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道(タオ)戦略的老子の解釈  作者: 公心健詞
35/84

猫のストラップ

ついに進撃する都庁軍

都知事やる夫は都庁室でイラだった表情で何か連絡を待っているようだった。

 携帯電話がなる。

 やる夫はポケットに手をつっこむ。

「いてっ」

 やる夫は眉をしかめるながらポケットから携帯電話を取り出す。携帯電話にはオレンジ色の猫のストラップがついており、その尖った耳が時折やる夫の手を刺すのだ。

「おお、服部平蔵君か、予定通り、祭童軍に嘘の情報は流したな。ふふふ、まさか君が我が軍の二重スパイだったとは祭童軍も気づくまい。早速、都庁室に来てくれたまえ」

 やる夫はそう言って電話を切った。切ったあと、携帯電話にぶら下がっている猫のストラップをにらんだ。

「うぜえなこれ、捨てしまおうかな、しかし、捨てたのが分かると、またあの馬鹿の朝比奈が逆上するしな、めんどくせえ」

 恨めしそうに猫のストラップを眺めるやる夫。

 服部平蔵が都庁室に到着する前に軍服に着替え、腰に軍刀をつけるやる夫。

「やっぱ軍服は身が引き締まるなあ」

 そこに服部平蔵が入ってくる。髪の毛をセンターに分けた50前後のしょぼくれた男だった。

「この前電話で説明したとおり、傭兵部隊を本郷通り方面に差し向けるが、これはオトリだ。本隊はいつもどおり、ユーベルトートと朝比奈みるくと俺が神田方面から突っ切る。しかし、祭童軍にはあくまでも本郷通りから来るほうが本隊だと伝えてくれ」

「それはもう、十分に伝えました。際童軍の連中も私からの情報に感謝して何どもお礼を言っていましたよ、自分たちが騙されているとも知らずに」

「おお、そうかもう伝えてくれたか……、じゃ、用済みだな」

「は?」

 やる夫は素早く軍刀を抜くと、横になぎ払う。服部平蔵の首が宙に飛んだ。

 ゴトリ

 鈍い音がして平蔵のクビが床に落ちた。

「馬鹿め、俺が駄目新蔵みたいに簡単にアメリカの奴隷になると思うなよ、このアメリカの犬が」

 やる夫は薄ら笑いをうかべた。

 思えばよく、保守系のインターネット放送で「駄目総理は面従腹背でアメリカに従っているふりをしているだけなのであります。時が来ればアメリカを裏切り、日本を独立させる希望の星なのです」なあどとしつこいほど言っていた。

 しかし、本気でアメリカに面従腹背しているのであれば、絶対そんな事を公共の場では言わせないはずだ。

 最初から馬鹿な民衆を騙して、躍らせるためにやっているからこそ、そんな事を平気で公言できるのだ。

「俺は誰も信じない。アメリカも、部下も、仲間も。この世で唯一信じられるのは金だけだ。金は嘘をつかない。金は支払えば必ず対価が得られる。人間は常にむさぼり、他人を騙そうとし、少しでも多く人からむしりとろうとする。仲間が苦しんでいてもたすけない。自分の事しかかんがえない。それが人だ。世の中金だ!金が全てだ!」

 やる夫は大声で叫んだ。やる夫のふところの中にはつねに札束と金貨が詰め込んである。いざというとき、これをばら撒いて逃げるのだ。ゲリラに追われたときも、これをばら撒いて逃げおおせたことが何度もある。民兵も傭兵も、目の前に金貨がばら撒かれたら我先にそれに群がる。使命なんてそっちのけだ。所詮みんな金のためにやっているのだ。

 金は人の命より重い。たった1ドルにも満たない弾丸で、ただの鉄パイプ一本で簡単に人は死ぬ。人の命は羽毛より軽い。よく、人命は地球より重いというはそれは、自分の命だ。自分の命、自分の利益のためなら、人は地球ですら、見捨てる。地球の存続より、自分の目の前の小さな欲望にしがみつく。それが人間なのだ。

