池袋を目指して
武士の軍に襲い掛かる前田犬!
「この猫のストラップ、やる夫っちむっちゃ喜ぶぞ~」
朝比奈は両手で猫の携帯ストラップを持ってピョンピョンはねた。
「それより、こんな勝手に戦勝祝いのパーティーの用意とかしてていいんですかね、今戦時下ですよ」
武士が愚痴を言いながら折り紙を短冊に切ってそれでだ円を作り、折り紙のクサリをつくる。
「いいんだよ、この戦、絶対勝つんだから。相手は2千人くらいなんでしょ、それに対して4万で攻撃するなんて、いくらなんでも用心深すぎんだろやる夫っち、そこがいいとこなんだけどね~、うふふ、やる夫っちってばすげー猫が好きなんだよ、知ってた?ねえ知ってた?」
「もう何十回も聞きましたよ~」
「えへへえ、あ、そうだバカ夫坊ちゃんも呼んであげなきゃ」
「駄目ですよ、今戦時下なんだから、パーティーも新宿に帰ってからやったほうがいいですって、バカ夫坊ちゃんを危険にさらさなくてもいいでしょ。勝ったとしても残党が潜伏してる可能性があるんだし」
「あーそれもそうかもねー、祝勝会場、新宿にすっか、やる夫っちに電話で聞いてみる」
朝比奈は都知事の携帯に電話をかける。
「……おかしい」
朝比奈の顔色が変わる。
「どうしたんですか?」
「着信拒否されてる」
「あまりうるさいから着信拒否されたんでしょ。また仲が良くなったら元に戻してくれますって」
「そんな事ない!やる夫っちはみるくちゃんの親友なんだよ!絶対に着信拒否なんてするわけない!敵に携帯を奪われたんだ。助けにいかなきゃ!」
「駄目ですよ、大井町を守るよう、命令されたんでしょ!」
「おい!偵察部隊を編成する。各員第一級戦闘態勢へ、いつでも出陣できるようにしろ!」
朝比奈の怒鳴り声でその場に急に緊張が走る。
「新宿の新蔵に電話してみるわ……なんだ、こっちも着信拒否かよ、じゃあ」
朝比奈はせわしなく電話をかける。
「おい!藤林も着信拒否か!じゃあ……」
朝比奈は苛立ちならがあちこちに電話をかける。
「おお、新宿本部か、新蔵とか新次郎とかどうした。なに?中国地方を占領している毛麗軍に亡命しただと?都庁軍のヘリコプターを勝手に使って?くそが!裏切りやがった、あとでやる夫っちに頼んで処刑してもらう!」
そこに前線から伝令が走りこんでくる。
「阿保神やる夫閣下、秋葉原にて敵の奇襲攻撃を受け、お討ち死!」
「何っ!」
朝比奈の顔が見る間に蒼白になった。
「殺す!祭童殺す!全軍出撃!」
「だめだ!」
朝比奈の前に武士が立ちはだかる。
「どけ!殺すぞ!」
「やる夫閣下は死んだ!もう帰ってこない。それよりも、ご子息のバカ夫閣下を保護すべきでしょう。敵軍はやる夫閣下を討った勢いに乗ってバカ夫閣下を捕まえるために新宿に進軍しているはずだ。バカ夫閣下が生きていれば都庁軍の次の旗頭になる」
武士の言葉を聞いて朝比奈が目を見張る。
「ああ、バカ夫ちゃん。バカ夫ちゃんをたすけないと、バカ夫ちゃんが死んだらやる夫っちが悲しむ。全軍出撃!我が軍は新宿に向かう。武士ついてこい」
「はい!」
武士は武黒衆を率いて朝比奈軍に追随した。
首都高速中央環状線を取って朝比奈と武士の軍は新宿に急ぐ。そして、大橋インターに差し掛かったとき。
「うおおおおおー!」
いきなり横合いからときの声が響き渡った。
「決着をつけにきたぜ、チビ助!」
横合いから飛び出してきた前田犬がいきなり朝比奈を殴りつけた。朝比奈はふっとび、高速道路のから落ちて地面にたたきつけられる。しかしそのまま起き上がって、ジャンプし、高速道路にもどってきた。
「かまわず進め!」
朝比奈は大声で叫ぶ。
「うあっ!」
「ぐはっ!」
前田の軍勢に槍で突かれ、あるいは刀で切りつけられ、朝比奈軍の兵士が次々と倒れていく。それでも朝比奈軍は動きを止めない。
「逃げるか!この腰抜けが!」
逃げようとする朝比奈の頭を後ろから掴んで高速道路にたたきつけ、後頭部を何ども踏みつける前田犬。
「こうだ!こうだ!こうだ!これで戦う気になったか、この腰抜け!弱虫!」
それでも朝比奈は立ち上がると、逃げ出した。
「何故逃げる!チビ助!」
「……」
「私とお前との勝負を捨てても守るべきものがあるのか!」
「……」
朝比奈は必死に走った。その前に前田犬が回りこむ。
「このクソがあ!」
朝比奈の顔面を前田犬が蹴り倒す。それでも朝比奈は立ち上がり、無言で走りはじめた。
それまで戦闘意欲満々でつりあがっていた前田犬の目がトロンと半開きになった。
「ああ……」
