、死文は相手のこころにダメージを与えるからこそ、死を招くのです。だから、文章でなくても、傷付くことを言われれば物理的なダメージをうける。謙信様は修練をかさね、どんな駄文を見ても心をうごかされぬゆえ、読んでも大丈夫なのです」

 宮崎方の案内役が武士にそうつげた。武士は宮崎の胆力に畏怖を覚えながらも反面、恐怖を感じた。この人には自分の能力が通じない。とすれば、もし、戦いになれば、自分は何の力もないただの高校生にもどってしまう。

「だめ」

 宮崎は武士の原稿を素早く読みきり、その場に投げ捨てた。

「あ、はい」

 否定されていることは分かっていたが、そのそっけない態度に驚いた。使者が持ってきた文面と実際に会った態度が違いすぎる。

「あの、いつもあのような態度なのですか」

 武士が小声で案内役にそういうと、案内役は驚いたような顔をして武士の口を手で押さえた。

「げほっ」

 宮崎が吐血する。

「だ、大丈夫ですか」

「うるさいなあ、あっちいってて」

 武士が心配して駆け寄ろうとすると、宮崎はうざったそうに手で払う。

「謙信様はああ見えてとてもナイーブな方なのです、お言葉にはお気をつけください」

「ボクのせいでしたか、これはすいません」

 武士は慌てて部屋を出た。

「ああ見えて謙信様は大変人目を気にされる方で、自分が横柄だとか冷たい人間だとか見られるとひどく傷つかれるのです。そのかわり、その鋭敏な感性から放たれるオタソードは何者も切り裂く威力があるのです」

「そうなのですか……」

 武士は宮崎にものすごい大物の畏怖を感じた。

 宮崎勢の人間は皆礼節を心得ており、よく統率が取れていた。これはまともに戦って勝てる相手ではないと武士は感じた。もしかしたら、その事実を武士に突きつけるために宮崎は武士に会ったのかもしれない。

 宮崎勢と武田勢の戦いはいつも善福寺川縁の緑地公園で行われる。住民の人家に被害がよぼばないようにとの配慮だった。

 両陣営は馬を並べそれぞれ陣地を取る。武士は近隣にある小高いマンションの残骸の上からその戦いを閲覧した。

 両軍ともまったく銃器は持っていない。全員がオタの暗黒面の力を有している。それは壮絶な光景だった。

 何の小細工もない。お互い、力と力のぶつかり合いである。正面から激突し、オタソードで切りあう。目を凝らしてみると、武田勢の中に武田義子らしき女性が馬に乗って宮崎謙信に突進していくのが見えた。謙信とその重臣たちが武田義子に襲い掛かる。その間に武田軍の軍勢が割り込み、義子を羽交い絞めにして後方へ運んでいく。それを追撃する宮崎謙信の前に片足を引きずった武田の将がたちはだかり、何合かオタソードで打ち合いをしたあと、宮崎に切り捨てられた。

「ああっ!」

 武士の隣に居た宮崎勢の案内約が声をあげた。

「どうしたのです?」

「あれは武田方の軍師、勘助です。おしい人物を亡くした」

 敵の武将の死に対してその案内役は手をあわせた。

 武士は、これこそ日本人のあるべき戦い方だと思った。心を打たれた。

 武士は合戦が終ったあと、宮崎に会いに行って深謝した。

「あっそ」

 ぶっきらぼうに宮崎は答えた。

 池袋に帰ってきてから、武士は積極的に各地に点在する都庁軍の残存勢力の掃討作戦を展開した。

 荒川区、板橋区、練馬区は尽く武士の領土となった。いずれの戦いも正々堂々。降伏するものに対しては降伏を受け入れ、徹底抗戦するものは正攻法で戦い、相手が降伏すれば素直にその降伏を受け入れた。精強な武黒衆はこの戦いで一度も負けることなく、武黒衆の武名は天下にとどろいた。結局のところ、祭童の心配は杞憂にすぎるのではないかと武士は考えるようになっていた。

 しばらくして、甲賀長門が財政支援と食料や弾薬、医療物資の供給を求めてきた。

 先の宮崎と武田の合戦で、武田義子が先走りして宮崎謙信の本陣に切り込み、それを助けようとした武田軍の軍師、勘助が死亡した事で、母親の武田晴子から謹慎を申し渡されていたそうだ。それでなくても武田義子は、指揮者を失い、混乱している都庁軍を攻めるのは卑怯であると訴え、隣国である練馬区や板橋区への武田軍の進軍を拒否していた。このため、これたの地域は易々と武士の軍勢に奪われたため、晴子は娘の義子の清廉潔白さに辟易としていたようだ。ここにつけこみ、甲賀長門が拡散工作を行い、晴子と義子の離反をはかるとともに、晴子の養子である、諏訪勝也を武田氏の後継者にしようとしているとの噂を流す工作をするとの事だった。

「何を言っているんだ。武田義子さんは清廉潔白で正直な人だ。あの人が武田の指揮を執るようになれば、我々は合戦せずとも和解、共存していける。協力はできない」

 そういって武士は長門の支援要請を拒否した。長門は立腹してその場を立ち去った。

練馬や板橋で、都庁軍の残党と戦い、一度も負け知らずな状況であったため、

武士は自分たちの軍隊は日本最強ではないかと確信していくようになるのだった。

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