 やる夫は満足そうにと知事室の窓から新宿の町並みを眺める。

「けっ、ゴミ虫のような民衆どもめ」

 やる夫は昔の事を思い出していた。自衛隊員だった父。小学校の頃学校の先生がクラス全員の前で言った。

「阿保神君のお父さんは自衛隊員です。人殺しです。みんなかわいそうだから、この人殺しの子供となかよくしてあげてくだささいね」

 それから壮絶なイジメがはじまった。やる夫はそれでも耐えた。しかし、弟は耐え切れずに自殺した。葬儀の日、やる夫の机の上には花束と「人殺しの子供が死んでおめでとう」という張り紙がしてあり、クラスのみんなが葬式ごっこをしてお祝いした。

 それでもやる夫は耐えた。誰も助けてはくれなかった。先生も薄ら笑いを浮かべていた。

 そんな先生でもアフリカの子供たちが飢えて死んでいく光景を見て号泣してポロポロ涙をこぼす。

 目の前で子供が集団イジメで殺されても薄ら笑いをうかべている人が。

 結局、その先生は、アフリカのかわいそうな子供たちのために涙をながせる人道主義者の自分に酔っているだけなのだとやる夫は解釈した。

 この世の善などすべて偽善であり、人は自分の欲のためだけに生きている。正義も忠義も、人を騙して利用するための道具にすぎない。だからこそ、その欲を司る金にすべての人は服従するのだ。

 そして、その金に服従し、奴隷になるのが愚かな大衆であり、金を使いこなし人の上に君臨する者が支配者なのだ。

 やる夫はその支配者となった。そして、これからも狡猾にこの国を支配し続ける。

 アメリカの犬である服部平蔵、小鶴井新次郎、駄目新蔵らがいくら揉み手をして擦り寄ってきもて信じなかった。

 アメリカの高官が笑顔で握手を求めてきても信じなかった。みんな、やる夫を騙して寝首をかくために近寄ってきているのだと考えていた。

 だからこそ、東京の密集した地域に、アメリカと中国と韓国に領土を割譲した。いままで、これらの国は手を組んで、徹底的に日本を非難し、莫大な賠償金を要求し、日本人はそれに土下座し、金を貢ぎ続け、罵倒され、踏みつけられ、愛想笑いを浮かべて媚びてきた。だから、日本人はこれら支配者たちは一致団結して徹底的に日本を搾取し、

けっして仲間割れをしないと考えているようだった。しかし、やる夫は知っていた。韓国自身、いくら金をもうけ、

世界中に韓国製品をいきわたらせても、韓国の一般民衆は一向に豊かにならないことを。

 すべて、財閥が自分たちの保身のために、株式をアメリカの投資化に無制限に譲渡し、ほとんどの利益をアメリカに吸い上げられていた。中国の民衆も、庶民は安い給料で奴隷のように働かされていた。ほんの1%の金持ちだけが豊かになっており、その幻想を見せられ、日本はその不満の目をそらすための道具にすぎなかった。だからこそ、日本の狭い地域に密接して領土を割譲、そこに既得権益をばら撒けば、お互い争い、混乱が起きるとやる夫は考えていた。

 日本は長年の戦乱でボロボロになっていた。日本がこれらの大国に対して指導権をとることはできない。ならば、

これらの諸国を利益で釣り、いがみ合いと混乱を作ることによって、これらの国を日本が、やる夫の都庁軍がコントロールすればよいのだとやる夫は考えていた。駄目新蔵は、ひたすら日本の利益を外国に切り売りし、何も考えずに、私利私欲でアメリカにこびへつらいさえすれば、大きな利益をもらえると思っている。アメリカのペットであることが日本人がいくら苦しんでも、のたれ死んでも、自分だけ利益が得られると思っている。しかし、日本が完全に、他国の植民地になったとき、それら祖国を裏切った者たちは真っ先に殺される。モンゴルで共産主義革命が起こったときも、ロシアで共産主義革命が起こったときも、そうした裏切り者は真っ先に殺される。祖国すら裏切るものは、他の全てを利益のために裏切るクズだからだ。

 やる夫は違った。やる夫はこれら諸国を混乱に引きずり込み、スキを見て日本の真の自立を成しえようと目論んでいた。そのためには、どうしても方月祭童を殺してレジスタンスを殲滅せねばならなかったのだ。

