単身のユーベルトート
新橋のモノレール駅跡を占有しつづけるユーベルトート
池袋の管理局で防備を固めていた松平武士であったが、武黒衆の幹部である酒井次江が懇意にしている石川数美をつれてきた。石川は同人誌を描いており、何度か秋葉原の豪商、木下良太に同人誌の委託販売をしないかと誘われ、何冊か木下の同人誌販売店ピザの穴に同人誌を委託したことがあった。石川は良太と面識があるので、祭童軍と講和する折衝を自分にやらせてほしいと懇願してきた。無論、このまま池袋で孤立した状態でいてもいずれ祭童軍に滅ぼされることになる。
選択肢は、中野に勢力を持つ、武田晴子か杉並、小金井に勢力を持つ宮崎謙信の配下に入るか、祭童軍の配下に入るかしかなかった。宮崎謙信は清廉潔白な人柄との噂だったがいかんせん池袋からは距離が遠い。連携しようとすれば、武田、祭童に挟撃される恐れがある。武田晴子は昔から中野に地盤を持つ古豪であり、油断ならぬ人物との噂であった。祭童であれば気心も知れており、仲間になればこれほど心強いこともない。しかし、先の合戦でお互い多くの仲間を殺され、相手方も殺している。その遺恨を祭童がなんと思っているかだ。
武士は、石川を良太の下に派遣することを決意した。
石川と面会した良太はすぐその事を祭童に伝え、祭童は武士との和睦を承諾した。ただし、条件があった。
ユーベルトートと朝比奈みるくの討伐であった。ユーベルトートは新橋にあるモノレール駅の残骸に陣取り、そこを明け渡そうとはしない。すでにそこを攻めた祭童軍が莫大な損害を出しているとのことだった。
武士はその条件を承諾した。
武士は武黒衆を引き連れて新橋に向かう。ただし、今回の戦いは武士とユーベルトートの一騎打ちになるだろう。オタの暗黒面を使った勝負になる。
新橋に到着すると、武士は新橋の南出口に案内された。そこの中央からモノレール駅に向かう階段があるが、その階段一面に血が滴っていた。案内の兵士の話しによると、すでにユーベルトート配下の三百人はことごとく討ち取られ、残るはユーベルトートただ一人だということだ。新橋モノレール駅跡には三百人分の食料が蓄えられており、ユーベルトート一人が立てこもった場合、何日篭城するか分からない状態だということだった。
たった一人、それでも、そのたった一人になってからすでに二個師団がユーベルトートによって壊滅されていた。
「おい、出てこい、勝負だ!」
武士は手からオタソードを出して叫んだ。ユーベルトートがゆっくりと階段を下りてくる。と、思うが早いか跳躍して武士に向けてオタソードをふりかざしてくる。
バシン
音がして火花が散る。
ガシン!バシッ!シュッ、ブオン、ブオン!ガシッ!バシ!バシッ!
武士とユーベルトートは激しく何合もオタソードを打ち合わせる、何ども、なんども、いつまでたっても決着はつかない。
ブウン、バシ、ガシッ、ガシ、ガシッ、バシュッ!
バスッ!
ユーベルトートが大きくオタソードを振ったとき、ユーベルトートの右腕を武士がオタソードで切り飛ばした。
ヒュン!
音と共に右手に握られていたオタソードは消える。
ユーベルトートは後ろに飛びのいて、武士に右手の手のひらを向ける。
「無駄だ!ボクに罵倒系精神攻撃は効かないぞ!」
「いつもそうだ……」
ユーベルトートはうめいた。
「は?」
「いつも、あなたは私が大切に築き上げてきたものを一瞬にしてぶち壊してゆく!そうだろ兄さん!」
ユーベルトートは大声で叫んだ。
武士は愕然としてその場に立ち尽くす。
「あの日、ボクは東日本大震災で大量の日本人が家が倒壊し、下敷きになって逃げられないうちに火災で焼け死んだ多くの日本人の事を、日本人を丸焼きにして食べたらサルの味がするといってバカにしたアメリカのアニメ脚本家のことを、褒め称える作文を書いて、学校で初めてトリプルAをもらったんだ。汚らしい劣等民族の日本人をわらってくださって、本当にありがとうございます!と書いて、先生に絶賛された。頭をなでられた。学校の勉強ではいつも一位だったけど、どうしても作文は苦手でダブルAしかとれなかった。でも、この日は思い切って日本民族を侮辱し、徹底的に日本人の尊厳を踏みにじったら、先生に絶賛されたんだ。先生はボクの事をクラスの誇りだって言ってくれた。それなのに、そのすぐあとに、兄さんがクラスの中で『日本っていい国だな』なんてつぶやいたんだ。それ以降、先生の態度は一変した。先生から『はい、この子が人間のクズの弟君です、みなさん、いくら相手が人間のクズの弟だからって、仲間はずれにしてはいけませんよ、なかよくしてあげましょう』と言われた。それからも、数学や理科はずっとクラスでトップだった。でも、解釈によって点数が変わる筆記問題は全て最低の採点。作文もずっとC-だった。この気持が分かるか、兄さん!あんたのせいでボクの人生は無茶苦茶になったんだ!」
「ゲホッ」
武士はその場に血を吐いて倒れた。
そこに祭童が走り出してくる。
「待て!これ以上武士を攻めるな!武士の命には代えられん。そちらから要求があれば飲もう。これ以上武士を攻撃しないでくれ!」
「ならば、我が主君、阿保神やる夫様の御首を頂戴したい」
「は?逃亡先や領地が欲しいのではないのか?」
「供養したいので、御首を頂戴したい」
「分かった」
祭童はすぐに手配して、阿保神やる夫の首を新橋まで運ばせ、血抜きと防腐処理、死に化粧をほどこして布にくるみ、ユーベルトートに渡した。そして、右手の止血処理をしてやり、カゴに乗せて大井町の朝比奈の処まで送り届けた。
朝比奈はユーベルトートが到着すると大井町の駅前ビルから走り出し、やる夫の首を見て号泣した。ユーベルトートは朝比奈にやる夫の首を渡し、どこかへと歩いて立ち去った。
次の日、朝比奈は大井町の駅前でやる夫の葬儀を執り行い、祭童や武士もその葬儀に参列した。
その日ばかりは一時休戦となった。
そして戦いは続く