前田犬はけだるそうに片手を上げた。
「全軍、戦闘やめい!」
前田犬の大声がその場に響く。前田軍の動きが止まる。
「なぜです、あれは敵の大将首ですぞ!せっかく手柄を立てて原隊復帰できるチャンスを!」
部下が慌てて前田犬に走りよって叫ぶ。
「俺の出世の事なんざどうでもいい、武士の情けだ。みのがしてやれ、へへへ……」
前田犬は両手を後頭部に組み、朝比奈に背を向けた。
朝比奈はその姿をチラリと見る。
「すまん!」
大声で朝比奈が怒鳴って走り去った。
「いいってことよ」
前田犬は後ろを向いたまま片手をけだるくユラユラと振った。
新宿に到着すると、朝比奈はやる夫の息子のバカ夫を保護して、大井町に帰るという。
「正気の沙汰じゃない!今から大井町に帰ってどうするんですか!」
「でも、やる夫っちに大井町を守れって言われたから。私が居ないと、やる夫っちの帰る場所がなくなる」
「正気にもどれ!やる夫は死んだんだ!」
「まだ死んでないかもしれないじゃなか!帰ったら一緒にトランプするって約束したんだ!私一人さえいれば、大井町は守れる!」
「じゃあ、ボクも大井町へ」
武士がそう言うと、カトリーヌとヒルダが武士に駆け寄る。
「私もお供します。死ぬも生きるも一緒です」「ヒルダも行くでありますのんた!」
「だめです!」
武士たちの前に大久保忠子が立ちはだかる。
「なぜ止める!」
「あなたが大井町へ行って討ち取られたら、統率を失った豊島区の住民の保護は誰がやるのです。大将を失った地域は、敵の餌食になり、大勢の女子供が死にます。そんな事は断じてさせません」
「ちいっ」
武士は唇をかんだ。
「大丈夫だよ、武士、大井町は私だけで守れる。お前は池袋へ帰れ」
朝比奈が笑顔で言った。
「すいません!」
武士は深々と頭をさげた。
武士と武黒衆は新宿から池袋を目指したが目白の手前、新目白通りで祭童軍の襲撃を受けた。
「アハハハハ!天知る、地知る、人の知る、シヴァ・カーツとは私の事よ、あなたを天誅!」
敵の大将の少女は派手なセーラー服に紫色のミニスカート、頭にティアラをつけていた。完全にイロモノ系のコスプレだった。
「テイ!」
叫びながら少女はビルの上から跳躍する。それは的確に武士の上に飛来した。
ガツッ!
金属音がした。本多勝が槍の蜻蛉切で敵の刀を受け止めたのだ。シヴァ・カーツの刀が粉々に砕け散る。
「ウフフ、やるわね!でも、これは避けられるかしら!」
カーツは素早く拳を繰り出し、勝はそれをすんでのところで避ける。
「武士様、いまのうちに早くお逃げください!」
「お前を見捨てて一人で逃げられるか!」
叫ぶ武を大久保忠子と夏目吉子がはがいじめにする。
「勝は死ぬ気です!勝を犬死させないでください!」
忠子と吉子はものすごい力で、武士をひきずる。そこに他の部黒衆もあつまって、武士を担ぎ上げて撤退した。
「離せー!離せー!」
武士は大声で叫んだが武黒衆はそれを無視して撤退する。
途中、目黒通りを右折して鬼子母神前まで来たところで、祭童軍が待ち伏せしていた。無数の矢を放ってくる。それを武黒衆たちは自分たちの身を盾にして武士を守って倒れていった。
「すまん!すまん!みんな許してくれ!」
武士は涙ながらに叫んだ。
「泣くな!涙は勝った時に流すものだ!」
大久保忠子がどなった。
「はい!」
武士は大声で怒鳴り返した。
そして、武士はなんとか池袋管理局までたどりついた。
大久保忠子の指揮の下、武黒衆は管理局の守りを固める。武士はただ、呆然として、管理官室に入り、ソファーに腰を下ろした。そこに伝令が駆けつける。
「本多勝殿、帰還しました」
「おお、勝が生きていたか!」
武士は管理官室を走り出した。管理局の中二回、階段をあがって、広間を通ったあと、半円形の屋根のあるエスカレーターの横に本多勝は立っていた。本多勝はにっこり笑って敬礼した。
「本多勝、ただいま帰還いたしました!」
「おお!勝、勝!よく生きてもどった!」
武士は勢いよく走り寄るが、長い時間、歩きどおしで疲労した足がからまって、けつまづく。
「あっ!」
武士は前につんのめり、両手で思いっきり勝の胸を触ってしまった。
「きゃー!エッチ、スケッチ、ワンタッチ!」
叫びながら勝は武士の顔を張り倒した。
「げほっ!」
武士は勢いよくふっとぶ。
「武士様っ!」
慌てて大久保忠子や夏目吉子、カトリーヌ、ヒルダが駆け寄る。
「ごめんなさーい!」
勝が大声で叫んだ。
勝ちに乗って次々と襲い来る祭童軍の脅威!