 やる夫は強く拳を握り締めた。


 やる夫は都庁を出て戦車に乗りこみ、傭兵部隊と共に本郷通りに向かった。服部平蔵との携帯電話での会話で、散々本郷通りに向かう傭兵部隊はオトリであると言っている。もし服部平蔵が祭童軍に何も報告していなかったとしても、この情報は祭童軍側に傍受され、祭童に伝わっていることだろう。ならば、祭童軍はユーベルトートと朝比奈みるく、松平武士の部隊を本隊だと考え、そちらに主力を向けることだろう。やる夫にとって、批判的な三勢力を始末できる絶好の機会でもあった。

 颯爽と風を受け、最新鋭の戦車の上から眺める東京都の風景は格別だった。と、その時やる夫の携帯電話が鳴る。

 やる夫はポケットに手を入れるが、またもや猫のストラップの耳がチクリとやる夫の手に刺さった。

「チッ」

舌打ちしたやる夫はその猫の形態ストラップのヒモを引きちぎり、猫のプラスチックの人形を戦車の中に投げ捨てた。

「都知事だが、何だ」

「やる夫っち!」

 朝比奈だった。

「なんだよ、忙しいんだから後にしてくれ」

「方月軍で一番強い佐久間盛をぶっ殺して東京駅取ったぴょーん」

「なっ!」

 やる夫は息を呑んだ。東京駅には祭童軍の最精鋭部隊二個師団が駐屯ていたはず。

「ねえねえ、褒めて、褒めて」

「あ、ああ、よかったな」

「ご褒美に帰ったら一緒にトランプしてー、ねーひさしぶりにあそぼうよ~」

 朝比奈の甘えた声が聞こえてくる。

「そ、そうだな、今度の戦いが終ったらトランプしよう」

「やったー!」

 やる夫は電話を切った。

「やばい、やばい」

 やる夫は慌てて戦車の中にもぐり、さっき捨てたばかりの猫のストラップを拾い上げ、ちぎれたヒモを結びなおした。このストラップは朝比奈がやる夫にくれたものだ。クレーンゲームでハムスターを取ってやったら、ものすごく喜んで、ガチャガチャで取った猫のストラップをくれたのだ。

 当時から朝比奈の武力は評判となっており、その力を利用するためにやる夫はずっと朝比奈をつけていたのだ。

「猫大好きなんだよ!ありがとう!」

 そう言ってやる夫が大げさに喜んでやると、朝比奈も目を丸くしてぴょんぴょんはねて喜んでいた。

「こいつ、ちょろいな」

 そう思った記憶がある。しかし、ひとたび怒らせたら怖いのも朝比奈だ。朝比奈にはまだ利用価値があることを再認識したやる夫であった。

 しばらくしてユーベルトートから電話がかかってくる。方月敏が一個師団で守る神田をたった三百人で陥落させたということだった。

 やる夫は愕然とした。たった三百人で一個師団壊滅。これは憂慮すべき事態であった。こんな大戦果の業績を残してしまったら、絶対にユーベルトートにも朝比奈にも松平にも、それなりの権利と立場を与えなければならない。人を信じてはならない。人は裏切るものだ。この世の中で信じられるものは金だけだ。人は皆、私利私欲のためだけに生きている。将来、ユーベルトートと朝比奈と松平が手を組んでやる夫を殺し、権力を奪う構図が目にうかんだ。やる夫を殺したあと、おそらくこの三人は醜い権力争いで殺し合いをするのだろうが、そんな事はどうでもよかった。こいつら三人にこれ以上手柄を私、金と軍権を与えてはならない。

「ユーベルトートよ、お前は今から交通の要所である新橋駅のモノレール廃墟の防衛に回れ」

「はい」

 ユーベルトートは素直に命令に従った。次に朝比奈に電話を入れる。

「お前は今から大井町に撤退し、駅前の半球ビルの防衛に当たれ」

「は?何いってんの?やる夫っちを守るために、大きな犠牲を出して、早く東京駅を陥落させたのに、撤退したら意味ないじゃーん!」

「いいから、大井駅に行け!」

「何いってんだよ!いままでずっと三人で行動してたじゃん、ユーベルトートと私がいないと危ないよ!」

「だまれ、命令に従え!」

「あ、怒ってる?前、バカ夫君をつれていったから怒ってる?ごめんね、あのね、やる夫っちが猫大好きでしょ、私も猫大好きなんで、あげるのはツライんだけどね、またガチャガチャで可愛い猫タンのキーホルダー当てたんだ!みるくちゃんの一番のお気に入りだけど、やる夫っちにあげるから機嫌なおして」

「いらねえよ、そんなもん」

「そんなもんてなんだよ!あ、まだ怒ってるんだね、ごめんね、怒んないでよー、昔みたいにみんなで仲良くババヌキしようよー、こんなゲームつまんないよーいっぱい人が死ぬし、仲良しと遊べなくなるんだよ、もう、こんなつまんないゲームやめようよー、いっしょにトランプやろうよー。人殺しなんてクソゲーなんてやめようよー」

「だまれ!命令に従わないと解雇して追放するぞ!」

「うううう……」

 電話の向こうで朝比奈のすすり泣く声がきこえた。

「くそが!」

 やる夫は電話を切って、朝比奈を着信拒否にしたあと、朝比奈の電話番号をアドレス帳から削除した。

 天下が目の前にあるのだ。そんなくだらない子供のざれごとにはかまっていられない。

 戦車に備え付けの無線に連絡が入る。

「ドック・チャーリーフォック、ドック・チャーリーフォックス、御茶ノ水方面の大草原で狐の群れを発見」

「くくくっ」

 やる夫は笑いをかみ殺した。やる夫の軍の兵力は圧倒的だ。ランチェスターの法則によれば、武器の性能が同等である場合、兵力が多いほうが勝つ。それを覆すためには、敵の意表を衝く奇襲攻撃をするしかない。しかし、兵器が発達していない古代の戦いならいざしらず、本日は集中豪雨が降らないことはちゃんと確認して軍を進めているし、空にはヘリコプター部隊がいる。祭童軍の動きは上から丸見えなのだ。戦国時代の織田信長に自分を似せて、通路の横合いから奇襲攻撃をかければ勝てると思っているのだろうが、すでにそちらの動きはヘリから丸見えだった。

 御茶ノ水の近くにある巨大な神社の中に部隊を隠し、やる夫の戦車が飛び出してきたところで襲いかかる算段だろう。ならば、あえてその前を通ってやろう。そして、敵が突進してくるところを、戦車と装甲車のマシンガンで集中砲火をあびせかける。日本軍の突撃戦法はすでに第二次世界大戦の南方戦線において、アメリカ軍の機関銃の集中放火でやぶられている。とっくの昔に破られた戦法だ。所詮、素人の集まりがプロの軍人に勝つことはできないのだ。


 予想通り、本郷通りを秋葉原に向かって侵攻するさい、一切の抵抗はなかった。そして、敵の潜伏している御茶ノ水方面の巨大神社の青銅色の鳥居が見えてくる。

「突撃ーっ!」

 女の叫び声が聞こえて、小銃を持った祭童軍の兵士たちが戦車に向かって突撃してくる。それを待ち構えていた都庁軍はその兵士たちに一斉に機関銃の集中砲火をあびせかける。たまらず、祭童軍は神社の中に逃げてゆく。

 その中に派手な紫色の鎧を着た祭童らしい娘の姿もあった。

「逃がさんぞ!突撃!」

 やる夫は号令をかけ、神社の鳥居を崩して通路に突入する。

「神社の鳥居を壊したな!祟りがあるぞ!」

 逃げながら娘が叫んだ。

「ほざけ!力こそ全てだ!」

 やる夫が叫んだ。

ガボッ

 変な音がして戦車が沈む。神社の前の通路のアスファルトの下に穴が掘られており、戦車の重みでアスファルトの中に戦車がめり込んだのだ。

「それ、今だ!」

 娘の号令と共に逃げていた祭童軍の兵士がきびすを返して突撃してくる。

「戦闘ヘリへ、敵を一掃せよ!」

 やる夫は無線に向けて叫ぶ。戦闘ヘリがと空からバルカン砲で祭童軍の兵士たちをなぎ倒す。そこに居た娘も足に被弾し、片足をふっとばされながら神社の中にはいずってにげてゆく。

「決着ついたな」

 やる夫は戦車から飛び降りて娘に近づく。都庁軍の歩兵部隊もそれに続く。

 血だらけではいずってゆく娘をやる夫が見下ろす。

「お前が祭童か?」

「そうだ!」

 娘はやる夫をにらみ付ける。

「愚か者め、死ね!」

パン!パン!パン!

 やる夫は娘の心臓に正確に弾丸を三発打ち込んだ。そして、携帯電話を取り出しシャメを撮り、松平武士に送信する。

「おい、祭童を殺したぞ、こいつ、祭童だよな」

「あ?え?」

明らかに松平は動揺している。しかし、人生なんてこんなもんだ。予想通りにはいかない。

「おまえ、都庁軍に入っておいてよかったな」

「あの……違います」

「は?お前何言ってんの」

「これは、この神社の神官の娘の千秋です」

「何だと!?」


うおおおおおおー!

 怒涛のような叫び声が聞こえる。

「敵襲!すぐに戦車をこちらへよこせ!」

「落とし穴に落ちた戦車が邪魔で神社の中に戦車が入れません!」

「何だと!おい、無線、ヘリは?!」

 部下がやる夫に無線を渡す。ヘリからの無線報告が入る。

「大変です、そこの神社の東側にある階段の周囲にある民家から大量の兵隊が湧き出しています」

「なにいいいいいいー!」

ドウン!

 大きな音がして頭上のヘリがキリモミしながら落ちてゆく。

「バ、バカな、これは地対空ミサイル。こんなものを祭童が持っているわけが……アメリカめーっ!」

 やる夫は叫んだ、都庁軍と祭童軍を徹底的に戦わせ、内戦を長引かせ、大量の難民を発生させ、それを

移民としてヨーロッパやアメリカに受け入れ、最低賃金の労働者として使おうとするアメリカの意図をやる夫は理解した。

「くそっ、人の命をなんだと……、いまさらだな。所詮、世の中金だ!」

 やる夫はふところに手をいれた。目の前に祭童軍の兵士が突撃してくる。

「そら金だ!黄金だ!お前らこれがほしいんだろ!」

 やる夫は祭童軍の兵士に向かって札束と金貨をばら撒いた。しかし、祭童軍はそれお踏みつけて突撃してくる。

「何いっ、どうしてお前ら金をつかまない、お前らが一生かかっても手にできないような大金だぞ!金貨だぞ!」

「お命頂戴!」

銃剣で切りつけてくる兵士をやる夫は日本刀で真っ二つに切り裂く。

「覚悟!」

 槍で衝いてくる兵士の槍先を切り飛ばし、刀でノド元を突く。

「何故、機関銃で俺を殺さない?お前ら狂っているのか!」

「刀の相手に機関銃など卑怯な事ができるか!」

「笑止!」

 やる夫は前に出て一人、二人、日本刀で切り伏せる。血油がべったり刀についてもう切れない。完全に殴り倒して殺している。

「こいつ、強いぞ」

 やる夫を取り囲む兵士たちがにじり寄る。

「ニラニラすんぞーおらあああああああー!何でお前ら金をつかまねえんだ!世の中金が全てだろうが!みんな自分のことしか考えてねえんだろうが!そんな腐った世の中で、金だけは、金だけは俺を裏切らないはずだったんだよお!金さえも俺を裏切んのかー!こんな世の中くそだー!誰も、誰も、しんじられねえのかー!」

 やる夫は近づく兵士を一人ずつ刀で殴り倒して殺してゆく。

「何だこいつ、無茶苦茶強いぞ!」

 祭童軍の兵士がうめく。

「そうだ、朝比奈」 

 やる夫は片手に刀を持ち、ポケットから携帯電話を取り出した。

『朝比奈の電話、電話番号、出ない!、くそ、手打ちかよ、くそっ、思い出せねえ、くそおおおお!」

「死ねえええええ!」

 一人の兵士がとびかかる。それをやる夫は素早くかわして頭を殴り倒す。その拍子に携帯電話にゆるく結んであった、朝比奈からもらった猫のストラップが飛び跳ねて石畳に転げ落ちる。

「三人一緒に行くぞ!」「おう!」

 三人が同時に祭童軍の兵士がとびかかる。

「あ、みるくちゃんからもらった猫のストラップが!」

 一人の兵士がそれを踏み潰しそうになる。

「やめろ!それは俺んだぞ!」

 やる夫は刀を投げ捨てて兵士を突き飛ばす。そして、両手でそのストラップを握る。

「ああ、みるくちゃんのストラップ」

 やる夫は笑った。すでに錯乱しているようであった。

 後ろから一人の兵士がやる夫に馬乗りになって後頭部に短刀を突き立てる。

 ピューッと一筋の血が宙にとんだ。

 やる夫は息絶えた。その顔は笑っていた。




壮絶な戦いであった。

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